三章 エアリス国

第20話 ライナ姫



 セレナに連れられ、俺たちはライナ姫がいるというエアリス城へと向かっていた。この国の中央に建つでっかい城だ。


「にしても酷いな……」


 大通りを歩いて城に向かう俺たち。俺は閑古鳥の鳴いている露店を見ながら呟いた。マスクを付けたおっちゃんが、たまに咳をしながら元気なく店番をしている。

 セレナは渋い顔をする。


「ああ……もう二年前からこのありさまだ」


 アーニャが袖で口を押えながら言った。


「ねえ、疫病って言うけど私たちは大丈夫なの」


 あ、そうだ! 疫病ってくらいだから俺たちも危ないじゃん!

 俺も咄嗟に袖で口を押えるが、セレナは「大丈夫だ」と制した。


「この疫病はとっくに世界中に広まっている。もし、感染しているとしたらとっくに症状が出ているはずだ」


 それを聞いたアーニャは口から袖を外し「異世界人だから効かないのかしら」と。

 セレナも少し考え込んで「そうなのだろう」と言った。そして彼女は当たり前のように話し始めた。


「つまり現状疫病に対抗できる力を持つのはスキル【毒耐性】がある私と、異世界人のキミ達だけなんだ」


「え?」


 対抗? え? 俺ここでゴールじゃないの? この国の国賓になってハーレム作って幸せに暮らすエンドじゃないの? なんかしなきゃいけないの?

丁度その時。俺たちはエアリス城についてしまった。


「さあ、行こう。ライナ姫がお待ちだ」

 〇

 エアリス城に入るなり、マスクを付けた金髪ふわふわツインテール幼女がセレナの元へと走ってきた。目に涙を浮かべ、セレナに抱き着く。


「セレナ! 心配したんだから!」


 ぐりぐりとセレナの腹に顔を押し付ける幼女。セレナは頭を撫でながら言った。


「……すいませんライナ姫。一個大隊が全滅してしまい」


「そんなのはいいの! セレナだけでも無事に帰ってきたんだから!」


 しばらくの間セレナが幼女を抱きしめる時間が続いた。

 そして、涙を拭いた幼女はは青いクリクリした瞳で俺たちの方を見て言う。


「あの二人は?」


「死の森の奥に召喚されたという異世界人です。彼らの力がなかったら私はあの森から生還できませんでした」


「異世界人? ふぅ~ん」


 すると幼女は何やらセレナに耳打ちを始めた。

セレナもそれに返し、少しだけ密談が行われる。隣でアーニャがため息をついた。


「はぁ、これから面倒くさいことになるわよ?」


「どういうこと?」


 その時。幼女が俺たちの方を見て笑った。


「恭也お兄ちゃんにアーニャお姉ちゃん! ようこそエアリス国へなの! わたくしエアリス国第三王女ライナ・アンリエッタなの!」


 幼女──ライナ姫は太陽のような笑みを浮かべた。


「え~かっわい~」


デレデレする俺。隣からアーニャの「このロリコン」と、蔑む声が聞こえた。

 ライナちゃんはニコニコ笑顔で続ける。


「セレナを助けてくれたお礼にぜひともお二人を国賓として招待したいの! エアリス国王女としてお二人を歓迎するなの!」


「マジで!? やったぁ!」


 姫から正式に国賓に正体された! 死の森抜け出して良かった! そうだよこれこそが異世界モノの定番なんだよ! お姫様に感謝されてそれで……。


「その代わりに二人に頼みがあるの!」


 そうそう無茶な頼みごとをされるんだよな。


「この世界を救ってなの!」

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