第9話 イーストチルドレン⑤適正
この世界には春夏秋冬があった。今は秋だ。
風の日、火の日、水の日、土の日、光の日、闇の日と6つの曜日を経て1週間とされ、それが5週あってひと月だ。30日でひと月、月には12人の精霊の名前がついていて、12ヶ月で1年となる。
闇の日は精霊さまに感謝するために、休日とするらしい。
闇の日がやってきて、今日はカイが教会に連れていってくれるという。わたしは昨日からウキウキしていた。なんの魔法がいいかな? いや、どれでもいい。魔法を使えるなんて夢みたいなことがあるなら、それがどんなのだって構わない。
カイに適正がわかっても口にするなと教えられる。適正はひとつな人が多いらしい。2つも稀にいるがそれ以上はとんでもないことらしく、保護者がいないのに適正が多いと大変なことになるから何も話すなよと言われる。
普通は5歳の時に教会に行き、司祭さまに祝福をしてもらうそうだ。祝福により、精霊さまが見える魔力へとチューニングされる。精霊さまの好む魔力だ力を貸してくれて、魔法として使えるらしい。水系の精霊さまが好む魔力だと水魔法が使えるようになり、火系の精霊さまが好み力を貸してくれると火魔法が使えて、それを適正と呼ぶ概念らしい。どうやって適正がわかるかというと、ステータスと唱えると自分のステータスが見えるそうだ。
ここってゲームの世界なの? だって、ステータスを見られるっていったらゲームだよね?
ステータスオープンとオープンまでつけて唱えると、自分以外からも見えるようになるので気をつけろと言われる。
闇の日の教会はごった返していた。一番空いているところに並んでみた。人気ないなと思っていると、見習いさんらしい。子供の祝福をしにきたのはわたしだけで、後の大人は光魔法で体を良くしてもらうことが目的のようだ。
わたしの番になったので、祝福をしてもらいたいことを伝える。
5歳の祝福ですねとお兄さんは笑って、わたしのおでこに手を当てて何か唱えた。
温かい風がわたしの体の中を走っていった気がした。
おお、これが祝福か。
「ステータスを見せていただければ、説明いたしますが?」
ちびっこにも丁寧に対応してくれるお兄さんに、説明はいらない旨を伝え、お礼をし、教会をでた。カイを探してキョロキョロしていると。カイに手を引っ張られる。そのままズンズン歩いて、街中の噴水のふちに座った。
「見てみろ」
わたしはステータスと唱えてみる。
おお、アイパッドぐらいのウインドーが目の前に現れた。
背景が透けている。おおーーーーー!
「カイ、大変」
「どうした?」
「読めない」
「…………」
装飾されたローマ字みたいなのの羅列でわたしには読むことができない。
一瞬ガクッと首を落としたカイが静かにいう。
「そりゃそーだな。最初は保護者に見てもらったり、教会で教えてもらったりするんだ」
「カイ、文字読めるんだよね? 見てくれる?」
「いいけど、お前のステータス、俺が知ることになるんだぞ」
「うん」
「フィオがいいなら、いいぞ」
「ありがとう」
わたしはステータスオープンと唱えた。
カイがわたしの目の前のボードに目を走らせる。
「名前:フィオナ
種族:人族
性別:女
年齢:7歳
レベル:1
1????」
急に声が大きくなる。
わたしが見上げると、コホンと喉をならして続ける。
「職業:空欄
HP:63/67
MP:538/538
………」
止まったので終わったのかなと思ったが続きがあった。
「パワー:15
敏捷性:13
知性 :50
精神力:71
攻撃:35
防御:27
回避:58
幸運:22
スキル:生活魔法(適正・特になし)」
「特になしってどういうこと?」
「……適正がないってことだろうな」
「適正がないってどういうこと?」
「生活魔法が使えないってことだろうな」
…………。
「カイ、ありがとう。帰ろっか」
カイがクスッと笑う。
「魔法、使いたかったのか?」
「うん、かっこいいじゃん。そうだ、カイは何の魔法使えるの?」
「……風」
「へぇ。いいなー」
カイに頭を撫でられる。
「魔力はすっごいあるのにな」
「魔力が多くても使えないなんてことあるんだ」
「あんまり聞かねーけどな。子供で300越えしてるなんて、適正あったら国からスカウトあるレベルだぞ」
「……そうなんだ。でも、適正ないと意味ないよね」
乾いた笑いになる。
「あとさー、フィオは魔力以外、数値が低い」
カイが言うなら、子供にしても低いということなんだろう。
