第18話「翡翠のオーガバーサーカー」

夜が明けてからすぐに野営から発ち、

なんとか昨日予定していた休憩地点の村に辿り着いた


しかしこの次の、目的地の村までは山道を登ることになり

想定される到着時間は深夜、つまり野営が必須になるわけだが

暗い山道で休憩はできても野営には不安がある、

ということから今日はこの村で一泊し、明日の明朝に向かう事となった


村人の好意により積荷とロバは空いてる厩舎を借り、泊める事は出来たし、

宿泊先も確保できた私達は各々自由時間を過ごす事にした


・・・ので、あるが・・・


「うーん・・・これと言って珍しい物も無く・・・」


いや、村に対してそこまで過度な期待をしてるという訳ではなく、

村のあちこちがまだ建築途中の家屋が立ち並んであることから

『村として発展途中』だということらしい。


「あらん、見たことないお嬢ちゃんね。こんな所で何か用かしら?」

「え、あーどうもこんにち・・・ヒュッ」


背後から声をかけられ、振り向いた私は思わず悲鳴をあげてしまった

そこに居るのは筋骨隆々で体長は2m以上はあろうか、

その顔は見上げるようにしないと視認することは叶わない。

女性の口調であるが声は男性のもので非常に野太い。

緑色・・・と言うより翡翠色の鎧を身に纏った出で立ちは

完全に『歴戦の武人なオネエサマ』であった


「あらあらうふふん、そんなに怯えなくてもいいわよぅ。

 私の名前は『ケンゲン』、この村の警護を任されている旅団の長で、

 巷では私のことを『翡翠の鷹』なんて呼ぶ人も居るのよ」

「あ、あぁ、どどど、どうも。冒険者やってるユイと申します、はい・・・」


非常に逞しいお顔に口紅を施してる姿は戦慄を覚えるほど麗しく

力強い眼差しはその目力だけで一騎当千、万夫不当と呼ぶに相応しい


ぶっちゃけると、油断した瞬間に嚙み殺されるのではないかとめっちゃ怖いし、

その恐怖心から、逆にその目力溢れる顔面圧力から目を逸らせなかった


『ケンゲン Lv15 メイン技能 ファイター・ライダー』


なるほどなるほど、その出で立ち、そしてLv・・・

『翡翠の鷹』と言うより『翡翠のオーガバーサーカー』の方が

まだしっくり来るのではないだろうか、少なくとも私はしっくり来た。


「ほほほほほ!どうしてかしら私を見る人は皆、

 貴方と同じで、まるで怯える子リスのように震えちゃうの!」


豪快に、しかし令嬢の如く麗しい手の当て方をした高笑いに対して

『でしょうね』以外の感想が思いつかず、しかし言うまいと

代わりに乾いた笑いでごまかすことにした


「でぇ、さっきの質問だけど。ここはまだ村としては

 最低限の設備も揃ってない作り始めの村よ?

 冒険者が来て意味のある場所じゃないのだけれど・・・」

「あぇ、あーと、ですね・・・この先の、山にある村まで、

 品物の輸送の依頼を受けた次第でして・・・」

「あぁーらぁ、そうなのねぇ!実はこの村こそが、

 貴方の目指してる村の移住先として作られている物なのよ」


ケンゲンさん曰く、

山の村はその立地から野盗などに襲われても守りやすい利点こそあるが

岩肌の多い土地の土は瘦せていて作物は稔り難い難点があった。

そして村長を筆頭に長い話し合いの末、村を移すことに決めて、

村の男手の大半をこの麓に移り住まわせ、

ケンゲンさんの傭兵団はその護衛と手伝いを行っているとのことだ。


「傭兵団とギルドは違う物なんですか?」

「そうねぇ、うちはギルドとやってることはほとんど変わらないわね、

 ギルドはその拠点から動くことはできないけど

 傭兵団は自由に旅をすることができる。

 言わば『移動するギルド』みたいなものだと思って頂戴」


なるほど、そういうのもあるのかと納得した


「でもぉ、ちょっとタイミングが悪かったわねぇ。

 あの山は今危険だから・・・」

「・・・危険、というのは?」

「最近、あの山には妙な目撃話があってねぇ、

 なにやら『大岩が独りでに動くのを見た』とかなんとか・・・」


そんな話聞いてないんですけど、と思ったけど

同時に、妙に難易度の割には高額な依頼だった理由が分かった

ただ、そういった危険が含まれる情報は依頼主にはちゃんと伝えてほしかった


「1つ提案なのだけれど、いいかしら?」

「あ、はい・・・なんでしょう?」

「もし万が一、その動く大岩とやらに遭遇したら・・・。

 これを燃やして煙を立ててもらえるかしら」


ケンゲンさんはそう言うと、腰に下げた袋から球状の物を取り出した

紙を何重にも巻いた後に麻紐で巻き、導火線らしい部分もある

忍者が使う爆弾のイメージそのままの物体ではあるが・・・


「煙幕玉、でしょうか」

「その通りよ、魔動機術の『スモークボム』とは違って、

 色付きの煙が空に向かって上がるお手製よ。

 貴方がこれを使って煙を立ててくれたら、

 私達がすぐにその大岩を倒しに行ってあげる。」

「はぁ・・・分かりました。もし使わなければ、降りた時にお返ししますね」


微笑みという圧力に押されながらつつ、その善意を受け取った私は

ケンゲンさんに一礼してから、この噂を共有するべく

鉄髭さんとトカゲ野郎さんのもとへ駆けていくのだった



決して、ケンゲンさんが怖くて逃げた訳ではない、決して。



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