第2話「こんにちはレッドアッシュ」

・・・それから少しして、今の私の馬車の中


「で?」


私を拾ってくれたお姉さん・・・ラピスさんと私は

目の前で腕を組み、足を組み、木箱の上に座っている赤髪の女性の前で

痺れる足の痛みを堪えつつ、正座の姿勢を崩さないように必死だった


「で、馬車を降りてどこかに駆け出したと思ったら。

 帰ってきたときには見知らぬ女の子一人拾ってきた、と」


赤髪の女性は私とラピスさんを交互に見ていた。

その赤髪の女性の後ろには、

黒い髪を腰まで伸ばし、それをポニーテールに一纏めにしている女性が居る

ただ、こちらの黒髪の人は何も喋らず、私たちの様子を微笑みながら見ていた。


「せ、せやねん。ほらこの子、行く当てもないって言うやん?

 こんな可愛い子に対して放っておくなんてできないやん?

 シキちゃんも分かってくれるやろ?」

「・・・お姉ちゃんの言わん事は分からないでもない。

 けどさ、犬猫じゃないんだから、簡単に拾ってきたらダメじゃん。」


ラピスさんの弁明に対して、赤髪の女性、シキさんはそう答えた

そりゃそうよね、犬猫よりあからさまに怪しいし、怪しくなくてもお荷物だもんね。


「拾ってきたところに返してきなさい」

「いや犬猫じゃないんやから、簡単に返したらあかんやろ」


そりゃそうよね。犬猫じゃないんだから。


「・・・まぁ、ウチで置いておきたいっていうなら、

 お姉ちゃんの意思を尊重はするよ、ギルドマスターだからね。」

「え、ラピスさんって、ギルドマスター・・・なんですか?」


【ソード・ワールド2.5】の世界では

冒険者を支援したり、仕事を斡旋するためのギルドがいくつも存在する。

ラピスさんはそのギルドの一つの経営者、つまり最も偉い人らしい。

ちなみにギルドを現代に例えるなら、

『個人経営の派遣会社』みたいなもの、だろうか


「あ、あー。せやね、ユイちゃんには改めて紹介しておかなあかんね。

 うちが冒険者ギルド【レッドアッシュ】のギルドの代表。

 そんでこっちの赤い髪の子がシキちゃんで、

 後ろの黒い髪の子がヒ・・・じゃなくて、オータムちゃんや」


ラピスさんの紹介に合わせて、オータムさんが「よろしく」と呟く

肩出しの黒と赤を基調とした服に、白いネクタイがアクセントになっている、

要所要所がベルトで固定されたカーゴパンツ。

美人でおしゃれな風貌、そして落ち着いた雰囲気を出していた。


そしてシキさんも、こちらも赤と黒を基調とした服装ではあるが

丈のやや短めのワンピースに、腰に巻く・・・コルセット?だっけか。

それにケープを身に着けていて、こちらは品のある雰囲気を出している。

こちらもまた、美人、どこかの令嬢だと言われたら信じてしまいそうだ。


っていうか、ラピスさんもシキさんもオータムさんも美人過ぎない?

なにこの三姉妹、この世界の人って美男美女しか生きてない世界なの?


「シキ・ミクニ。姓が違うからわかると思うけど、

 お姉ちゃんとオータムとは実の姉妹じゃないのよ。

 冒険者の師匠の下で一緒になった、姉妹弟子みたいなものだよ」

「えーっと、もしかして種族も違ったりします?」

「うん、ラピス姉さんはメリアの長命種、シキ姉さんは人間、

 そして私ことオータムはルーンフォークさ」


シキさんに続き、オータムさんも自己紹介してくれた

一応事前には私が転生した身であること、

そしてこの世界についてある程度知識を持ってることは伝えているおかげか

特に種族などについて説明をされることはなかった。


「さ、自己紹介も簡単に済んだところで、今の状況をユイちゃんに説明しよか。

 うちらは今、依頼を受けて森の調査に向かってるところやねん」

「えー、確か森で行方不明者が続出してるから、原因の調査と、その解決ですっけ」

「そ、最初は森に入った木こり、そのあとが捜索に入った自警団。

 蛮族の可能性もあるけど、とりあえず現地についてからね」


ラピスさんの説明に私は確認し、シキさんが代わりに詳細を教えてくれた

・・・が、確かにこの世界、蛮族だけじゃなくて幻獣や獣

もっと言えばロボットまで徘徊してることがある

町の外に出れば何に襲われてもおかしくはない


・・・おそらく、一人二人が消えたくらいなら『そこまで大事ではない』

これが何人も消えたということだから、この人たちが来たというわけだ


「できれば日帰りで終わったらいいけど、下手したら数日野宿になるだろうね。

 ユイちゃんは大丈夫かい?野宿の経験は・・・聞いた話だと無さそうだけど」

「えーっと・・・一応小さい頃に、キャンプの経験が数回ほど・・・」


オータムさんが私の顔を覗き込むように近づきながら、そう心配してくれた

・・・が、顔が近すぎる、徐々に徐々に近づいて、思わず体が仰け反ってしまった


「見慣れない環境で心細いだろう?

