第33話 友達

「助けてくれるって言ったよね?」


 アルは微笑む。

 肩に置かれたカイの手が、痛いくらいに食い込む。


「100歩譲ってフィオが必要ならわかる。けれど、スペアとしてこいつを必要とするなら俺は認めない」


 ……ああ、そうだ。

 カイが言葉にしてくれて、モヤモヤしている自分の気持ちがはっきりと見えた。


「助けたいよ。アルは大事な友達だから。けど、わたしはアニスの代わりにはなれない」


「こんなに頼んでも?」


「どんなに頼まれても」


「ふたりとも素直すぎだよ。これで僕がカイを人質にとって言うこと聞けって言ったらどうするの? 一旦言うことを聞いて隙を見て逃げるぐらいのことは考えなよ」


「「友達だから」」


 わたしとカイのセリフがかぶる。


「はっ、なんだよそれ」


 アルが両手で顔を隠した。

 とても短い間だったが、アルと過ごした時間はわたしの心に色濃く残っている。


「こんな酷いお願いをしたのに、まだ友達って思うの?」


「アルは相手の気持ちをちゃんと聞く人だから」


「お前が王様になるってのは想像がつかないけど、お前が治める国ならいてもいいかな」


「はっ」


 アルが力が抜けたように笑う。


「後ろ盾っていうか、アルが手柄たてたり力をつければいいんでしょう?」


「簡単に言ってくれるね」


「大丈夫、アルならできるよ」


 アニスの振りはしたくない。侯爵令嬢に祭り上げられるのも嫌だ。けれど、アルの助けにはなりたい。わたしは思い出す。


 確か小説では第二王子が王太子となってから割とすぐに自然災害が起き、そこに若者たちを行かせたために、人手不足となりいろいろ滞ってしまう。それが第二王子を王太子にしたからだと軽い暴動が起きた。それを収めるのが王太子になってから初の試練だった。

 小説のストーリーは大きく変わっているけれど、ここにきてまたわたしのスペア話がきたように所々で元の話に近づけるような修正がかかっている気がする。だから自然災害は恐らく起こるだろう。


「アル、適材適所だよ。覚えておいて。人が足らないなんてことはない。高齢の人も子供も見合った仕事ならできるから」


 山間のギルドでは退職した人たちが生き生きと働いていた。力仕事だったり、速さを求められたらそれは若い人に負けるだろうけど。子供たちだって、ちゃんと働ける。それはストリートチルドレンだって、隠れ里だってそうだった。働き盛りの大人のような働きはできないけれど、角度を変えれば子供の方が得意なこともある。


「……そういえば、君たちの住む村の隣の街で流行っている変わった便利なものはフィオの考案かい?」


「さあ、どうかな?」


「むしがいいけれど、僕に提供してくれる?」


 カイと顔を合わせる。

 隠れ里では自分たちが作り上げるもので暮らせていけるように、物づくりをしている。もうちょっと資金や、わたしたちぐらいの年代の子が多くなれば、もっといろんなことができるんだけど。

 その中で、もっと手があれば簡単にできるものをアルにそっくりそのままあげてもいいだろう。人手があった方がよりいいものができるし、安く提供できるはずだ。

 わたしはバックから見本を取り出す。


「これなんか、どう?」


「女性が喜びそうだな」


「機能的なんだよ」


「ただ作るのに人手がいってやることを分担してやらないと、時間だけかかりすぎるんだ」


「なるほど」


 たとえ喧嘩した後でも、許しあえばすぐに仲の良かった時の空気に戻れる。それが友達だと思う。アルとカイとわたしは、友達だった。


 こうなると思ってた、とアルは言う。わたしはきっと仮の婚約者には収まらないだろうと。でも、どう見ても、断わられてほっとした表情だよ。


 第二王子とアニスはもうすでに外国のサナトリウムに向かっているらしい。少ししたら視察に婚約者を連れて向かう途中に事故で命を落としたと知らせが巡り、アルは慌しくなるとのことだ。

 だからその前にもう一度会いたかった。運命を確かめたかったと言われた。


 わたしたちは第一王子が罪を犯したとする手紙を落とすことを選ばなかったし、運よく事故から生き延びた公爵令嬢がアルの婚約者に収まるルートも選ばなかった。でもそれで良かったと、アルは笑ってくれた。婚約者は手に入れ損なったが、友達をなくさずすんだと。


 最後に鉄格子の間に手を入れて握手をした。元気で、頑張ってとエールを送りながら。


「カイ、しっかりつかんで放すなよ」


 アルがそうカイにけしかけた。



 黒マントの男たちの先導で馬車にゆられ、村に帰ってきた。

 長いこと連絡もせずの行方不明だったので、出て行ったのかと思ったとみんなに泣かれた。

 いつの間にか、ここがわたしたちの居場所になっていた。

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