第13話「新しいお友達」

「あーきーまーせーんー」


ギルド内にある応接室に響いたのは

ギルドマスターである、ラピスさんの拒否の声だ


リーガルさんはギルドに着くなりすぐにラピスさんと面談

一通りの要望を伝えた後の返事が、上記の通りだ


「なんやねん、『有名ギルドから高スペックで安く人材調達したい』って」

「ええ、ええ。要約すると確かにそうなりますが・・・。

 でも、でもですよフリューゲ殿。こちらとしましては是非、

 ユイさんに冒険者として実績を得るための機会をと思い・・・」

「初めて聞いたねんけど、依頼仲介人、冒険者斡旋業やなんて。

 そもそも依頼が必要なら仲介人通さないで直接来たらええやん」


リーガルさんは『確かに、確かに』と繰り返す

まぁ、なんとなく思ってはいたけど、確かに聞き慣れない職業でひたすら怪しい


リーガルさんの言い分はこうだった

依頼人からの要望は有名ギルド・・・つまりこのギルドから

安くて、かつ実力がある程度保証された冒険者を

実績作りを餌にして引っ張って来い、という事だった


うん、普通のギルドならこんなん聞いたら即追い出されるでしょ。

ただラピスさんは彼是、リーガルさんのこの話を1時間ほど聞き続けている

気が長いというかなんというか・・・

ああ、メリアの長命種って基本のんびりした性格の人が多いんだったっけ?


