スイカちゃん物語②『アイスクリーム』
夢美瑠瑠
スイカちゃん物語②『アイスクリーム』
掌編童話・『アイスクリーム』
お久しぶりです。太田愛蘭(おおた・めろん)です。
小学6年の女の子です。みんなからはウォーターメロンちゃん、スイカちゃん、なんて呼ばれています。
私は、スイカの甘くて瑞々しい、夏という美しくてロマンチックな季節の申し子みたいな、そういう感じが好きなので気に入っています。
私は賢くて、目元がきりっとして可愛いので、男の子たちは皆私に夢中みたいです。
・・・ ・・・
今はもう、風薫る五月になって、通学の道すがらの緑陰が、美しくて馨しくて、毎日が本当に爽やかな気分で楽しいです。
「目には青葉山ホトトギス初鰹」、という俳句があるそうですが、今みたいな初夏の、何もかもが新鮮な、そういう気分を季節の風物詩に託して、詠っているのかと思います。
通学道をミニスカートで歩いていると、通りすがりのおじさんたちが、もう中学生並みの体格の、私のスラッと伸びた足にチラチラ視線を送ってきます。
そういう視線が快い、というほどにはまだ成熟していない私です。
・・・ ・・・
今日は日曜日で、お母さんに頼まれて、また街まで家族四人分のアイスクリームを買いに行くことになりました。
予算はちょっと多めに持って、お父さんに買ってもらったポシェットに入れて、
トコトコと、住宅街の碁盤の目のようなおなじみの道筋をぬけていきます。
この辺はかなり山の手なので、途中でうぐいすの啼く声が聴こえてきたりもします。
埃っぽい街中に出たので、アイスクリーム屋さんに向かって、目印の教会を目当てに歩いていきます。繁華街の少し外れにキリスト教の教会の尖塔があって、その隣に、美味しいと評判のアイスクリーム屋さんがあるのです。
トコトコ歩いて、少し汗ばんできたころにお目当てのお店に着きました。
「Winnie The Pooh」というそのお店は、最近出来て、全て手作りの新鮮なソフトクリームが自由なトッピングで注文できるというところが人気になっているのです。
空色のアイスクリーム・スタンドはちょっと瀟洒で、涼しげな空気が漂っていました。
店内に一人先客がいて、マスクをしたおじいさんみたいでした。
「こんにちは。ソフトクリームにチョコレートとアーモンドをトッピングしたのを
四つ戴けますか?」
「はーい。ちょっとお待ち願います」
ソフトクリームのようなアップにした髪型の可愛いお姉さんが、慣れた手つきでアイスクリームを作ってくれます。
もらったアイスクリームを保冷ケースにしまった後、店内のメニューを見ると、「スペシャルトッピング 800円」という項目があります。
あと千円札が一枚残っていて、お使いのお駄賃として使ってもいい気がしました。
「スペシャル・トッピングって何ですか?」
「特大のアイスにたっぷりの苺と蜂蜜をまぶしたものです」
「それじゃ、それください」
いただいた「スペシャル」を手に持って、ベンチに座って、さて食べようとしました。
アイスは苺と蜂蜜の香りがプンプンしていて、お花畑みたいでした。
一口舐めようとしたときに、ふと気配を感じて、目を上げると、さっきのおじいさんだと思った小柄な人影が、コートやらマスクやらを脱ぎ捨てて、荒い息を吐きながら、私のアイスクリームを狙ってすぐそばに立っているではありませんか!
そうしてそれは真っ黒で毛むくじゃらで、獣臭いにおいの、大きなツキノワグマだったのです!
屈強なクマは、よだれを垂らしながら、くぐもった声の片言で喋りかけてきました。
「お、おらこの蜂蜜に目がねえだよ・・・ひ、ひとくち味見させてくれよ・・・」
目つきがひどく兇暴に見えました。
「キャーーーー!!!」
私はアイスを放り出して一目散に逃げだしました。
… …
Oh Jesus ! なんてこと!
…そうして、それから私はけっしてそのアイス屋には入れない女の子になってしまったのです。
<終>
スイカちゃん物語②『アイスクリーム』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
所謂、女性遍歴?/夢美瑠瑠
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 15話
UFO/夢美瑠瑠
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 4話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます