第14話「アタラシイオトモダチ 前編」
「え、イオリ先輩って『ミアキス』なんですか?」
私の驚きに、先輩はのんびりとした『ニャ―』と言う返事をした
『ミアキス』と言うのは山奥や森の奥みたいな秘境に生きる種族で
リカントやライカンスロープのような獣人種と同じだけど
ミアキスはそのすべてが猫の種族であるんだけど
そもそも、ミアキスはこのアルフレイム大陸・・・
と言うより『ソードワールド2.5』ではまだ未実装の種族のはずだった
「ニャ―は元々テラスティア大陸の出身ニャ。
大きな船に乗って渡ってきたんだニャ」
「・・・あぁー、そういうこともあるんですね」
テラスティア大陸とは、『ソードワールド』の前バージョンの舞台である
つまり、ソードワールド2.0テラスティア大陸から
旧データのまま2.5アルフレイム大陸への移行
気に入ったプレイヤーキャラを継続で登場させたい時に
ゲームマスター認可のもと、そのまま使用することはある。
私もよくやっていたから分かるし、
この現実世界ならゲーム世界と違ってよくある話なのかも知れない
「先輩はどうしてこの大陸に?」
「・・・あー・・・」
冒険者稼業ならテラスティア大陸でもできるのに
その私の疑問に対し、イオリ先輩はすこし言いづらそうにしていた
「ニャ―は元々、奴隷として裏の奴らに連れてこられたニャ」
「えっ・・・?」
「隙を見つけて逃げ出して、とある都市のスラム街に住み着いたニャ。
でもそこでも色々トラブルに遭ってしまったニャ・・・。
で、そこで出会ったのがキリークってわけニャ」
かける言葉が見つからなかった、絶句したという奴だった
だけど先輩の最後に話したキリークさんのことで
私は先輩の話の先を予想した
「なるほど、キリークさんに助けてもらった恩として
冒険者になって一緒に行動している、ってことですか」
「いや『こいつ強いから楽して稼げそう』って思ってついて行っただけニャ」
「うっす・・・」
イオリ先輩の出自については可哀想だと同情できる
そう思ってたけど、この人ならどんな立場でも強く生きていける気がする
それほどまでに今の先輩の目に力強い光が宿っていた。
見習いたい、そう素直に思った、メンタル面だけなんだけど。
「ニャ、降りる村が見えてきたニャ」
馬車の向かう先、御者の肩越しに少しずつ村が見えてきた
名前の無い村だけど、木造りの門の特徴は事前に聞いた情報通りだった
他の冒険者達が集まると言われている場所は
その村が最寄りであるが、歩いて1時間ほどの離れた場所にあるらしい
「でも変な話ですよねー、集合場所ならさっきの村でも良かったじゃないですか」
「もしかしたら、村の中に盗賊の仲間が混ざってるかも知れないニャ。
自分達の拠点近くの村に冒険者が集まりだしたら、警戒して逃げるかもニャ」
「なるほど・・・、盗賊の拠点がこの近くにあるんですかね?」
「それは依頼人に会ってからニャ。でもユイ」
前を歩くイオリ先輩がふと私の方へ振り向いた
「『変だな』って感じた事、その感覚を大事にするニャ」
「レッドアッシュから冒険者2名、到着しました」
予定通り1時間ほどかけて、私達は集合場所と言われた建物に辿り着いた
恐らく長く使われてないのであろう、木製の壁は所々が破損しているが
雨風を凌ぐ程度には申し分はないし、
恐らく旅の休憩所だったのであろう、大きく、窓が多いことから
それなりに部屋数があると予想できた
そんな建物の前に、目付きの悪い男性が二人
さながら番人のように入口を守るようにして立っていた
「依頼仲介人のリーガルと言う人からここだと聞いたのですが、
間違いはありませんか?」
男性の片方にそう言うと、男性は少し待てと言い、建物に入って行った
しかしすぐに出てくると、入るようにと促された
中に入ると、明かりは少なく暗い通路を進まされ、とある部屋に通された
そこに居たのは見るからに柄が悪いが、宝石類を多く身に着けた男。
その男を守るように、これまた柄の悪いチンピラ風の男が6人立っていた
「よお、あんたらがレッドアッシュから来たって言う冒険者か?」
リーダーらしき男がそう聞いてきた
嫌な予感しかしないけど、ここまで来たら誤魔化すなんて無理だと思った
「そうニャけど、おっさんが依頼人かニャ?」
イオリ先輩がそう答えた
少しの間の後に、リーダーの男がニヤニヤとした顔をし出した
「そうかいそうかい、『どっちがそう』なのか分からんが、
あのリーガルとか言う奴、結構使えるみたいだな」
リーダーの男がそう言うと、部下達が私達を囲むように動きだした
私はその瞬間、心の中で改世の名前を呼ぶが返事はなかった
タイミングが悪い、不運だ、だけどそれは改世のせいではない
「私達をどうするつもりですか?」
その質問に意味があるかは分からない
だけど目的を知れば、何か打開策が見出せるかも知れないという
僅かな期待もあった
「リーガルさんも貴方達の仲間だったんですか?
『どっちが』と言うのは、私達のどちらかが目的という事ですよね」
「あ~・・・ま、教えても問題はないか。
その仲介屋って言うのは俺達の仲間じゃねぇよ、
たまたまギルドに顔が利きそうな奴が居たから利用しただけだ。
そして、俺達も人探しを頼まれたクチでなぁ、
『寂れた村を占拠した蛮族を皆殺しにした女』を探してるんだよ」
『寂れた村を占拠した蛮族を』の件に心当たりがあり過ぎてヤバい。
完全に狙いが私じゃん、だとしたらせめて関係ないイオリ先輩だけでも
見逃してもらえたりしないだろうか。
恐らくこの人らは探してるだけで私をすぐにどうこうしないだろうから
急いで先輩に助けを呼んできてもらって・・・
「あ、それならこっちの子ニャ。ニャ―は関係ないニャ」
「先輩?」
おっほっほ、こいつはたまげた。
リバーウッドを発つ前に交わした
『ニャ―が守ってあげるから先輩を頼れ』の言葉と握手が
さながら走馬灯のように瞬時に頭の中を駆け巡った
「ほう、そっちの嬢ちゃんがか・・・そんな小さい体でよくやるじゃねぇか」
「そうニャ、だからニャ―は関係ないから今すぐ縄を解くニャ」
「いや『教えたら許してやる』とか一言も言ってねぇんだけど。
この嬢ちゃんに関わった不幸を恨んで、二人ともしばらく大人しくしてくれや」
こうして、イオリ先輩の裏切りも虚しく
私と先輩は多くの謎を残したまま、
縄で縛られ幽閉されることになってしまうのだった
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