第8話 イーストチルドレン④生活魔法

 毛布などを干したりして、中も片付けて掃除をする。ミケがいつもこうやって拭いてくれてるからどこも綺麗なんだね。


 掃除が終わるとひとだんらくらしい。休憩というので聞いてみることにする。


「あのさ、ミケは魔法って見たことある?」


 異世界とわかってから、めちゃくちゃ興味があったことだ。


「魔法? ああ、魔術のこと?」


「魔術?」


「魔術師さまは国で5人いるかいないかだろう? 魔術なんて見たことないよ」


 そうか、特別なものなのか、残念!


「フィオはもしかして生活魔法のことを言ってるんじゃないか?」


 木の枝をナイフで削っていたカートンが思いついたように言った。


「生活魔法?」


 素敵な響き!


「え? 生活魔法はそりゃ使うから」


「使えるの?」


 ばっと身を乗り出してしまい、前のめりすぎたようでミケが体を引く。


「見たことないの?」


 うんうんとわたしは何度も頷いた。


「おれは風の適正があるから風を使える」


 ミケが人差し指を立てる。その先の景色が揺らいで優しい風が届いた。


「今の、ミケがやったの?」


「そうだよ」


 ニコッと笑う。


「すごい、すごい、風の魔法!」


「え、すごくないよ。魔力だってそんなないし。カートンは火の魔法を使えるよ」


 ばっと振り向く。

 カートンも人差し指を立てるとその上に炎が灯った。


「すっごい!」


「フィオは魔力がないの?」


「オレ? オレはどうなんだろう、知らない」


「え? 5歳で教会に行って調べなかったの?」


わたしは首を傾げる。確か、そんな記憶はないと思う。家から出なかったもんね。


「じゃあさ、教会に行くといいよ。適正がわかるようになるから」


 へーーーー。もし、魔法が使えたらいいな。


「風と火と、あとどういうのがあるの?」


「水、土、光ってとこかな」


「光って灯りをつけられるの?」


 というと笑われた。


「癒しとか病気を治したりするんだよ。貴重だから、魔力が少なくてもすっごく大事にしてもらえるよ」


 へぇーー。と無駄話もひとだんらくしたところで、ミケは森に行くという。

 冒険者ギルドに登録していて、薬草を採取するそうだ。わたしも行きたいと一緒に行くことにした。カートンからミケにわたしはまだ小さくてミケみたいには歩けないだろうから、遠くには行くなと忠告されていた。


「ごめんね、お荷物で」


「おれだってそんな深いところまで行くつもりないし、問題ないよ」


 ミケは森で注意することを教えてくれた。あまり深いところまで行くと動物も出てくるし、もしかしたら魔物もいるかもしれない、と。


「魔物? 魔物がいるの?」


「え? そりゃいるだろ」


 当然のように返される。

 魔物のいる世界なんだ。ビクビクと周りを見渡したからだろうか、ミケが安心しろと言ってくれる。そういえばカイも森は早く抜けないとみたいなこと言ってたと思い出す。


「深いところまで行かなければ大丈夫だよ。おれ、ここでは魔物一度も見たことないもん。街の近くだからな。もし目撃情報とかあったら、冒険者が討伐するし」


 なるほど、この森は生活圏内なんだ。

 ミケに探す薬草の特徴を聞く。先っぽがスーッと細くなる形の葉っぱで、その先端だけギザギザなそうだ。イガザミというらしい。木の根近くに生えることが多いというので、わたしも探して回る。探し回ったけどひとつも見つけられなかった。ミケはその間に5つもみつけていた。

 わたしはキノコや食べられそうなものをホイホイバッグに放り込んでおいた。


「今日はこれくらいにしておこうか」


「え? もういいの?」


「5つで1セットで売れるんだ。冒険者ギルドに売りに行きたいから」


 わかったと頷いて、ミケについて行く。森を出て町に入るとミケとは手を繋いだ。冒険者ギルドは中央方面ではなく、街を覆う塀側のノースとイーストの中間あたりにあるそうだ。ノースは柄が悪いらしい。だから特に気をつけるよう言われる。横道に入り込み、わりかし大きな建物に到着した。2度と来られる自信も、帰れる自信もない。


 前世の映画で見たことのあるカーボーイが集まる酒場のようなウエスタンドアになっていて、そこから入っていく。


「手を離すなよ。買取窓口はこっちだ」


 なんかすっごく見られている気がする。


「こんにちは」


 窓口の男性にミケが挨拶をする。

 わたしも倣ってペコリとお辞儀をした。


「こんにちは。今日はずいぶんちびっこいのと一緒だな」


「新入りなんだ」


 ミケは窓口の出っ張りに薬草を置いた。


「イガザミ、5つ。状態もいい。銀貨5枚だ」


 男性はミケの手に銀貨を5枚置いた。


「チビはいくつだ?」


「6歳」


「6歳か、あと1年しないとギルドには入れないな」


 頭を撫でられてびくっとする。


「悪い、驚かせたか。ほら、口開けろ、ミケもだ」


 ミケを見ると、彼は嬉しそうに口を開けた。男性がポンと白い何かを口の中に入れた。ころんと舌で転がしてミケのほっぺが膨らんだ。

 なんかくれるんだと思って同じように口を開けると、ポンと放り込まれた。

 ざらざらしてるけど飴だ。甘い!

 大きな飴はほっぺを大きく膨らます。


「ありがとう」


 ミケと声を合わせてお礼を言い、声を出したら飴が落ちそうになったので、慌ててほっぺたを押さえる。今日、初めて口にするものだし、甘いもの食べられて嬉しい。

 ミケに手を引かれてUターンすると、すっごく大きい厳つい顔したヒゲの人がわたしたちを見下ろしていた。威圧感を感じてミケの手をぎゅーっと握る。


「大丈夫、怖くないよ。ギルドマスターだ」


「一番偉い人?」


 ミケが頷く。ミケと一緒にこんにちはと挨拶する。

 でっかい人はわたしとミケの頭を撫でた。わたしの首から紐を辿ってカードを見て


「ちゃんと登録してんだな。オメーラ、こんなちびっちゃいガキにちょっかいかけるんじゃねーぞ」


と周りの人たちを威嚇する。


「いくらなんでもそんなチビにやりませんわ」


 あちこちから声が上がる。

 ミケがその間を縫うようにわたしを連れて出ていく。


「ギルマスが言ってくれたから、中で絡まられることはないと思うよ」


 と教えてくれた。


「さ、帰ってご飯の準備しようか。今日はキノコがいっぱいだね」



 1日ひとつ、何かしら料理をさせてもらった。キノコはスープに入れるよりも焼いた方が好みみたいだ。

 森で何かをとってくれば、食卓が華やぐのでなるべく森へは行っている。

 カートンに菜箸の話をしたら、わたしにも使える長さの菜箸を作ってくれた。子供サイズの普通の食事の時用のお箸も。ミケは食べる時はフォークが楽なようだが、菜箸は使えるようになっている。

 それから2、3日練習して、やっと火打ち石から火が出るようになった。わたしが生活魔法の適正を見たがっているとミケがカイに言ってくれて、休みの日に連れて行ってもらえることになった。

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