第11話 生きていたんだね

「あんなお父様の怒声…。はっ、こうしてはいられませんわ」


 今しがた聞こえた声。

 アイラが生きているかもしれない?


 リディアは急いでポールの元へ。


 バタン!

「お兄様!」

「ノックもせず男性の部屋に駆け込むなんて。淑女にあるまじき態度だよ、リディアよ」


 貴公子然として佇むお兄様は、妹の私ですら見惚れてしまうわ。っと、その様な事を言っている場合ではありません。


「お叱りは後程。先程お父様とレスとの会話を聞いてしまったのですが、アイラが生きているかもしれないって」

「何だって?本当に⁉︎」


 あぁ。お兄様の慌てる顔など、あの時以来です。


 そう。アイラが病死したと聞かされた時…。



 あれは1ヶ月程前の事。

 王都にいるお父様の手紙で。


「な、あ、アイラが流行病で亡くなった?」


 領都から王都の教会で鑑定を受ける事になっていた妹を連れ、お父様達は家を出たのですが、そのお父様から突然の文が送られてきたのです。


 そこには、王都でアイラが流行病を発症したと。即典医殿にお見せしたが病の進みが早く手の施し様がなかった事が書かれていました。


 確かに侍女メイドの娘でしたが、アイラはとても愛らしく賢い妹で、私もお兄様も愛しく思っていたのです。


 手紙を従者からむしり取ったお兄様は、詳細を読んで絶句されました。


「流行病だから、王都にて埋葬したと…。父上は私達にお別れもさせぬおつもりか!」



 帰ってきたお父様は開口一番、

「あの子の事は忘れろ」

と、それだけだったそうです。でも私もお兄様も、アイラが死んだなんてこれっぽっちも信じてはおりませんでした。


「王国の西、ヒガンザタンサラスの近くの森?沼地っておっしゃってましたわ」

「そこはシャトナー伯の領地だ。領都ではないにしてもそこそこ大きな商業都市だ。でも、それだと難しいな。我々サイモン家の者が訪ねるのは不自然な場所になる。貴族の派閥で伯は貴族派、ウチは国王派だ。せめて中立派の地ならばよかったものを」


 詳しい事はよくわからないのですが、この国の貴族は3つの派閥に分かれてるんだそうです。


 国王陛下を中心とする最大派閥、国王派。

 貴族共和制を推し進める貴族院の集まり、貴族派。

 その間を取り持つ少数派たる中立派。


 国王派と貴族派は兎に角仲が悪いのです。

 我がサイモン公爵家は国王派の重鎮。もう取り纏めの顔役と言えるとか。

 で、シャトナー伯爵は幾つもの商業都市を有する、財力ではウチ公爵家に勝るとも劣らない貴族派の重鎮です。


「とは言え、表立って戦争している訳でもないし、確か来月頭には大規模な市も開催される筈。それに合わせて来訪するのが一番自然だな」

「そんな。お父様はあの子アイラを亡き者にしようとされています。直ぐにでも向かうべきなのでは?」


 考え込んでいたお兄様は、何やら文を認めると何処かへ送られていました。


「とりあえず影に動いてもらうよ」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「アイラ様でいらっしゃいますね」

「その紋章と…絵はお兄様ですか?」


 街に買い物に来た私の前に現れた冒険者風の年配の方。見せられた手紙にある紋章の横にある剣の絵には見覚えがある。


 ゆくゆくは手にしたい、そう言っていた「王者の剣」。お兄様ポールの密かな夢。


 この剣を知る者は3人しかいないの。

 私達兄妹、3人しか…。


 だから、この絵を見て「お兄様」と言っちゃった私は、その冒険者に『アイラ=サイモン』だって暴露してしまってる。


「明後日、また伺います」

「分かりました。お兄様への返書はそれまでに認めます」


 どう繕い様も無いし、お兄様は多分味方。本来のアイラの記憶も私の中にはしっかりとある。


 クヮアー『アイラ、よかったの?』

 ピィー『ポールって、確かアイラを溺愛してる兄って神様に聞いたよ』


「うん。私の中にもその思い出があるみたい」


 でも、サイモン公爵家にバレるの、思ってた以上に早いよ。


 ええい!あたって砕け…ちる‼︎


 ピィー『ちっちゃダメだと思う』

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