第7話「初めて依頼を受けた日」

私の中に魔神と、魔神を封印した5本の魔剣が居る


暗い自室の布団の中で、その事実が頭の中でぐるぐるしている。


町長さん達は大丈夫とは言ってくれているけど、

何というか私自身はそういう実感がないと言うか、

魔神が居ても、魔剣があっても、特に何も感じたことがない。

でもなんとなく、だけど・・・


「私がこの世界に来たのって、多分魔神の影響なんだろうなぁ」


王道ファンタジーならきっとそうだろう

力を失った魔神の、力を蓄えるための依り代に選ばれたとか?

だとしたら、次の展開は魔神の力が覚醒した私が次の魔神になって


「・・・討伐されちゃうかー」


嫌だなー、せっかくこの世界の生活にも慣れてきたのに。

いやいや、まだそうと決まったわけじゃないし、

町長さんの勘違いかもしれないし、いやいや、それは楽観的過ぎるか。

魔神モロクを直で見たことある人なら、私の中に居るってことが

はっきり分かるって、そういう気配を感じ取れるらしいし。


「うーん・・・考えても答えはでない、かな」


こういうことは、本人がどれだけ悩んでも簡単に答えが出るものじゃない

私が考えるべきことは明日のお仕事だ、そう、お仕事のことを考えよう


「玄関先の掃除と・・・お花の水やりと・・・」


わずか数秒、私の意識が眠りにつくまでにそう時間がかからなかった





「依頼、ですか?」


翌日、私はギルドマスターであるラピスさんに呼び出された

内容は冒険者に向けられた依頼の件だった


「依頼って言うても、簡単な労働の手伝いやな。

 ユイちゃんも一応はうちの所属の冒険者ってことにしてるし、

 社会経験やと思ってどうやろかな、ってね」


そう言い、ラピスさんは書類を私に手渡した。

内容は村の作物収穫、その為に数名の労働が可能な人を求めているらしい

日数は1日か2日、報酬は一人・・・500G


「随分と羽振りの良い村、なんですね」

「実のところ、ギルドからいくらか援助してるんよね。

 この村にはいつも安く畜産品を仕入れさせてもらってるし・・・。

 ま、持ちつ持たれつ、って言うやん?」


なるほど、と私は納得する

卓やGMによって様々ではあるだろうけど私が聞いたところだと

この世界の金銭感覚はおよそ1Gは100円くらい、だと思う。

つまり1日で仕事が終われば日当5万円相当の依頼である、

そう考えれば、討伐などで大怪我するリスクのない

非常に金銭効率の良い仕事になるはず。


「ほら、ユイちゃんにはウェイトレスとして十分にお給金は出してるつもりやけど、

 冒険者として稼げばもっと自由に使えるお金も入るし、ね」

「そう、ですね。はい、是非やらせてください」


ラピスさんの薦めがあって、というのはあるけど

私自身、真似事でもいいから冒険者としての活動をしてみたかったのもあった。


「それで、この『ヨーカイゴ村』というのはどういう村なんですか?」

「んーとねぇ、人口はおよそ30~40人程で、

 若い人は他の町に出稼ぎに行ったままで高齢者しか居ない村やで」

「・・・要介護の村だからヨーカイゴなんですか?」

「昔からヨーカイゴって名前やね。

 で、畑と畜産で自分達の食べる分を作って、

 余ればうちやリバーウッドの飲食店に安く売ってくれるねんな。」


うちの酒場で出されてる軽食に使われてる野菜と言えば

私も何度か手に取った事があるけど、どれもとても立派に育った物だった

おそらく私が居た世界ではそれなりの値段で売っても

欲しがる人が居てもおかしくないほどだと思う。

それだけの野菜を作る人たちってどんな人だろう、興味が出てきた


「種植えの時期と害虫駆除の時期と台風の時期と収穫の時期は、

 こうしてギルドを通して労働者を募集してるんよねー」

「それってほぼ全ての工程を外注してませんか?」


ギルドが一部負担して依頼を出してほぼ自分達の手で野菜作って

その野菜を格安で買ってるってどう考えてもWin-Winではない、

ヨーカイゴ村の一方的なWinじゃないのか、どうすんのよこの闇のシステム。


「・・・まぁ、まぁ、そういうことは置いといてやな」


ラピスさんもヨーカイゴ村の闇の思惑に気づいたらしい

でも『今気づいちゃったけど、ここで断るのも角が立つから気づかないふりしよ』

って言う考えが手に取るように分かる表情で話を無理やり切り替えてきた


「ユイちゃんにはこれを渡しとくね、何かに使えるかも知れへんし」


そう言い、大きな手鏡のような物をくれた。

手鏡、に見えたけど改めて見ると鏡と思ってた部分から向こうの景色が見える


「これ、虫眼鏡ですか?」


直径は10センチくらい、簡素な飾りに取っ手がついてるそれは

ただ大きいだけの、なんの変哲もない虫眼鏡にしか見えなかった


「前に骨董品屋で買った魔道具なんやけどな、

 魔力を込めることで1日1回、最長で1時間前の景色と音声を

 その虫眼鏡を通して見聞きできる、っちゅー代物やねん。」


ほー、と感心しながら落とさないように肩掛けのカバンの中に仕舞い込んだ


「失くしたものを探すのに便利そうですね」

「せやね、おじいちゃんおばあちゃんの集まりやし、

 長いこと失くしたままで困ってる人とか居たら手伝ってあげてな。

 ・・・って、そろそろ依頼の参加者が集まり始める頃やろか」


言われて、私は思わず依頼書を確認する。

出発は今日の正午、そう、まさに今だったのだ


「・・・私が行かない、って言ったらどうするつもりだったんです?」

「・・・言うとは思ってなかった、かな」

「あははは、そうですね。ありがとうございますラピスさん、行ってきますね」


一礼し、私はギルドを後にした

財宝だとか、そういう心躍る冒険ではないけれど

期待と好奇心溢れるこの世界での

私の冒険者としての一歩が始まった日だった










 





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