「私は!このビジネスに微かな可能性を見出しているのです!」


そんなことをふと思っていたら、リーガルさんが突然力強くそう言い放った


「冒険者は多種多様に存在しています、もちろん依頼を出せば

 遅かれ早かれ対応してくれるでしょう。

 しかしそれが『専門の知識を持ってるかどうか』までは分からない、でしょう」


まぁ、確かに確かに、と納得した


現状、依頼する、受ける為の方法は二つである

メジャーなのはギルドに張り出されている『依頼票』を見て、

冒険者が自分にできそうな依頼を受けるシステム。

そしてもう一つが『依頼者が直接冒険者に依頼する』という方法だ。


依頼票についてはまぁ、ファンタジー物の漫画やゲームなどで

良く描写される物だし、どこのギルドでも採用しているシステムだし、

後者はよくある、偶然通りかかった村が大変なことになってました、

と言う『成り行きで救っちゃいました』がこれになる。


そしてその二つに共通する、欠点と呼べる物が存在している

それは『冒険者によって成果にバラつきが生じる』ことだろう


例えば、『狼の毛皮の納品』の依頼があったとして

経験の浅い冒険者と知識のある冒険者では品質に差はあるし、

経験が多い冒険者であっても、専門外であれば必ずしも

良い結果になるとは限らない。

そこにリーガルさんは目を付けたのだろう


「はぁ、つまりなんや。

 依頼に適した冒険者を探して、紹介するのを仕事にしたいってことか?」


ギルドは現代社会で言えば『人材派遣会社』のようなものである

それとはまた別の『個人間でやり取りする人材派遣方法』


・・・闇バイトという言葉がすぐに思い浮かんだ。

現代社会でそのシステムは色々問題あって印象的に良くないんだよなぁ・・・


「・・・ま、そっちの言い分を否定する気はないねんけどな。

 今のギルドのやり方に不備がないとは言い切れないのも事実や」


ラピスさんの言葉にリーガルさんの顔が少しだけ明るくなる


「ただ、いくつか確認させてもらうし、ユイちゃんを出すなら

 こちらの条件を受けてもらうで。

 ギルドを介さない依頼なんて大抵面倒なことやからね」


こうして、ラピスさんと私はリーガルさんが

依頼主から聞いた情報を知っている限り聞きだした


まず、そもそも何故私が選ばれたのか

それは私が有名ギルドであるレッドアッシュの、

比較的に経験が浅い人材であることもそうなんだけど

以前のヨーカイゴの村での戦いで活躍・・・したのは改世なんだけど

その話が、当時一緒に居た別の冒険者が他所で喋って・・・で、

今回の依頼人の耳に入ったから、らしい


そして依頼人はとある町の商人で、

依頼内容は輸送中の商品が盗賊に盗まれ、その商品を奪還すること。

この依頼には他のギルドの、私と同様に集められた冒険者数名で

パーティーを組んで行う、とのことだ


「商人が大事な商品を取り戻すために、随分ケチるんですね」


私の率直な感想にバツの悪そうな顔をするリーガルさん

ちょっと気まずくなったけど、どうしても思わざるを得なかった


「えぇ、この依頼人は元々きちんとギルドに依頼する予定だったところ、

 偶然私が話を伺い直接営業した次第で・・・」

「なるほどなぁ、とりあえずそっちの話は理解したから、

 次はこちらの条件の話させてもらおか」


ラピスさんが提示した条件は二つ

まず、リーガルさんのその試みに対してギルドに依頼し、

依頼を受ける形で私を貸し出す、ということだった

これに対しラピスさんが


「どうせ依頼人から仲介料言うて沢山ふんだくって、

 めちゃくちゃ中抜きしてからユイちゃんに渡すんやろ」


と言う『異世界版闇バイト仲介人ムーブ』を見事看破し、

リーガルさんに有無を言わさない形で納得させた。


そして、もう一つの条件とは・・・




「『イオリ・ミヤ』、ただいま馳せ参じたニャ」


リーガルさんの依頼?を無事に引き受けることになった私は

ラピスさんに連れられ別室へ移り、そこで一人の女の子と顔を合わせた


容姿は黒い軽装に長めのマフラーを巻き、身長は私より少し低め、

髪は腰くらいまで伸びていて、癖が強いらしく所々が跳ねていた

だけど、それ以上に目が行くのはその頭部にある『猫の耳』だった


「イオリちゃんはここ最近まで遠方で調査隊の護衛やってたから、

 ユイちゃんは会うのは初めてやねー」

「ええ、そうですね。・・・えーっと、イオリちゃん?」

「イオリ先輩ニャ」


握手を求め、手を伸ばす私に返ってきたのは短い言葉だった


「ニャ―はユイより年下だけど冒険者では先輩ニャ。

 ゆえに、ユイはニャ―を先輩として崇めるニャ」

「あ、うっす・・・」


冒険者は実力主義だ。

だけどここまで露骨にマウントしてくるとは思わず、

呆気にとられた結果、私もまた短い言葉を返すことになった


『イオリ・ミヤ Lv8 メイン技能 スカウト』


イオリちゃん・・・じゃない

イオリ先輩の頭上に私だけが見える例のステータスが映し出されていた


「本当はもう一人、ニャ―の相棒が合流するはずだったニャ。

 でも『キリーク』は寄道があるからって、後で追いかけてくる手筈ニャ」

「そういう訳や、ユイちゃん。

 今回の依頼はイオリちゃんと、後で合流するキリークさんとの3人で頼むわ」

「あ、はい。それがリーガルさんに出した条件ですもんね」


もう一つの条件、それがこの『ベテランの冒険者を付ける』こと。

実を言うと、先日の改世の話はすでにラピスさんに相談していたこともあり

出来れば目の離れる場所に行かせたくないけど、次善の策として

これを提案した、という経緯だ。


『できれば冒険せずにこの村で一生過ごせば』

その選択肢は常にあるし、それが現状では最善だ

だけど私はまだ、改世と話したあの日と変わらず

それが『正しい解決方法』とは思えずにいた


だから敢えて、私は『外に出る事』を選んだ

何が変わるか分からない、もしかしたら何かあって死ぬかも知れない

それでも、『何もしないよりは正しい』と何故か思えたのだ


「ニャ―がちゃんとユイを守ってあげるニャ。

 ちゃんと先輩を頼るニャよ」


ここで、イオリ先輩が私に向かって手を伸ばしてきた


「さっきはちゃんとやってなかったニャ。これからよろしくニャ」


年下で小さいけど、とても頼もしい先輩に私は手を伸ばし

その小さな手を優しく、だけどしっかりと握った


「それでは、いってきますね」

「行ってくるニャ」


ラピスさんに見送られ、私とイオリ先輩は手をつないだまま

乗合馬車の待機場所へと歩いていくのだった



「ちなみにニャ―は全く戦えないから、ユイが頑張るニャ」



『キリークさんを待ちましょう』

そう言いながらギルドに一度帰ったのは言うまでもないだろう








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