第27話 リベンジフラワー
薬草。改め正式名称──リベンジフラワー。
千年前。当時の魔王が対人類殲滅のために作り出した生物兵器である。
元になった植物は魔界の希少種。千年草。
千年に一度、自分をもっとも殺した相手に対し、害をなす花粉を作り出す生態がある。
魔王はこの生態に目をつけた。
抵抗激しい人類。魔王はこの花粉を使って一気に殲滅しようと考えたのだ。
魔王は千年草を品種改良し、二つの特性を付け加えた。
異常な繁殖力と回復効果。これにより、千年草は生物兵器──リベンジフラワーとして昇華する。
リベンジフラワーが猛毒の花粉をばら撒くのは一年後。
魔王はこのタイミングでリベンジフラワーを人間界にばら撒く予定だった。
戦争により疲弊した人間はリベンジフラワーを薬草として医療用に使用し、必ず繁殖させる。
人類が大量にリベンジフラワーを消費した瞬間。毒の時限爆弾は爆発する予定だった。
しかし、その毒は魔族に牙をむく。
魔王の魔力に影響されたのか、人間界に撒く前に咲いてしまった毒の花。
その時点でリベンジフラワーをもっとも殺していたのは魔族。
研究や実験のために数十本程摘んでしまったリベンジフラワーがトリガーとなってしまった。
赤い花を咲かせたリベンジフラワーは一気に花粉をばら撒き、その繁殖力と毒で魔族を苦しめた。
解毒方法はただ一つ。
最も魔力が高い地域に咲くリベンジフラワーの青い花から解毒薬を作ることであったが、魔王と同等の魔力を持つアーニャが召喚されたことにより、捜索は困難を極めた。
疲弊していく魔族たち。
強力なスキルを持つ勇者に魔王軍は敗北を喫する。
〇
「あの時の生物兵器が今の薬草だとしたら……いや、あり得る……あり得るわ。こんな悪意の塊みたいな草。アイツなら作る」
急にブツブツと呟きだしたアーニャ。
荷物をまとめていた手を止め、話し出した。
「ずっと黙ってたけど、千年前に『薬草』なんてものはなかったの」
「は? 薬草がなかった?」
意味が分からず聞き返す俺。アーニャはさらに続けた。
「その時あったのは止血効果のあるハーブくらい。千年も時間が経ったから新しい植物でも発見されたと思ってたけど……」
……。
だんだんと繋がってきた。
「なるほど。つまり魔王の作った生物兵器……薬草が人間界に渡ったと」
「その可能性があるわ」
アーニャはそう言うと、俺に向ってこう言った。
「薬草の歴史を調べるわよ。もし私たちの考えが正しかったら、薬草は千年前に人間界に持ち込まれたはずだから」
そう言って部屋を飛び出していくアーニャ。
「おいっ! どこに行くんだよ!」
「ライナちゃんのところ! 薬草のことを聞きに行くの!」
そのまま走り去ってしまうアーニャ。
「おっ……俺も行く!」
俺も慌てて後に続いた。
〇
再び戻った執務室。
ライナちゃんとセレナは驚きながら俺たちに話しかけてきた。
「どっ……どうしたのだ? 二人とも……」
「どうしたの? アーニャちゃん」
そんな二人にアーニャは言う。
「薬草の歴史を教えて!」
すると、戸惑いながらライナちゃんが話し始めた。
「ええと……確か本に載ってたと思うけど……」
ライナちゃんはそう言いながら一冊の本を取りだした。
どうやら歴史の本らしい。年表のような物が書かれてある。
ライナちゃんはページをパラパラとめくり、目当てのページに辿り着くと、ゆっくりと読み始めた。
「千年前……勇者安仁屋が魔王を滅ぼした後、魔界で発見された草を人間界で栽培し始めたのが始まりと書いてあるの」
「やっぱり……」
その言葉を聞き、点と点が繋がった気がした。
たぶん薬草は魔王が開発した生物兵器に違いない。
なぜ、今さらになって毒が猛威を振るっているかはわからない。……が、アーニャにはそんな事どうでもいいようだった。
隣でアーニャが小さく笑う。
「私の戦いはまだ終わってない……」
アーニャは独り言のようにそう呟くとライナちゃんとセレナに言った。
「青い花を咲かせる薬草は死の森の最深部に咲いているわ」
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