第4話

ジリジリと迫り来る奇妙の元から救ったのは、数少ない選択肢の中でもダークホース的ポジションに置かれている心通わぬ同僚こと達川重次からの一本の電話であった。


うなされ具合を物語るように散らかっているベッドの上で、これまた奇妙とも言える不可解な呼び出しに応じるべきかどうか自問自答している。


なんせ今日は地獄の工場勤務デイから外れて、夢のひと時を過ごすことが許される日曜日なのだから。


業務連絡以外で人と会話する事がツチノコを見つけるのと同レベルの貴重さを誇る自分にとって、人から電話がかかってくるのは相当肝が冷えるものである。


相手が困惑に囚われているのなんてつゆ知らず、震える呼び声はたった一人のストライカーに向かって容赦なくスライディングしてくる。


見え透いた不幸を不本意ながらも手に取る。


「おーい元気か?」思わず元気なわけないじゃないか。と心の中でつぶやく。


「うーん。まあ、普通だけど。どうしたの...?」少し遠慮気味な日本語で返す。


「突然で申し訳ないんだけどさ...今日合コンがあるんだけどどうしても一人足りなくてさ...」どうやら穴埋め要員の求人がかかったみたいだ。当然応募するわけがない。


「人数が足りないとは言ったけど、決して誰彼構わず誘ってるわけじゃないよ!

どうせ呼ぶなら馴染み深い人の方が心地良いと思って。」


真偽がわからない言葉が思いの外気持ちよくて、気を抜いたらハリボテのリムジンに乗せられてしまいそうになる。


「いやー。ちょっと今日は無理かな...」

いかにも大技をだしそうな構えから繰り出された弱々しい抵抗に自分でも情けなさを感じる。


「そんな固い事言わずにさ。そこをなんとかお願いできないかな?本当に一緒に行きたいんだよ!切実に頼む。」

弱った心に甘い蜜が塗りたくられる。


もうだめだ。完全に折れた。負けてしまった。


「うん...わかった。ただ、上手く話せないと思うけどそれでもいいなら...」屈託のない卑屈を素直にぶつける。


「全然気にしないで!そういうのは何とかフォローするから!」


やはりこの男は根本から分かり合えないみたいだ。


歪みない自信のあまりの眩しさに屈んでしまうのは、もう抗う術すらない程致し方ないことだろう。理とすら思える。


脚が震えて止まらないのは今日も例外ではなかった。


これから合コンに行く男とはとても思えない、猛々しさなど毛頭もない心構えで。


堕落加減を正確に表した魅力のない体で。覚悟のない戦士が今...戦場に向かう。

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