仲間探し編、その1
第12話「隠密判定ファンブル不審者」
『それ』は突然訪れた
昼下がりの、ギルドのランチタイムを乗り越えて
私は休憩時間を貰ったことで、気分転換に散歩に出ていた
リバーウッドは今日ものどかで、
行き交う人々の喧騒が心地良いと感じるくらいには
私はすっかり、異世界の生活にも慣れていた
「おおい、ユイちゃんやー」
石タイルの道から畑が広がる農道へ向かう、
しばらく歩くと私を見かけた農家のおじさんが手を振って挨拶してくれた
「おじさん、腰の方は大丈夫なの?」
畑の中に足を踏み入れ、私はおじさんの方へ近づく
「お陰様でのー、ユイちゃんが届けてくれた湿布がよう効いとるわ」
「それは良かったけど、あんまり無理しちゃダメだよ」
「分かっとる分かっとる、腰が落ち着いたら改めて、
プリーストの人に処置してもらうからの」
その後はおじさんと軽く談笑し、私はまた散歩に戻る
・・・と、そこには見知らぬ男性が居た
見知らぬ男性は良くその辺に居る『ザ・モブキャラ』な服装をしている
ただそれだけなら、私も気にすることなく
陽気にご機嫌に、鼻歌でもキメながら軽やかに歩いていたことだろう
めっちゃ、こっち見てる
それはもう、はっきり監視されてるって分かるくらいに、とてもはっきりとだ。
「・・・」
だが、その見知らぬ人は何も話しかけてこない
隠密判定ファンブル不審者でしかない男性に対し、私が取るべき行動は何か考える
今別れたおじさんに助けを求める?
いや、この不審者が危険な人物であったら、おじさんを巻き込む訳にはいかない
ならば、私ができることは実質一つしかないだろう
「ッ!?」
隠密判定ファンブル不審者に背を向け、私は全力で走った
私の突然の行動に驚いた不審者だが、すぐに私を追いかけてくる
理由は分からないが、この不審者の目的は私だ
幸いなことに、不審者は私より足は決して速くない
そうなれば、あとは私と相手の体力勝負になるが
これもまた幸いなことに
最近は先輩冒険者の特訓を受けてそれなりに走ることができるようになっていた
追われている恐怖からか、それとも激しい運動からか
心臓は強く脈打っているのを感じながらも、ようやく町の入口が見えてくる
人が疎らながらも見えてくる
不審者はまだ私を追ってくる、いやなんで諦めないんだよ
「お、どうしたんだいユイちゃん。そんなに慌てて何かあったかい?」
町の入口を警備している衛兵さんの後ろに、迷うことなく私は隠れた
その後をまだ走ってくる不審者を見て事情を察した衛兵さんが素早く武器を構える
「おい、この子に何の用だ」
不審者は相変わらず何も喋らない
いや、正しく言えば体力の限界から、まともに喋ることができないらしい
「はひ・・・いひゃ・・・違うんです・・・」
かすれた声で、やっと不審者は言葉を発した
「何が違うんだ」
「ふう・・・お゛っ、うっ」
「えずくな」
「ふ、ふふ・・・そちらのお嬢さんがどうやら私が探してる人・・・げほっ」
不審者は私のことを探していた、ということがようやく分かった
だけど、私は彼の事を全く知らない
彼が何者なのか、目的がなんなのか
それを知るまで、私は衛兵さんの後ろから離れることができなかった
「はあ・・・しかし驚きましたよ、まさか私のことをご存知ないとは」
「ええ、まあ、無言でガン見してくるなんて普通に不審者ですよね」
「それは失礼、私も貴方が探し人とは確信が得られなかったもので・・・。
では改めて自己紹介を、私は『リーガル』と申します」
そう名乗り、リーガルという人は名刺を渡してきた
恐る恐るそれを受け取って見ると、聞いたことのない肩書が書かれている
「・・・『依頼仲介人』・・・ってなんですか?」
ほとんどの『依頼』という物は、ギルドを通してやり取りされる
もしくは、ちょっとした頼み事なら冒険者と依頼人の直接やり取りになるだろう
それが、私の知っている『依頼』という物だった
「依頼仲介人というのは、まあ簡単に言ってしまえば・・・
『依頼人のニーズに合った冒険者を紹介する』というものです。
ああ、これについては私のオリジナルのビジネスですね」
「・・・で、その仲介人とやらがユイちゃんに何の用だ?
彼女はレッドアッシュが抱えている冒険者だ。
交渉するなら、ギルドマスターを通すのが筋だろう」
衛兵さんが割って入り、リーガルさんにそう言った
リーガルさんは深く頷き、言葉を続ける
「ええ、ええ、もちろん理解しております。
それでは行きましょう。
ただこれだけは理解して頂きたいのですが、
今回のクライアントの条件に合う冒険者がユイさん、貴方なのです」
全力で走った疲労から、ぷるぷると震えているリーガルさんの
歩調に合わせつつ、私とリーガルさんはレッドアッシュへと向かう
『依頼仲介人リーガル』
彼を発端とした、これから起こる騒動
私がそれに巻き込まれることになるのは、もう少し先の話
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