「数値って鍛えると上がったりするの?」
「ああ」
そっか。なら、これから地道に上げていくようにするしかない。
「でも、フィオには悪いけどよかった」
「何が?」
「フィオは変なヤツだから、もしかして適正が複数あるんじゃないかと思ってたんだ」
変なヤツと適正が複数あるがイコールの因果関係はわからないが、カイを見上げる。
「複数なくてよかった?」
「複数あると厄介ごとが付いて回るからな」
ああ、だから人には見せるなとか散々言ってくれてたんだな。
「魔力が高いっていうのも言わない方がいい。数値は絶対に言うな。あと、レベルが1なのも気になる。5歳で魔力が通って大体始まりがレベル5なんだ。何もしなくてもレベルは10歳ぐらいまでは年齢で上がっていくはずなんだ。だから、そこも言うな」
「わたし、めちゃくちゃ低レベルってこと?」
「そうだ。わかりやすく言うと簡単に死ぬってことだ」
カイの目は真剣だ。わたしはものすごく弱っちぃみたいだ。
なんか、すっごく残念じゃない? わたしって。
わたしが下を向いたからか、カイが明るい声を出す。
「キノコに詳しいんだって?」
「ううん、オレじゃなくて、バッグちゃんがね」
と深緑色の肩がけ鞄を叩く。
「バッグが?」
わたしは中に入れて食べられるものだけ出してもらうようにしているんだと告げるとカイは吹き出した。
「賢いじゃん」
「うん、バッグちゃんがね」
「じゃぁ、森でなんか食べ物とって帰るか」
それはいいと思ってわたしは頷いた。
教会から最短の裏門から出て、森に入り、拠点に近い裏門あたりまで収穫しながら歩いていく。
いつもと違う道は新鮮だ。いつもより眩しい気もする。
足場が悪いところに差し掛かる。何かが潰れたような跡があり、これは果物?と首をひねる。なんでこんなにいっぱい?と上を見上げると、何かわからないがひょろっとした木なのに、実をいくつもつけていておもたそうに細い枝をしならせていた。
「食べられる実?」
カイは首を傾げる。
わたしが見ているとカイが石を拾い上げて実に向かって投げた。それくらいの衝撃では落ちてこない。
「あ」
「どした?」
「カイ、風魔法で落としてみれば?」
「あ?」
「風魔法であの実の付け根にシュッって風をあてられない?」
カイは驚いたようにわたしを見たが、唸って、人差し指を実にむけた。そして風を出したんだろう。
ヒュンと音がして、枝から実が見事に落ちてきた。カイがサッと動いて落ちた実をキャッチした。バッグに入れてもらって、食べられるか判定だ。
食べられる!
カイにいくつか魔法発射で果物を落としてもらう。わたしは風呂敷を広げて待機だ。手だとキャッチする自信がなかったので両手で風呂敷を持ち広げて落下地点を目指すつもりだ。なんとか果物は4つもゲットした!
帰る方向へ向かいながら食べられるものがないか目を光らせていく。
なんか眩しいなと思いそちらをみると、腰丈の草の中に何かの実みたいのが見えた。
カイに何か尋ねるとミクスという野菜だと言う。ミクスを5つゲット。
その後もなんか光っているような気がして見ると、食べ物をみつけることができた。
いつもの小川まできて、わたしはカイに相談してみた。罠を仕掛けてみないかと。
「罠?」
「うん、動物の足跡はあるじゃん? 夜に川の水を飲みにくるんじゃないかな。だからさ、穴を掘って、上に枝とか置いてわからないようにしておくんだ」
子供にはお肉も必要だと思うんだよ、うん。
みんなに相談してみようと言うことになった。
拠点にはなぜかみんないて、わたしたちの帰りを待っていてくれたみたいだ。
わたしの適正を楽しみにしていてくれたみたいだが、なかったと言うと、慰めモードになる。うん、わたしすっごく魔法を使うの楽しみにしていたからね。
みんないたのでちょうどいいと罠のことを相談してみた。土魔法はホトリスが使えるんだって。みんな興味を持って小川まで行く。獣道と小川の間にホトリスに小さいけど深い穴を掘ってもらう。穴の上には木の枝を置いて、上に枯れた葉っぱや、土、草を撒く。
もし間違って人が片足突っ込んだら怒られそうだ。みんなは木の根本、それからあと3カ所ほど獣が来そうなところを予想して罠を仕掛けた。場所を覚えておいて、回収したり、また埋めたりしなくてはならない。
少しだけワクワクしながら、わたしたちは拠点に戻った。
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