第3話「愉快でチートな保護者たち」

「ラピスさん、火をつけました!」


積み重なった沢山の枝からもくもくと出る煙と、

その中で確かに存在している小さな火を確認してからそう報告する


「ありがとなぁ、こっちも野営の準備も終わったから、

 少ししたら周囲の散策していこか」


私とラピスさんが開けた場所にテント張ったりしてる間に

シキさんとオータムさんが少し遠いところまで見回りに行っている


「あの、ラピスさん・・・。

 ラピスさんは、今回の原因って大体予想はついてるんですか?」


私のそんな問いに、ラピスさんは少し悩んでから、こう答えた


「少なくとも、『敵意ある奴』の仕業であることは間違いないやろなぁ」

「まぁ・・・そうですよね、詳しいことはシキさんとオータムさんが

 戻ってから、ですね」

「ただ、この辺りは厄介な幻獣や動物が生息してるから

 蛮族や人族が居を構えてる可能性が少ないと思うんよね」


幻獣、いわゆるドラゴンやペガサスやらユニコーンなど

人前になかなか姿を現さない、文字通り「幻の獣」である

魔法が使えたり、言葉を話したりと

動物のより上位の存在であることは間違いない


そんな危険な存在が近くに居るなら、先に出た二人は大丈夫なのか?


「ねえさーん」


そんな心配をしている私の頭上遥か遠くから、オータムさんの声が聞こえる

それと同時に、さっきまで日光が直接当たるくらいに開けた場所が

大きな影に覆われ、一瞬で辺りは暗くなった


「あのー、ラピスさん。幻獣って、幻の獣だから幻獣なんですよね」

「せやなぁ」


上を見上げ、私は呟くようにラピスさんに聞いてみた

四肢ある胴体、紫色の鱗、体、鋭い牙、赤い眼

大きく広げられた翼は風を受けてながらゆっくりと上下にさせている


それは間違いなく、ドラゴンだった


「どや?生まれて初めてドラゴンみた感想は」

「なんか、本当の本当に、自分の知らない世界に来たんだなぁ・・・って」


ここに来るまでに私が見た生き物と言えば人と、馬車を引く馬、あと虫とか鳥。

そんな、私の世界でも見れるものしか出会ってなかっただけに

この突然のドラゴンの登場は刺激が強すぎて、逆に私の心は冷静だった

ぶっちゃけ、完全に思考が停止していた。


「ただいま、ユイちゃんとラピス姉さんで野営の設営任せてすまないね」


ドラゴンの背中から、オータムさんが軽やかな動きで飛び降りる

なるほど、このドラゴンはオータムさんの、いわゆる『騎獣』と言うものか。


人の手によって訓練を受けた動物や幻獣、過去の産物である『魔動機』などを

専門の知識と技術で乗りこなす、それが『ライダー』という技能。

オータムさんは私の目ではマギテックとシューターしか見えなかったけど、

どうやらドラゴンを乗りこなせるレベルの、相当なライダー技能の持ち主らしい

あとちなみにの話、この世界でドラゴンと言えば

それ1匹が居れば小国を滅ぼすことも可能、と言われていたり言われてなかったり。


・・・やっぱこの人ら相当なチートキャラじゃね?


「そんで、何か分かったやろか」

「うん、思った通りだよ。

 冒険者だか木こりだか、誰かの荷物がいくつかあったから

 シキ姉さんに回収を頼んだ。

 それと、沼地の近くに熊の死骸もあった」


熊の死骸、と聞いて私は困惑した

私が居た世界では熊と言えば『身近に居る、最も狂暴な動物』だからだ

熊に襲われて・・・というニュースを何度も見たことがある


オータムさんがなぜ熊の死骸の話をしたか、

この世界であれば、想像に難くはない


「つまり、熊を狩る何かが居る・・・ってことですか?」


私の問いに、オータムさんもラピスさんも頷く


「ユイちゃんの世界でも、熊は人を襲う厄介な獣ってことなんやね」

「ええ・・・まぁ、よく聞くってほどではないですが・・・」

「この世界ではよくあることさ、だが、

 よくあるからとは言え、甘く見れる話ではないね」


ほんの少しの沈黙

だけど、すぐに聞きなれた声が茂みの中から聞こえてきた


「ただいまー、見つけた遺品はあらかた回収してきたよ」

「おかえり、シキちゃん。それ置いたら皆で沼地に行ってみよか」

「そうだね、シキ姉さんとユイちゃんは大丈夫かい?」


シキさんは「オッケーオッケー」と軽く返事するのに対し、

私の頷きは重く、きっと、怯えた顔をしていたと思う


「大丈夫や、ユイちゃんはうちらと一緒に居たら安全やから」


頭の上に置かれたラピスさんの手は暖かく、

不思議と、安心感があった


「はい、皆さんにお任せします」


この人達は強い、だけど、私はそうではない。

一瞬で、簡単に消えるであろう私の命を

会って間もない、深く知り合った仲ではないこの人達に任せるのは

『任せざるを得ない』から。


・・・と、『普通ならそう思う』のだろうけど

私の心はなぜか、『任せざるを得ない』のではなく

この人達に『任せたい』と、思っていた


「ふーん、さっきまで怯えた猫みたいな顔してたのに。

 お姉ちゃんに頭撫でられただけで安心しちゃって。」


シキさんがつまらなそうに呟きながら、

率先して再び茂みをかき分け奥へ進んでいく。

それをラピスさんが可笑しそうに笑いながらついて行ってしまった


「あの、オータムさん。シキさんのさっきのって・・・」

「あぁ、あれ?気にしなくていいさ。

 シキ姉さんはラピス姉さんが大好きなシスコンって奴なのさ」

「はー?違うしぃー、そんなんじゃないしぃー!」




シキさんの焦ったような大きな声が、静かな森を何度も、何度も木霊したのだった













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