第7話 調理
ラグビーボール大のに虹色の卵。
触るとブヨブヨとしており、鳥の卵というよりもゴムボールを触っている感じに近い。
死線をくぐり抜けてようやくゲットしたこの虹蛇の卵をどうやって食べるかは、俺たちもかなり悩んだ。
なにせ調味料がないから味付けができないし、調理器具が鍋一つしかないから複雑な料理も出来ない。
「目玉焼き! 絶対目玉焼き! 卵料理の王道だろ!」
「いーやーよー! オムレツがいい! 半熟トロトロのオムレツがいーいー!」
悩みに悩んだ俺たちは、協議(ジャンケン)の結果オムレツを作ることなった。
オムレツなら中に具材を入れてかさ増し出来るしな。
俺は鍋の中に卵を割り入れる。
「うおお……すっげえ。黄身も虹色だ」
卵を割ると、デュルンと虹色の黄身が滑り落ちてきた。キラキラと光を反射して虹色に輝いている。まるでゲーミング卵だ。
卵を二つ鍋に入れたら、細かく切ったランダムキノコと茹でた空気豆を投入。
箸でしっかりと混ぜたら火にかけ、グルグルと卵全体をかき混ぜる様に焼いていく。
そして半熟になったところで上手く卵を包めば……。
「完成! 虹蛇の卵のオムレツだぁ!」
「キャー! 早く食べましょう!」
テーブルの中央にデンと置かれた虹色に輝くオムレツ。
悪ふざけで作ったような見た目をしているが、匂いは完全に元の世界のオムレツだ。
「「いただきまーす!」」
言うが早いか俺たちは猛烈なスピードでオムレツに食らいついた。
そして……。
「うっ……まああああい!」
「なにこれ! 美味しいわ!」
思わず叫び出したくなるほどの美味さ。
鶏の卵よりももっと味が濃厚で、旨味成分が蛇みたいに舌に絡みついてくる!
喜んでるよぉ! 俺の筋肉が不足していたタンパク質を摂取して喜んでるよぉ!
もっと味わって食べようと思ったが、すすむ箸が抑えられない。
一キロはあったオムレツは一瞬でなくなり……。
「……ふう。まさか虹蛇の卵がこんなに美味いなんて思わなかったわ」
「……ふう。本当だな。命を賭けたかいがあったぜ」
俺たち二人は腹をさすりながら美味さの余韻に浸っていた。
人生で一番旨いオムレツだった……。ああ……もっと味わって食べれば……。
「もっと味わって食べれば良かった! チクショウ!」
後悔が津波のように押し寄せてきた。
なんで一気に食べちゃったかなぁ! もう二度と卵なんて手に入らないのに! たまたま巣が近くにあって、たまたま虹蛇が俺を食べずに森に行ったから入手できた卵なのに!
空になった皿を見つめると、皿代わりのバナナもどきの葉っぱがうっすらと虹色に光っていた。
舐めたい! 舐めよう! 舐めるべきだ!
欲求の三段論法が、炸裂した。
「アーニャ! 止めるな! 俺はこの皿に残った卵を舐めるんだぁ!」
「やめなさいよ! これ以上品性を失ったら人間としてもう終わりよ!」
「うるさい! もう二度と食べれないかもしれないんだぞ! えっ……これ以上?」
え? アーニャの中で俺って品性ないキャラだったの?
人間としてギリギリのラインに俺いたの? だいぶショックなんだけど。
アーニャは傷心中の俺からバナナもどきの葉を奪い取ると、暖炉に捨てながら言った。
「もしかしたら次の卵を捕ってくることが出来るかもしれないわ」
「え!? マジで!?」
ショックが吹き飛ぶほどのインパクト。
アーニャはテーブルに座ると、話し始めた。
「貴方がさっき虹蛇に襲われなかった理由──一つ仮説があるの」
〇
結界の外で俺が倒れていた時。中から見ていたアーニャにはとある光景が見えたいたらしい。
それは……。
(あの虹蛇……恭也のことが見えてない?)
舌をしきりにチロチロ出しながら俺が倒れた所を睨む虹蛇。
アーニャには、それがまるで必死に目を凝らしているように見えたらしい。
アーニャは眉間に皺をよせ、記憶を絞り出すように言った。
「たしか……元の世界だと……蛇は熱を感知するのよね?」
「ああ。目と鼻の間にあるピット器官で熱を感知して暗闇でもサーモグラフィみたいに見えてるぞ」
「くっ……詳しいのね」
「まあな。学校に行かないでネット三昧だったんだ。こういう無駄知識ばっかり増えた。ちなみに蛇は舌で匂いを感知する」
蛇が舌をチロチロしている時は俺たちで言う鼻をクンクンしている時と一緒だ。
「舌……じゃあもしかして匂いも……」
アーニャはそう呟くと、声を潜ませて言った。
「もしかしたら……なんだけど、あの蛇魔力を感知しているのかもしれないわ」
〇
アーニャが言ったのは、元の世界の蛇が熱を感知することで世界を認識するように、虹蛇は魔力を感知して世界を認識しているんじゃないかということだった。
アーニャ曰く、この世界の全ての物質には魔力が含まれているらしい。
人や動物、植物だけではなく、空気や地面、水なんかにも魔力は含まれているとのこと。
──虹蛇はその魔力を見て、嗅いでいるのではないか?
これがアーニャの仮説であり、あの時俺が助かった理由は……。
「魔力がない貴方だから虹蛇に認識されなかった。虹蛇には貴方の姿が全く見えてなかったのよ」
「おいおい……ってことは……」
もしも……もしもその仮説が正しかったら……俺は虹蛇に対して透明人間になれるってことだ。
チートなスキルも魔力もない。そんな俺だからこそ与えられた虹蛇に対しての透明化能力。
つまり……。
「これから卵取り放題じゃん!」
「毎日パーティ出来るわね!」
毎日卵料理が食べられるってことだ!
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