第18話 あの子が隠れてやった事

 シャトナー伯爵領都エルトプライムバーグは、ここヒガンザタンサラスから馬車でも6日はかかる距離だ。しかも途中には難所と呼ばれるボーレ渓谷もある。幼女の足でどうやって?


 スレインは思い出して笑う。

 あの子は巨大な狼ガイルフェンを使役していた。4聖神獣の脚ならば大した距離でもないのだろう。


『珍しいな、スレイン。君から連絡があるとは』

「ご無沙汰してます。導師」


 ギルドマスターのローンディルは、私の魔法使いとしての導師。私自身が神より授かりし職種は『魔法剣士』だったので、ランクSまで昇りつめて現在に至っている。


『導師はよせ、と言っているだろう。君は私を超えランクSまでになった。自慢の弟子だよ。だが、今は同じギルドマスターだ。同格だよ』

「私にとっては『師』です。そこは譲れません。ところで導師。先日、グレートボアの素材を持ち込んだ子供がいたと聞きましたが」


 久しぶりの連絡だ。そもそも導師はかなりの御多忙。中々連絡と繋がらない。旧交を温めたい気持ちを抑えて本題に入る。


『おお。確かにな。中々丁寧な処理をされていてな。高品質素材として換金したと聞いているが。その子が何か?』

「どんな子でした?」

『うん?え~と、あぁ、これだ。名はアイラ。銀髪ライトグリーンの眼をした、ゆくゆくは美女間違い無しと受付嬢は勿論、ウチの職員ヤロー共の注目の的だ。身なりもキチンとしていたから、何処ぞの貴族の嬢ちゃんか、という噂だったが。この街の周りはそれなりに魔物も多い。貴族連中の狩場にもなっているし、子供が小遣い程度の気持ちで換金に来る事もあるからな。さして気にも留めなかったが。この娘がどうかしたのか?』


 本当に頭の良い子だ。

 ココならばランクBのグレートボアの素材を持ち込むと大騒ぎになる。が、領都エルトプライムバーグならば日常茶飯事だ。しかも忙しい時に持ち込むと、勿論鑑定はしっかりとやるが、子供だからと不審に思う暇もない。しかもあそこのギルドなら貴族の子が換金に来る事は間々有る事だ。


御領主シャトナー伯から聞いておりませんか?此処ヒガンザタンサラスで上役のみに噂になっている」

『アイラ…、そうか、アイラ=サイモン。成る程。ではあの子が、【聖獣使い】かもしれないというサイモン公爵家の棄子か。フム。スレイン。君はかなりあの子に感謝しなくてはならないかもな』

「は?と言われると?」

『あの子が持ち込んだのはグレートボアだけじゃ無い。オークキング以下オークの素材を沢山持ってきてる。君達の知らない間にオークの集落が出来ていたのかもしれないぞ。彼女はそれを人知れず潰した。勿論自身の生活を守る為だとは思うがな。何せオークは5歳児でも女と見れば性交しようとするからな』

「オークの集落…。そんな…」


 そんなものに襲われたら、この街の女性は根こそぎ奪われてしまうかもしれない。いつの間に。


『まぁ、ここまて秘密裏に事を成してるところを見ると、余程人目に触れたく無いし、噂になるのもゴメン被ると言う事だなぁ。確かに【聖獣使い】なんて職種がバレた日には、どんな騒ぎになるか解りゃしないしな。スレイン、君の役目は益々重大になってきているぞ。あの子がそこに住んでいる事で、ヒガンザタンサラスはかなりの恩恵を受けている筈だからな』


 全くだ。

 既に彼女は、この地に豊穣をもたらしてくれつつある。

 その上、高ランクの魔物まで駆除してくれていたとは…。


『コチラからも御領主には報告しておく。オークの集落は裏付けの為にも確認しておいてくれ』

「わかりました。感謝します、導師」


 確認出来て良かった。


 後日、ランクCの冒険者パーティと同行し確認がとれた。

 街からそう遠くない森の奥。

 城塞か?と思う程の堅牢だったと思われる集落があった。

 叩き壊され、燃やされていて、原型は想像するしかないが、周りの柵にしても広大だし、中央の建物跡は屋敷と言える規模すらあった。


「ギルドマスター、これは?」

「領都のギルドから報告を受けた。オークの集落。これ程大きなモノだったとは」

「領都の。だからか。あそこならランクAのパーティも幾つかいますからね」


 アイラ…。

 やはり君の使役しているのは4聖神獣なんだね。


 今度こそ確信したよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る