第3話 スキル
スキル──主に異世界人がこの世界に召喚される際に神から授けられる力である。
例えばイメージした武器を瞬時に生成する力【武器生成】
剣・槍・弓だけに収まらず術者が構造を理解さえしていれば重火器や兵器まで生成できる。
スキルはこの世界を破滅させる恐れのある魔王が出現した際に神から授けられると言われており、なかには時を止める『時間停止』や瞬間移動できる『空間跳躍』などの強力なスキルもある。
〇
「私が貴方を召喚した理由は一つよ。鈴木恭也さん。貴方のスキルであの蛇を駆逐して」
「俺の……スキル……」
俺は神妙な顔をし、両手をじっと見つめた。
(ようやく異世界モノみたくなってきたああああ!)
内心テンションめっちゃ上がってるけどそんな仕草は見せない。
これが俺の……力? みたいなポーズをしとくのさ。
わなわなと手を震わせながら俺は考える。
(ところで俺のスキルって……なに?)
力を授かる的なイベント全くなかったし、さっきから「スキル発動!」って小声で呟いてるけど特に何も起こらない。
「ねーねー早くしてよぉ~」
おっと、急かされてしまった。
「ほ~ら! この世界に召喚される時にみんな貰うアレよ! チートなスキル! 女神から貰える超強い能力!」
おっと、……え? 女神?
「……女神?」
「そうよ女神リーナ。金髪巨乳の女神様。『力を授けましょう』とか言ってスキルくれるじゃない」
「……俺トラックに轢かれたあと直接この世界にきたんだが」
「へ?」
「……女神とか知らないしスキルも貰ってない」
「えええええええええ!」
青く光る幻想的な湖の上でアーニャの絶叫が木魂した。
〇
「なんでスキル持ってないのよ! あんたのスキル頼みだったのにぃ! 激強スキルであの蛇たおして外に出たかったのにぃ!」
「しらねーよ! やめろ! 肩をガクガク揺らすな!」
「ようやく外に出れると思ったのよ!? ああもう! どうやってここから出ればいいのよぉ!」
一通り言い合いが終わるとアーニャはガックシと膝から崩れ落ち「やっぱり私が召喚したから? この世界の住人が召喚しなかったから神の部屋を経由しなかった?」と悲壮感たっぷりにブツブツ呟き始めた。
(ん? あれ? コイツが出れないってことは……)
「あの~もしかして俺も出れない感じ?」
この二十分も歩けば一周できそうなくらいの湖に?
絶対ネットもコンビニもないこの世界に?
「当たり前じゃない! あんたも一生ここで暮らすことになるのよ!」
「はあああ!? せっかく異世界に来て引きこもりの自分を変えられる思ったのに今度はこの湖で引きこもることになるのかよ! 冒険は!? ハーレムは!? チートなスキルで人助けしてチヤホヤされたかったんですけど!? いろんな女にモテたかったんですけど! ハーレムしたかったんですけど! お前と俺しかいなかったらただの純愛になっちゃうだろ!」
「知らないわよそんなの! あとなんで私があんたを好きになる前提なのよ!」
「え。なんないの?」
おっぱい見ちゃったし、俺もうお前のこと好きになっちゃってるんだが?
あーもうつまんない!
「じゃあ元の世界に返してくれよ!」
俺のことを好きになる女がいない世界なんて嫌すぎる!
もう元の世界に帰ってネットする!
「それも無理なの! 召喚は一方通行なの!」
「は?」
おい、それって。
自分の都合で勝手に俺をこの世界に召喚して、しかも返す手段がないってことだよな?
「お前……ちょっと自分勝手すぎないか?」
一回おっぱい見たくらいじゃ割に合ってない。
三回くらい揉んでギリ釣り合うかどうかだぞ。いや、四回だ!
「……悪いと思ってるわよ」
アーニャはそう言うと……。
「うっ……うっ……悪いと思ってるわよぉ……ごめんなさい。……うえ~ん!」
泣きだしてしまった。
「それはずるいじゃ~ん!」
なんか許すしかない感じになっちゃうじゃん! なんか俺も悪かったかも? とか思ってきちゃったじゃん!
「うわ~ん! だってぇ~!」
「あーもう! 泣くなよ~! おっぱい一揉みで許してやるからさぁ~!」
あ~あ流れで許しちゃったよ~。同情しておっぱいレートも下げちゃったし~!
「……え? なんで許してくれるの? 私あなたの人生めちゃくちゃにしちゃったのよ?」
ほら見ろ。アーニャもドン引きしちゃってるよ。
でもおっぱい揉めそうだな。言ってみるもんだ。
おっぱいはさておき。実は帰れないと言われても本気で怒れなかった理由が一つある。
それは……。
「どうせ俺の人生なんてもともとめちゃくちゃだったんだ。どうせあのまま生きててもずっと引きこもって……最後は実家を追い出されて年下の上司に馬鹿にされながらバイトしてたんだ」
言いながらめっちゃリアルに想像できてしまった。最終的に格安アパートで孤独死してそうだ俺。
「……俺の人生お前みたいな美少女の胸を二回揉めるだけでチャラに出来るくらいの価値しかねえよ」
「……そんなこと」
アーニャは言葉に詰まると最後には「ありがとう」と呟いた。
良かった泣き止んだみたい。
(それと、どさくさに紛れておっぱい揉む回数上げたけど気づいてない。チョロいぞこの女)
アーニャは目頭を拭くと、
「必ず貴方を元の世界に返すわ。貴方を召喚したのと逆の魔法を絶対に作る。だからそれまで申し訳ないけど私と一緒に共同生活してくれるかしら?」
「ああ。……って、ええ!? 共同生活ぅ!?」
「ええ。あの家で」と島の中央を見るアーニャ。
木製の小さな家! 美少女との共同生活の家は小さければ小さい程いいからなぁ! 最高だぜ!
アーニャは一瞬ためらうと恥ずかしそうに下を向き、こう言った。
「おっ……おっぱいは……仲良くなったらいくらでも揉んでいいから……」
「えっ……えっ……?」
突然のおっぱいサブスク宣言に俺は言葉を失う。
「っ! それだけ悪いって思ってるってこと! もう恥ずかしいからこれ以上言わせないで! 家に行くわよ!」
「うん!」
やっぱ異世界最高だ! おっぱいレートインフレしてる!
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