 大丈夫、と言っても不安だろうけど。いざというときは私が守るから、ね?」


オータムさんの手が私の顔に触れ、腰に腕を回して抱き寄せようとする

端正な顔が少しずつ、少しずつ、私の顔に近づいてくる


「あ、あのー・・・オータムさんってそういう・・・?」

「おや、ダメだったかい?でもユイちゃんが可愛いからさ。

 そっちも大丈夫、最初は不安だろうけどすぐに女しか愛せな・・・あだだだ!」


もうすぐ顔と顔がくっつくという瞬間、オータムさんの顔が一気に離れていく

オータムさんの背後にはシキさん、ヘッドロックをかけた形で

その腕がオータムさんの首に巻きついていた


「出会ってから口説くまでが早すぎる、ユイが困ってるでしょうが。」

「いやだなぁシキ姉さん、ユイちゃんだって嫌だったら嫌って言うさ。

 ということでユイちゃん、続きはまた後でね」


可愛いと言われたことやオータムさんと顔が近すぎたことやらが

頭の中で映像や音声になって何度も反響し続け、

少しの間を置いて私の顔は羞恥の色に一気に染まり上げた


「ごめんなぁ、オータムちゃんってそういう子やからぁ」


仕方ないなぁーって感じで笑ってるラピスさんにかける言葉が見つからない

が、すぐにシキさんが真面目な話題を切り出してきた


「えーっと、ユイ。あんたがその転生者だとして、

 あんたの世界の話ではその転生者って言うのは、生まれながらにして

 特殊な能力を持ってるわけ?どうなのよ実際、あるの?」


その言葉に、私は少し回答に窮した

・・・実は、あるのだ。


『シキ・ミクニ Lv17 メイン技能 コンジャラー』


・・・と、言う白色の文字が、シキさんの頭の上に浮かんでいるのだ


なんなら、ラピスさんもオータムさんにも、それぞれ見えている

いつから?と聞かれると分からない。ついさっき気づいたのだ。

それくらい文字が小さいし、ある程度距離が近くないと見えないのかもしれない。


・・・ただ、それだけなのである。

最初からすべての魔法を最大Lvで使えるとか、

見た目に反して強靭な力を持ってるわけではない。

本当に『その人のフルネームとLvとメインとしている技能』が見えるだけなのだ


「って言うか・・・」


『ラピス・フリューゲ Lv17 メイン技能 セージ』

『オータム Lv17 メイン技能 シューター マギテック』


Lv17ってそれもう所謂『人間やめちゃった☆』なんだよなぁ・・・

この世界において『人が到達し得る至高のLv』は『15』までである

それを超える『16』、最大でも『17』というのは、

世界を形成した『始まりの剣』なる物を手に入れるなど

よほどの奇跡を起こさない限り、『普通では到達できない領域』なのだ


「えーっと、能力ぅ・・・か、わからないんですけどぉ・・・。

 皆さんがめちゃくちゃ強い、というのは・・・分かります」

「・・・?それは、ユイの能力かなんか?」


私はおそらく、と付け足して頷く。そして、そのことをざっと説明した。


「確かに、うちらからはそういう字が見えてないし・・・。

 それ以外が思い当たらないなら、それがユイちゃんの能力って奴やな」


ラピスさんにそう言われて、私はなんとも言えない気持ちになった

いや、転生したことについては嬉しいとは思うけどさ・・・

これでもっと強い能力が欲しいというのはさすがに欲張りなんだろうか。

欲張りか、そうよね、確かに欲張りだ。


「ただ、使い道がないわけではないさ。

 敵の近くに行けばその敵の能力がわかる。

 ラピス姉さんの『知識量』に軽く匹敵する、貴重な能力だよ」


そう、オータムさんがフォローしてくれた。

そう言われれば確かにそうかも知れない。

現代は分からないことがあればすぐに調べれる、

ただ、この世界ではそうではない、情報はとても大きな力になるはずだ

・・・が、一つ大きな問題があるわけで。


「私、戦えないですよ?」

「大丈夫、そのうち最低限自衛できるくらいには特訓しよう」


なるほど、流石にLv17の冒険者から教われるならある程度生きていけそうだ。

『今死ななければの話』だけど。


「さ、そろそろ到着するから、皆準備してなぁ」


ラピスさんの号令に合わせて、各々の荷物を手に取り始めた

そして、数分しないうちに馬車はゆっくりと動きを止める


「ええか、目的は行方不明者の捜索と、原因の排除。

 無理だけはしたらあかんで、ユイちゃんはシキちゃんの傍から離れないようにな」


ラピスさんの言葉に、私は真剣に頷く。


かくして、私の異世界の命がけの大冒険は、転生初日から始まるのだった









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