誓いの夜明け

 冷たい夜が終わりを告げるように、空は蒼く澄み始めた。

 疎らに瞬く星々も柔らかな光に包まれ、そっと姿を隠していく。

 紺青に染まっていた白い雲もやがて曙色に焼けていた。

 風も徐々に暖かくなり、道端に咲く花にも光が宿る。


 そんな夜明けが大嫌いだった。

 また、苦しくて、辛くて、嫌な一日が始まってしまう、合図だったから。


「……でも」


 今までとは違う。

 そう信じ、胸元で拳に思い切り力を入れ、天高くを目指して昇り始めた太陽に向かい、強く睨み付ける。


 これは、決別の誓いだ。


 明日が怖くて、怯えて、自分の殻に籠り、どうしようもな苦なってしまった自分との別れの朝。

 明日を目指して走り、後ろを振り返らず、何を言われようとも臆さない強い自分との出会いの朝。


 光の薄れていく明けの明星に向かい、想いの強さを叫ぶ。


「絶対に、誰にも、負けないっ」


 何を言われてもいい。

 馬鹿にされてもいい。

 けれど、夢だけは笑わせない。

 それが例え親であったとしても。


 幸せにならなくてもいい。

 お金にならなくてもいい。

 けれど、誰か一人でも感動をあげたい。

 私自身の力で。


 制服はシワだらけでで、髪もボサボサ。靴は泥で汚れ、真っ白な靴下まで斑点ができている。いつもなら気になって仕方ないはずなのに、今は不思議とどうでもよかった。

 度の合っていないメガネを外し、地面に落とす。

 こんなものは、もういらない。


「私は私。それでいいの」


 ふと、川を滑り、野を走り、坂を駆け上がった風が背中を押し、そのまま淡く、青い空へと飛んで行った。「前に進みなさい」とでも言うかのように。

 そんな風を追いかけるように、足を一歩、また一歩と動かす。段々とペースは上がり、気がつけば走り出していた。


 私は進む。

 もう、立ち止まったりしない。


 決意を胸に夢へと歩み出した私の顔には、自然と大きくて不器用な笑みが浮かんでいた。

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