紅い聖女(9)
放課後。その言葉から何が連想されるだろうか。寂しさや虚無感を抱く人や解放感や自由感を感じる人もいるだろう。しかし、僕は放課後に『恐怖』を抱く。理解が出来ない人もいるだろう。しかし、僕は自由が怖い。何にも縛られない自由が怖い。そんな僕は高校に入学してある男と出会った。
「大丈夫ですか。」
その優しく包んでくれるような声は後ろから聞こえてきた。その声に振り向くと一人の男が立っていた。
伸びきって目が隠れた黒い前髪、細いが筋肉質な体。そして同性ながら『美しい』と思ってしまうような顔立ち。ここまで恵まれた容姿ならさぞかし人気だろう。これが、僕と黒宮クロエとの出会いである。
*
放課後。僕が一人で家に帰っていると黒宮が走ってどこかへ向かっていた。少し気になったので後を追うことにした。
「ここは…どこだ?」
夢中になってしばらく追いかけていると道に迷ってしまったようだ。そもそもなぜ彼を追いかけたのか、自分でもよく分からない。来た道を思い出したがら帰ろうとしたその時である。
「危ない!!」
その声に反応出来ず僕は何者かの攻撃を喰らってしまった。脇腹が熱い。ドクドクと脈打っているのがわかる。そして何よりも―――――――――痛い。
「良けれなかったのか?お前、ドジだな。」
そう言うと黒宮は僕の脇腹を攻撃した何者かの方へ向かった。
「さぁ始めようか!さっきからウズウズしてんだよ。早くお前を殺させろ!」
本当に彼は黒宮なのだろうか?普段温厚な彼が『殺したい』なんて吐くとは到底思えない。きっと黒宮に似た誰かなのだろう。そう信じ込み彼の行動に目を見張っていた。
*
「隠れてないで出て来い。もうそこにいるのはわかってるんだよ。」
僕は目の前に居るであろう標的にそう言い放った。四日かけてここまで来たのだ。もう人の目など気にしている場合じゃない。
「出て来ないなら――――――――――――もう行くぞ。」
視野が一瞬で赤く染まる。まるで地獄の奥底にある世界の様だが、僕はこの色が大好きだ。赤は血の色、内蔵の色。温かい色。殺したい殺したい殺したい殺したい。この赤い色は僕の殺人衝動を大きく動かす。
腰にあるナイフを手に取り、走り出す。そこから先は一瞬の出来事だった。銀色の綺麗なナイフの刃は赤く染まり、空の色は元に戻っていく。温かい血が僕の体に降り注いだ。
「黒……宮…?」
赤く染った僕の後ろから一人の男がそう問いかけた。彼が言う通り僕は黒宮クロエだ。
「あぁ、そうだ。あいにくお前が知っている黒宮では無いと思うが。」
*
目の前で何が起きているのか理解ができなかった。人殺しなのか。なぜ人を殺すのか。それは自由だからである。法律という決まりがある中、人間は自由に、何も考えずに生活する。法律なんて忘れて、人は人を簡単に、当たり前のように傷つける。そんな自由が僕は怖い。
「僕が知ってる黒宮は…一人だけだ…お前みたいな人殺し……僕は…知らない……!」
先程斬られた脇腹が痛む。こうやって声を出すので精一杯だ。
「あぁ、お前が言う通り一人だけさ。俺はこの『黒宮クロエ』の体を借りている。言うなれば今の体はハリボテだよ。この体は便利でね。これさえあれば何でもできそうだ。」
僕にそう言うと、彼はなにか思い出したかのように再び喋りだした。
「あぁ、そうそう。お前、怪我してたな。ちょっと大人しくしておけよ。」
そう言うと彼は僕の脇腹に手を当てる。あたたかい光が傷跡を照らし、痛みがどんどん引いていく。彼は。いや、黒宮クロエは。魔術の才能は学年最下位レベルのはずだが、上級である回復魔法を使えたなんて聞いていなかった。
「どうしたんだ。驚いた顔をして。」
「お前…回復魔法なんてどこで覚えたんだ…」
「俺は昔から使える。まぁ黒宮クロエが回復魔法所か下級魔法も使えないことは俺だって知っているけれども、こいつの体にある魔力は底が知れねぇ。だからこうやって素早く治療できているんだよ。普通の体ならもっと遅いさ。
僕が答える前に彼はどこかへ行ってしまった。明日、黒宮はいつも通り学校へ来るだろう。その時に魔法を少し教えてやろうと思った。
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