紅い聖女(11)
凪が死んだことは僕以外の誰にも伝えられなかったようで、僕以外のクラスメイトは皆凪が何らかの理由で不登校になったと思い込んでいた。と言うより、僕も正直先生の言ったことを信用していないというか、一人の友達として信じたらいけない気がした。死んだだろう。だとか、死んだに違いない。だとか。そういうのは、友達以前に人間として信じたらいけないものだと思っている。
*
僕はある日教師に呼び出された。なんとなく理由は分かったのだが、今更僕に何を聞こうと思っているのだろう。
「黒宮。凪のお墓参りに行ってあげてくれ。」
その一言は、僕を不安にさせると同時に友達が死んだ事実を押し付けられたような気がして非常に気分が悪かった。
「…分かりました。」
口上ではそう言ったが僕は墓参りに行くつもりはなかった。凪の墓をこの目で見てしまったら、凪が死んだ事実をまるで認めているような気がしたから。凪はまだ、死んでなんかいない。
凪は死んでない。
凪は死んでない。
凪は死んでない。
凪は死んでない。
否
凪はもう死んでいる。
目の前にある彼の墓石が、僕の彼がまだ生きているのではないかという希望を粉々に砕いた。
「よう。クロエ。どうやら死んだらしいな。ソイツ」
目の前のありもしないような現実に打ちひしがれてる僕に対して、その声は無神経に声を掛けてきた。きっと優しさだとか思いやりだとか、そんなものはその声の持ち主には無いと思う。
「全く、人が死んで悲しんでいると言うのに、君はものの聞き方ってのがなっていないよ。」
そう、僕に話しかけてきたのはもう一人の、いや、僕ではない。僕の中にいる僕じゃない誰かだ。僕の意識では呼び出すことも話しかけることも出来ないのだけど、極々稀にこうやって、話しかけてくることがある。まぁ話すと言っても声を口に出して話す訳では無いのだが、感覚としては『心の声』で話すようなものである。例えるなら、漫画などでよくある台詞の吹き出しとは別に、主人公の心情や気持ちを表す吹き出しのようなものだ。
「それはそうとして、何か用かい。また僕の体を使って何かしようとしているのか?別にそれはそれで今更何か言うつもりはないのだけど、人を傷つけたり、僕の名誉に関わるようなことだけはしてたまるなよ。」
「あぁ、わかっているさ。こっちはお前に体を借りている身なんだ。意識がないとはいえ、そんなに勝手な真似をするほど俺も常識知らずでは無いよ。」
彼のことを信用しているかと言われたら自信を持ってYESと答えられる勇気はない。僕が体を貸す時、必然的に僕の意識はシャットダウンされる。体が帰ってきた頃にはよく分からないところに居たり、誰かの血が着いていたりすることもよくある。
「あぁ、そうそう。今日お前に話しかけたのはちゃんとした理由があるのだよ。何、俺が理由も無しに出てくる訳がないだろう。」
確かに、彼とはなんの理由もない、友達同士で交わすように
「遂に見つかったよ。俺が探していたあいつが。」
あぁそうか。ついに見つかったのか。僕の体はやっと僕だけのものになるのか。彼と別れるとなると少しは悲しくなると思っていたのだが、
「見つかったといっても、どこで見つかったと言うんだ?」
「なぁに、すぐ近くさ。近頃同じタイミングで三箇所、火災があっただろう?それは恐らく奴の、いや、恐らくというより確実に、彼女の仕業だろう。」
彼は少し嬉しそうに僕に話した。これが、僕と彼の最後の会話である。辺りが真っ暗になった。次起きる時は、もう体は僕だけのものになっているだろう―――――――――――。
*
放課後。その言葉から何が連想されるだろうか。寂しさや虚無感を抱く人や解放感や自由感を感じる人もいるだろう。しかし、僕は放課後に『恐怖』を抱く彼を連想する。今はもう死んでしまったけれど、自由が嫌いな彼はきっと、放課後に対して恐怖を抱くだろう。
今日もいつものように中庭のベンチに座って彼女を待っていた。先程買ったエメラルドマウンテンが、冷えた体を温める。
「お待たせ。クロエ、ちょっといいかしら。人がいない所に行くわよ。」
合流して早速、
「なぁジャンヌ。こんなところに来てどうするんだ?確かにこんなところ誰も来るはずないとは思うけど、なにもここまで来なくていいじゃないか。」
近所の公園の裏にある、山の入口付近にまで来た。ここでようやく彼女は足を止め、僕の顔を見つめた。
「クロエ。」
「どうしたんだ。かしこまっちゃって、ジャンヌらしくない。」
「大事な話っていうのは、誰にも聞かれてはならないことなの。神隠しの犯人が誰かわからない以上、学校や近所に犯人がいないとは断言できないから、犯人の意表を付くためにここまで来たの。」
「事件のことか。なにか新しい手掛かりでもあったのか?」
「いいえ。手がかりじゃない。今日の夜――――――――――――――乗り込むわよ。」
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