第21話 薬草

「この世界を救ってなの!」


 その言葉の意味するところは、つまり。


「この疫病を解決しろってこと!?」


「はい! よろしくいたしますわ!」


「いやいやいやいや! 無理だって! 俺医学の知識ないし!」


「いいえ! きっと大丈夫ですわ! 昔から世界が危機になると異世界から召喚者が現れ、世界を救ってくれているんですもの!」


 そう言って笑う幼女。アーニャが俺に耳打ちをしてきた。


「私の時もそうだったのよ。生活の保障をする代わりに魔王を倒せ、知識を渡せ。昔からある暗黙の契約ね」


 ため息交じりに言ったその言葉。アーニャは最後に「どっちにするかは任せるわ」と俺に託してきた。

 つまり生活の保障と引き換えに疫病を解決するか、自由と引き換えにこの疫病が蔓延した異世界を自由に冒険するか。

 ……。


「やりまあす!」


「さすが! 言ってくれると思いましたですの!」


 いや、せっかく死の森を抜け出してここまで来たんだ。このままホームレスなんて絶対になりたくない。疫病? んなもん俺が解決してやるよ!


「あ~あ言っちゃった」


 アーニャがそう小声で呟いた。

 〇

「ここがお二人の住むお部屋なの!」


「マジかよ! こんないい部屋初めてだぜ!」


 豪華な刺繍が施されたふかふかのソファーにダイニングテーブル。広い部屋に、高そうな家具がいい感じに並んでいる。ベットは……ちっ二つ。高級ホテルみたいな部屋。それが俺たちに用意された部屋だった。

 ふかふかのソファーに座り。


「ぶふぇ~」


 デカい溜息が出た。

 疲れた。本当に疲れた。肉体的にも精神的にも。ここ何日かずっと死と隣り合わせの生活だったからな。こうやってふかふかのソファーに座れることにとてつもない幸せを感じる。くぅ~安全最高~。


「はぁ~やっぱり文明って最高ね~」


 アーニャもソファーに沈みながら幸せそうな声を出す。

 ああ……こうやってずっとゆっくりしていたい。でも、そんな暇はなさそうだった。

ライナちゃんとセレナが対面のソファーに座る。ライナちゃんは真剣な表情で俺たちを見つめた。


「今この世界は疫病に侵されているの」


「その話今聞かなくちゃダメ~?」


 アーニャが半分寝ながら声を漏らす。


「もちろんですの」


「ええ~」


 文句を言いながら座り直すアーニャ。ライナちゃんはあらたまって話をし始めた。


「今世界は疫病におかされてるの。その原因はとある草の花粉──」


「薬草の花粉なの」

 〇

 薬草。食べるとたちどころに体力を回復し、怪我を治す草。

 非常に繁殖力が高く発芽から十日もすれば白い花を咲かせ、受粉したら一日も経たずに結実する。また、最大の特徴は雌雄同体の花粉を作ることだろう。空気中で花粉同士がぶつかっただけでも受粉し、地面に落ちた花粉から発芽する。


 あまりにも人間に都合の良すぎる草。そんな草を人間が放っておくはずがなかった。

 野生ではすぐに動物に食べられてしまう薬草だったが、人間に見つかったことにより、世界中で栽培され始める。

 人間の生活に薬草が根付き、生活に欠かせない存在になった頃。

 突如薬草は牙をむいた。


 世界中の薬草は一斉に赤い花を咲かせ、毒の花粉を振りまいたのだ。

 その花粉は人体に入り込むとウイルスのように人体を攻撃しながら自分を増やし、咳によって体外に出て行く。

 その花粉は空気中で他の花粉とぶつかり、結実し、花を咲かせ再び毒の花粉をばら撒く。

 毒の花粉によるパンデミック。


 これは薬草の復讐だった。薬草は最も自分たちを殺した種を殺す毒を作る生態を持っていたのだ。自分たちを最も殺した種──それは世界中で薬草を栽培し、消費した人間。

 現在世界規模で薬草の駆除、使用の制限をしているが、その効果は絶望的。

 薬草の繁殖力の高さもそうだが、それ以上に陰で薬草を栽培し続けている人が絶えないのだ。

 体力を回復し、怪我を治す魔法の草。パンデミックが起ころうとも人間は薬草を手放さない。

 〇

「……無理じゃん」


 ライナちゃんから話を聞き、思わず言ってしまった。

 いや、無理でしょコレ。ウイルスの性質と植物の性質を持った毒の花粉? しかもその草は人類に必要不可欠? こんなの絶対に駆除できないって。

 少しの沈黙の後。ライナちゃんが口を開いた。


「ただ一つだけ方法があるの。青い花を咲かす薬草。この薬草の成分がいわゆるワクチンの材料になるらしいの」


 少し言葉に引っかかった。


「らしいの? まるで人から聞いたみたいな……」


 ライナちゃんはニヤリと笑う。


「それはわたしのスキル【神託】のおかげなの! 神託は神様に祈ることによってなんでも答えを知れるすっごいスキルなの!」


 アーニャちゃんの言葉にセレナが補足した。


「ただしその答えは抽象的で要領を得ないことが多いがな」


 ぎろりとライナちゃんがセレナを睨み、セレナはサッと下を向く。


「とにかく! 青い花を咲かす薬草! これさえ手に入ればワクチンが出来るの! 二人には青い花を咲かせる薬草を見つけてきて欲しいの!」


 アーニャがライナちゃんに言う。


「確か……その薬草は魔力量が高い土地に咲くのよね?」


「うん!」


「つまり、危険度の高いダンジョンの最深部に生えてる可能性が高いって事ね」


 大きなため息が隣から聞こえてきた、

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