第11話「この世界の自分」

「では、今後についての会議を始めます。よろしくお願いします」


ギルド内にある、私の部屋の中。

私はベッドに腰かけ、小さな丸テーブルの上に

『改世』と張り紙をしたぬいぐるみを置き、それに向かって話しかけた


いや、このぬいぐるみが改世と言うわけじゃなくて

改世は相変わらず私の頭の中でしか喋ることができないんだけど

この声に私が答える時、壁や何もない空間に向かって喋るわけだから


まぁなんというか、傍から見て頭おかしいと思われないようにする為の

考えうる最大の対策というわけである。


「ではまず、どうして私の中にモロクや魔剣が居るの?」


最初にして最大の疑問を改世に投げかける

改世は少し考えたように唸ってから、

私に分かるように言葉を考えて説明した


『んぁー、まぁまずだな。

 ユイの転生自体はまじでただの偶然で原因は分からん。

 ただモロクの野郎は、その偶然をまたとないチャンスと思って、

 最後の力を振り絞って俺達ごとユイの中に入り込んだんだ。」

「・・・偶然?話では君達はどの世界にも干渉しない異次元の狭間で

 モロクを封印していたって聞いたけど・・・。」

『そう、だから偶然お前は転生した時にその異次元の狭間を通った。

 だから、モロクに見つかって依り代として使われたって訳だな』

「・・・私の中に入って、モロクに利点があるってことね」


それが、改世の言う『私に死なれたら困る』につながるのだろう。

おおよその予想はつく、けれど、その説明をあえて改世に求めた


『異次元の狭間でならいつモロクの野郎が出てこれるか分かんねぇ。

 何百年、何千年後になるかもしれねぇ。

 だけどユイは人間だ、人間の寿命はおよそ100年と考えれば、

 たった100年、待つだけでモロクは再び外に出ることができるっつー話よ』


やっぱり、それが私の感想だった。

異次元とかいう途方もない概念みたいな器から、簡単に壊れることができる器へ。

あわよくば何かに襲われ、事故に遭って、私という器が壊れれば

抑えてた封印の魔剣を吹き飛ばして、モロクは再びこの世界で蘇る。


「思ってたよりずっとずっと深刻な話だね」

『そうだな、不幸中の幸いってやつだけどさ。

 今回の無茶で力を使い果たして大人しくなってやがる。

 だからこうして、俺が封印の役目から離れて

 ユイの体で戦えるようになった、ってことさ』

「それは助かるけど・・・そんな長い間離れることはできないよね」

『へへ、察しが良いな。弱っても相手は魔神だ。

 そんなホイホイ出てくることはできねぇな』


この話から要するに、私は事故らないように死なないように

村の中でひっそりと過ごし、なるべく長生きするべきなんだろう


ただ、それが『正しい解決方法』だとは思えなかった


「改世・・・私はどうしたらいいのかな」


どうしようもない疑問を、改世に丸投げする

卑怯かもしれない、けれど、私だけでは答えを出せる自信がなかった


『あぁー?んなもん、自分のやりたいことやりゃいいんだよ』

「自分のやりたいこと?」

『人っつーのは何したっていつか死ぬんだ。

 それにどんな世界だって何もせずに生きていくのは無理だろ』

「それは、そうだけど・・・」

『すぐにどうにかする必要はねぇよ。ユイは自分のやりたいことを見つけりゃいい。

 解決策なんてその内に頭の良い奴が考えてくれるもんさ」


自分のやりたいこと、その言葉が頭に強く響く

この世界に転生して、自分のやりたいことなんて沢山あったはずなのに


今投げかけられたその問に、私はすぐに答えを出せずに居た


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