紅い聖女(12)
「乗り込むって、どこに?」
「どこって言われても、一つしかないじゃない。廃ビルよ。犯人がいる廃ビルに乗り込むの。クロエ、あんた場所をある程度特定出来ているのでしょう?」
「確かに特定はできているのだけど、確実にこことは言い難い。足りないんだよ。確信できる物が。それに岩山さんは明日一緒に乗り込もうと言っているんだ。ここは彼に従って明日決行するべきだと僕は思うよ。」
僕はあくまで岩山の意見を尊重した。確かに岩山は怪しいが、ここで勝手な行動をするのは逆に自殺行為だと思ったからだ。
「あんた、まだ岩山を信用しているの?」
まあ一応と曖昧な返事をすると、ジャンヌがより一層真剣な表情をしながら今日学校に着いた時の話をし始めた。
*
そう。何とこの襲撃作戦は皐月さんが提案したものであった。ジャンヌの勝手な行動だと思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。彼女はいい加減で面倒くさがりな所があるが一応天才なので、僕達では考えないような事を考えているのだろう。まぁここはとりあえず、ジャンヌの言う通り今日の夜はビルに向かうことを決めた。
「まぁ、とりあえず皐月の家に行きましょう。細かい話はそこからよ。」
*
「あの。すみません。ちょっといいですか?」
皐月さんの家に入った瞬間、僕は一つ彼女にお願いをした。
「なんだい?何でも言ってくれたまえ。可愛いお手伝いさんの頼みなんだから、可能な限りはなんでも答えるさ。」
「少し時間をください。このゴミ屋敷を綺麗にしますので。」
*
小一時間経ち、ようやく掃除が終わった。今朝までは綺麗だったはずなのに、どうしてここまで汚くなるのかといつも疑問を抱いてしまう。もはや、地面からゴミが生えてくるのかもしれないとまで思うほどだ。
「お疲れ様。今お茶を入れたから、少し休憩しよう。」
誰のせいで疲れてるんですかと言うと、彼女は平謝りをしながら笑顔を見せた。
「ふぅ。さて、クロエ君。ジャンヌちゃんに話は聞いているね?」
「はい。今日犯人がいると思われる廃ビルに襲撃をするんですよね。」
「その通りだ。場所はもう分かっているのだろう?」
「えぇ、確実とは言えないのですが、誰もいないはずの廃ビルに毎日違う女性と出入りしている人物がいます。。神隠しの被害者も女性ばかりだから犯人がそいつだと仮定すると、奴の本拠地はそのビルで間違いないと思っています。」
「なるほどねぇ。確かにそいつは怪しいや。ところでそのビルに通っている人は、男性なのかい?女性なのかい?」
「それが、目撃者曰くどちらか判断できないそうです。遠目で見ているのだろうから仕方がないと思うけど、皐月さんはどう思いますか?」
「どう思うと言われてもどう答えたらいいか分からないけれど、私は少しその目撃者も怪しいと思うなぁ。ちなみにその人はどこに住んでいるのか分かるかい?」
「えっと、廃ビルの前の家らしいです。」
「ほう…?」
皐月さんがニヤリと口角を上げた。どうしたのかと聞くがいや何も無い、気にするなと流してくるので、気にはなるけど、気にしてないふりをした。
「さぁ、私の中で条件は整ったよ。さぁ二人とも!お風呂に入ってきなさい!!」
「「…え?」」
今すぐ出発的な雰囲気だったので少しびっくりしたが、まだ八時だったので彼女の言葉に従って風呂に入ることにした。勿論、一人ずつである。
「じゃあジャンヌ。昨日は僕が先に入ったから、今日は君が先に入っていいよ。」
「じゃあお言葉に甘えて先に入るわよ。別に私は一緒に入ってもいいのだけれど、今はそんな風に遊んでいる暇はないわね。それじゃあまた後で。」
そう言ってジャンヌは風呂場の扉を閉めたのだが、僕はしばらくその場に立ち尽くした。だって今、彼女の口から『一緒に入っていい』と聞こえたのだから。僕をからかっているのだろうか。任務前で緊張している僕をリラックスさせる為の粋な計らいなのか。真相はよく分からないが、僕は顔を赤くして風呂場から出た。
「おやおや?クロエ君、やけに顔が真っ赤じゃないか。どうかしたのかい?ジャンヌちゃんの裸体でも見たのかな?」
「いいえ、見てないですよ。いや、見ていないです。僕が、そうだ。彼女の裸を見たところでどうかするわけがないです。いや、そんなことよりも、なんでそんなことを聞いたのですか?」
「ははは。明らかに動揺しているじゃないか。裸体を見ていないにしろ、お風呂場の前で何かあったのだろうねぇ。いやぁ、それにしても君は本当に面白い子だ。」
やめてくださいと少し怒り気味に返すと、彼女はごめんごめんと言って今夜の準備をしだした。
*
僕が風呂から上がると、既にジャンヌは準備万端で僕を待っていた。
「ほらクロエ。早くしましょう。」
「あぁ。それにしてもなんだ?その包帯ぐるぐる巻きの物体は。」
「あぁ、これね。皐月が持っていけって言うから持っていこうと思って。彼女曰く剣が入っているとか入っていないとかだけど。」
なるほどと言って、僕も準備をし始めた。
「ああ、クロエ君。上がったんだね。もう行くだろう?これを持っていきなよ。まだ試作品だけども、この前のグローブを改良してみたものだよ。テストをしていないから、体に変化が現れたらすぐに外すように。わかったかい?」
「分かりました、ありがとうございます。」
彼女からグローブを受け取ると、ズボンのポケットに入れた。
「よし、それじゃあ行ってらっしゃい!二人とも無事に帰ってくるんだよ。」
「はい。必ず神隠しの犯人をやっつけて帰ってきますよ。帰ったらパーティをしたいので、今から準備をしていてくださいね。」
「あぁ、こう見えて私は小学生の時から飾り付けの上手さから敬意を込めて飾り付け名人と言われていたくらいだよ。だから任せておきな。」
「それは楽しみだ。それじゃあ、また後で。」
そう言って僕達は、皐月さんの家を出た。
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