第8話「ヨーカイゴの村」

リバーウッドの入口、交易の広場は今日も様々な商人達で活気づいている

その中の、乗り合いの馬車が数台待機している場所に、

数人程の武具で身を固めた人たちが集まっていた

依頼書に書かれたヨーカイゴ村への送迎用と特徴が一致していることを確認し、

私はその馬車の近くに居た人に声をかけた


「あの、すみません。この馬車ってヨーカイゴ村に向かいますか?」


灰色のローブ姿の男性、年齢は40から50くらいだろうか

黒髪に少しだけ白髪が混じっていて

知性を感じる落ち着いた顔つきはいかにもベテランの冒険者のようだ。

おじさんは何か書類に目を通していたが、

こちらに顔を向けると静かに喋り始めた


「ああ、君も依頼を受けた冒険者か。

 ・・・君、どこかで見たことあるな」

「えーっと、レッドアッシュの酒場で・・・」

「なるほど、ウェイトレスと冒険者の兼業か。

 俺の名前は『タバラ』と言う、

 今回の依頼で冒険者をまとめる立場に居る。よろしく頼む」


タバラさんは自己紹介したのち、私に手を差し伸べてきた

私はその手を握り返すとほぼ同時に、タバラさんの頭上に例の文字が浮かび上がった


『タバラ メイン技能ソーサラー Lv8』


ソーサラー、要するに彼は見た目通り『魔法使い』らしい

私はその頭上にある文字を頭の中で消えるように念じた

・・・すると、頭上の表示はスッと消える、

これが分かるまで、町の人の名前があっちこっちで

浮かび上がって、少しばかり煩わしかったなぁ。

あと、どうやら多少の時間差はあるけど、

『ステータス閲覧能力』は相手の名前が分からないと発動しないらしい

ちなみにステータスが分かるだけ、それ以外のプロフィールは分からない。


特に便利な点は壁越しでも文字は見えるから

かくれんぼしてる子供が簡単に見つかるくらいかな。


「つまり君はレッドアッシュの冒険者か。技能は何がある?」

「ええっと、セージの勉強を少々・・・ですね」


正確に言うと、私の技能は『セージLv2』

実際はソード・ワールドの設定などに詳しいのでもっと高いかもしれない

しかし、何の経験もない最近まで一般人だったのが

ギルドに入って、はい君今日からセージのプロね、とは行かない

ということで、『Lvを詐称した初心者セージ』って感じになっている。


「そうか、依頼の内容から戦闘や襲撃の恐れはないとは言え、

 必ず起こらないとは限らない。

 万が一の場合、君には人命救助に回ってもらうことになるだろう」


事前の役割分担を理解した私は馬車に乗り込んだ

私とタバラさんを含めて総勢10人の冒険者達が馬車に揺られながら数十分



たどり着いた村では『万が一の恐れ』が起きているとは

私はもちろん、他の冒険者達さえ思っていなかっただろう。



「これは・・・何が起きたと言うんだ?」


タバラさんが困惑しながら、村の中を見回していた

壊れた柵、荒らされた田畑、消えた家畜達

そして家屋から出て、広場に集まってお互いの治療をしている老人達がそこに居た


「あんたらは・・・そうじゃった、今日が約束していた日じゃったな」


ややふらつきながらも、一人のおじいさんが私たちに近づいてきた。

その頭部には、真新しい包帯が巻かれていた


「村長さん、これは一体どういうことだ」


タバラさんがヨーカイゴ村の村長さんにそう尋ねる

村長さんはとても悔しい、そんな感情が滲み出る表情で重々しく答えた


「蛮族じゃ、蛮族の集団がつい先ほど現れ、作物も家畜も持って行ってしまった。

 必死に抵抗したが多勢に無勢、誰も死ななかったのが奇跡のようなものよ」

「なんだと?蛮族なら以前に廃坑を根城にしてた奴らは

 ギルドの冒険者が対処したのではないのか?」


蛮族、その言葉で冒険者達の中で小さなどよめきが起こる。

無理もないだろう、リバーウッドに居る人族に対し心を開いた蛮族とは違う。

正真正銘の『人族を憎み、嘲笑い、自身をバルバロスと呼称する敵』だ。


「・・・おそらく、以前に現れたとされる蛮族とは、違う蛮族でしょうか」

「そうじゃな、廃坑の主が居なくなり、代わりに別の盗賊が住み着いたんじゃろう」


ただ、不幸中の幸いと言うべきだろうか

こちらの内の数人は戦闘経験がある冒険者である、対抗手段はある

・・・あるはず、なのに、その状況を私の頭は否定している。

我々は戦う為に来たわけではない、

一部の冒険者はそのつもりで軽装の人が居る、

それが私が『戦うべきではない』と考える理由だった。

ではどうする?

無論、この場合やるべきはギルドへの報告と、対応を仰ぐことではないか


「つまり・・・今からその蛮族を倒しにいけばいいんだな」

「はい、・・・いやはいじゃない、違う違う違う。

 え、もしかしてタバラさん脳筋?」


タバラさんの突拍子もない結論に私は一瞬同意しそうになった


「分かってる、確かに彼我の戦力差は不明瞭だ。

 しかし、ここで応援を呼ぼうとしてる間に奴らは再度、

 まだ残ってる食料を奪いに来るだろう、その時がこの村の人たちの最期だ」


タバラさんの言うことも間違いではない

タバラさんは言葉を失っている冒険者に、こう提案した


「俺がギルドに追加報酬の交渉をする。

 村人から借りれる装備で武装したのち、廃坑の蛮族を討伐する。

 もし君たちの中に腕に自信がある者が居るならば、

 力なき人達のために、その実力を示す時ではないか?」


その言葉に一人、また一人と強く頷いて返す

もちろん私も、ヨーカイゴ村の人のためにできることをしたいと思ってる


「ユイ君、君とレンジャーの心得がある者は村人の救護を頼む」

「いえ、私もついていきたいです。

 邪魔にはならないようにします、私にもできることがあると思います」

「・・・良いだろう、君の気概を買わせてもらうよ。

 だが無理はしないように、頼んだぞ」


本当は怖くて、行きたくないと言えば楽だけれど

ここで私が行かないと、そう思ってならなかった


かっこよく正義感で、と言えればいいけれど

まぁシンプルにタバラさんから脳筋ぽい雰囲気を感じたからだけどね。












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