第3話
千姿万態の花々が雄大な大地に彩りを与えている。甘く切ない香りがあたり一帯を漂っている...
色とりどりの花々が色のない俺を塗ろうとしているのか。そう感じてしまうほどの異様なメルヘンチックに戸惑いを溢しながら周囲を見渡す。
よく見ると花の下に看板が建てられている。
なになに。何が書かれているんだ。「コチョウラン。”幸福が飛んでくる。純粋な愛”」どうやら和名と花言葉が書いてあるようだ。
「ゼラニウム。”君ありて幸福”」清々しいほど艶やかな赤色をしている。「ベゴニア。”片想い。幸福な日々”」...少し胸が痛くなった。
せっかくこんな一面に綺麗な花が敷かれているのだからもっと散策してみよう。
1,2分ほど非日常に身を委ねていると少し周りの景色が変わってきた。
「ドラセナ・フラグランス”幸福。隠しきれない幸せ”」打って変わって今度は木がでてきた。
「パッッ」漫画のような擬音を心の中で纏いながら後ろを振り向くと、さっきまで確かに見ていたはずの幾千もの花々が綺麗な平地へと変貌していた。
これは...前に進むしかなさそうだ。
沸々と湧いてくる不安を抱えながら、前へと足を運んでいく。
すると、不安を運び出してから一分も立たないうちにまた先程と同じような満面の花畑が見えてきた。
不可解な状況に恐怖すら覚えてきた。
だが、脚が震えんばかりの異常事態に身を置いているはずなのに、身体は意外と冷静なもので脈拍は安定していて、どこまでも続く地平線を何も悪ぶれる事なく踏みしめている両の脚は不自然なほどに安定している。
他の何者と比べられても、臆する事なく絶大な自信を持って送り出せるくびれの下の力持ちにここぞとばかりに甘えながらまた、前に進むことにした。後ろを振り返ってもどうしようもないし不安感を促進させるだけ。
弱音をこぼし続ける自分を、虚栄で見栄を張る自分で無理やり押さえつける。
在庫切れかけのなけなしの勇気を持って勝ちの見えないチキンレースに挑む誇り高き無謀者の周りを囲む木々が、徐々に勢力を減らしてきた頃。
突然妙な香りがあたり一帯を徘徊し始めた。
これは...潮?潮の香りか!?
少しばかりのあどけなさを残した可憐の広場である花畑とは似ても似つかない海辺の香りが、づけづけと土足で踏み込んできている。
またまた奇妙で数奇な現象...
まさかこれは幻想?
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