第7話 イーストチルドレン③生活
それから少ししてカイが帰ってきた。
「遅かったね」
ホトリスが声をかけると、カイは新聞紙で包んで上をぎゅっと捻じった包みををホトリスに手渡す。
「果物屋のばーちゃんの店しまうの手伝ったら残りもんくれた。後で食べようぜ」
食事はテント内でするらしい。真ん中に板を置いて、それを中心に丸くなる。板にスープとお焼きのお皿を並べる。
車座になるとカイが言った。
「フィオ、挨拶したか?」
正式にはしていなかったので、改めてすることにした。
「フィオ、6歳です。よろしくお願いします」
「どっからきたんだ?」
赤髪だから……ランドに問われた。
「驚くぐらい何も知らない。ビアンタ側にひとりでいたんだ」
カイが代わりに答えてくれる。
「ふーん」
「食っていい?」
「ああ、食べよう」
みんながスープ皿に手を伸ばす。
わたしはその前に手を合わせた。心の中でいただきますと唱える。
わたしもスープのお皿に手を伸ばす。塩味だけだけど、コトコトと野菜をくたくたになるまで煮たからいい味になっている。
「なんか、うまい」
「三種類も入ってるじゃん、豪華」
ほぼ形は残っていないが、わかったようだ。
「こっちはなんだ?」
「フィオの故郷の食べ物だって、オヤキだっけ?」
そんな感じでいいや、と頷く。
「なんだ、これ、面白い」
「もちっとしてるな」
そんなに量があったわけではないが、一心不乱に食べてくれる。
なかなか嬉しい光景だね。
でも成長盛りの男の子がこれっぽちもの栄養と量でいいはずがない。なんかいい方法があるといいんだけどな。
みんなおいしいと言ってくれたので、嬉しい。塩味だけで、とてもそう言ってもらえるものじゃないけど。
ご飯の後はカイがもらってきた果物をみんなで食べた。トッキーをカートンがきれいにナイフで剥いて食べやすいようにカットしてくれた。
その時に本日の仕事の報告会があり、明日の仕事をどうするかの話し合いをする。
わたしはミケとカートンに習って、ここの生活に慣れるように言われる。それからしばらくはひとりで行動はしないことと約束させられた。それは公衆トイレに行くのもそうで、誰かと一緒に必ず行くように言われてしまった。
カイと一緒に公衆トイレに向かうと、会う人会う人に話しかけられる。
「新入りか?」
「そうだ。まだ小さいから働きには出れないけどよろしく頼むよ」
カイに頭をもたれて頭を下げさせられる。
「ずいぶん小さくてかわいいな」
「ウチのより小さいんじゃないか」
「こいつは6歳だ。じゃあ、よろしくです。チビ行くぞ」
カイに引っ張られる。
テント以外ではわたしをチビと呼び、他の子もそれに倣うようになった。
外に出る時は、手に土をつけて、顔とかどっかを汚される。なんでー。
寝るのはみんなで雑魚寝だ。ただ入り口に近い方に最年長が陣取るみたいだ。
わたしは端で寝るつもりだったけど、カイに呼ばれて、カイとセドリックに挟まれて眠ることになった。ちょっと寒いかと思ったし、ベッドじゃなくて最初は眠りづらいかもと思っていたけれど、横になったとたんころっと寝てしまって、寒さも何も感じることはなかった。
目が覚めたとき、カイの腕にすがるようにして眠っていた。
げっ。まずいと思って、絡めていた手を静かに抜き取る。
「起きたか?」
カイはそう尋ねてきて、大きなあくびをする。
「起きた。おはようございます」
カイが頭を撫でてくれる。
「おはよう」
その声で、もぞもぞ塊たちが動き出す。
ミケについて井戸に行き、桶に水を入れて運び水瓶をいっぱいにするまで往復する。わたしが一緒だからいつもの半分の回数でいっぱいになったみたいだ。
井戸でも新参者にはすかさずチェックが入る。とにかく小さい、小さい言われる。そしてチビというありがたくない名称で呼ばれる。
井戸に来るのは女性が多く、連れてきた子供たちがわたしを興味深そうに見ていた。
食事は1日1回、夕食のみ。朝起きたら身支度をして、各々仕事場に出向く。
家事組は今日は洗濯をする日だそうだ。東の裏門のひとつから外に出て小川で洗濯をする。街の人は井戸で洗濯するそうだが、子供相手に絡んでくる人もいるので、こちらでやる方が安全だとか。
ズボンをまくり上げ、小川に入る。洗濯物にまず水を含ませる。押しもんで汚れを布地から出すようにする。もう一度濯いで絞る。
「共同浴場にはみんな行くの?」
「いや、高いからな。この小川で水浴びしたり、体を拭いたりだな」
絞った服を石の上に置き続ける。
「おれは服のまま川で洗ったりするよ。寒い時はできないけどね」
なるほど。服のまま入っちゃえば、脱ぐのは着替えるときだけか。でもちょっと寒いかと、今回は見送ることにした。
絞った洗濯物たちを畳んで持ち帰る。テントに平行して竿見たいのが渡っていたけれど、そこに干すようだ。
小川の向こうは森で、切り株の根元にキノコを発見した。
「ミケ、キノコがある」
「うん、まるっと食い出がありそうでうまそうだろ。でもキノコは見分けるのが難しいんだ。毒キノコかもしれないから手が出せない」
わたしは小川を渡って木の根に生えているキノコをブチッと取った。バッグちゃんにそっと入れて、食べられるキノコを出してといえば、今しがた取ったキノコが現れた。食べられるやつだ。
「ミケ、これ、オレ知ってる。食べられるやつ」
「本当か?」
「絶対大丈夫!」
「お前、キノコわかるのか」
「うん!」
バッグちゃんが優秀だからね。
見かけたキノコや木の実を収穫する。ミケに見えないようにそっとバッグに入れて判定。ミケが持ってきたものも、だ。ひと抱えぐらいになった。小さい風呂敷を出して食べても大丈夫なキノコや木ノ実を包み込む。畳んだ洗濯物と一緒に持ち帰る。帰ったら、洗濯物を干す作業だ。
ミケはY字の枝を器用に使って竿を下ろし、そこに洗濯物をかける。そしてまた竿を高く戻す。
カートンは室内で何かを拵えていた。
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