紅い聖女(5)
「私は一応探偵だけど、こういう作業や制作なども得意だからね。」
そう言って彼女は白い布で作られたグローブ、と言うより手袋をこちらに渡してきた。触ってみた感じ、特にすごい手袋のようには見えない。
「ほら、早速つけてみなよ。きっとその凄さに腰を抜かすと思うよ。」
彼女に言われた通りに付けることにした。しかし、ここで予期せぬアクシデントが起きた。
「あれ。小さい…」
サイズが小さく、指が完全に入らない。
「しまった。これは誤算だった。次は二回りくらい位大きなサイズを作ろう。既に作ったものをもう一度作り直すだけだから、三日もあれば完成するよ。」
「三日ですか。それじゃあ岩山さんとの約束に間に合いません。もう少し早く作れませんかね?」
二日後(日付が変わっているので正確には明日)に岩山との約束があるので急ぐように皐月さんにお願いすると、彼女は不思議そうな顔で僕に質問した。
「岩山?誰だいそれは」
「あれ。皐月さんの知り合いじゃないんですか?警察の人で、以前皐月さんと働いてたとか言っていたのですが…」
「ハハハッ!面白いことを言うなぁ、その男は。私は生まれてこの方探偵一筋だよ。第一、よく考えてみてくれ。こんなに無責任な警察官は嫌だろう?」
間違いない。警察に通報してこの人が来たら不安でしかない。
「でも、なんで岩山さんはすぐにバレるような嘘を付いたのでしょうね。」
「うーん、それは私も実際に会わないと分からないね。でも間違いなくその岩山と言う男は、神隠しについて何か知っているはずだよ。今度あったら聞いてみなよ」
「分かりました。それにしても岩山さんは、なんで僕と皐月さんのことを知っていたんでしょうね?」
「君を知っていることはよく分からないが、私を知っている事は対して珍しい話ではないよ。何を隠そうこの私はここらじゃ珍しい女探偵だからねぇ。私が先程外に出ていた時に気が付かなかったかい?ざっと五人以上は私の事を殺そうとして物陰に隠れていたよ。」
五人どころか一人も影を忍ばせていることに気が付かなかった。さすが探偵、と言ったところだろうか。
「それにしてもまずいことになった。私の可愛い可愛いお手伝いさんの存在がここまで拡がっていたなんてね。」
「どうしてそれがまずいんですか?」
「いいかい?私はただでさえ先程言ったように命を狙われているんだよ。分かりにくいから逆の視点で考えてみよう。君がどうしても殺したい人物が一人居た。これをAとしよう。Aを殺すためにAについて調べているとAの身近にAより弱い協力者が居たとする。君ならこのAの協力者をどうする?」
「えっと…Aを殺す時に障害になる可能性があるので、その協力者から殺します。」
「よくわかっているじゃないか。つまり私が言いたいのはそういうことだ。暫くの間は無駄な外出を控えた方がいいよ。」
ジャンヌがいるから大抵の事では死なないと思うが、念の為皐月さんの言う通り無駄な外出は控えようと思う。
「今日はもう遅い。君は明日も学校があるだろう?早く寝た方がいいんじゃないのかい。」
「はい。それじゃあ寝ようと思います。」
作業室を出ようとする僕に彼女はおやすみと言って手を振った。
*
今日は昨日の予定では暖かくなる予定だったのだけど、雨が降っているせいで部屋の中は冷たく寒かった。隣で寝ていたジャンヌを起こし、朝の準備を始める。
「なぁ、ジャンヌ。」
僕は一通り昨晩のことを話した。岩山の事と皐月さんが命を狙われていること。彼女は興味無さそうにふぅんと言って朝食を作る手伝いをしてくれた、と言っても盛り付けるだけだが。
*
「それじゃあ行ってらっしゃい。気をつけてね。『いのちだいじに』だよ。」
「皐月さん、ここまで送ってくれるのは嬉しいのですが、皐月さんの方が危ないんじゃないですか?」
僕が心配していると彼女は鼻で笑って自慢げにこう答える。
「チッチッチ。私を誰だと思っているんだい?」
「さ、皐月さんですけど。」
「いやいや、そうだけれど、私が聞いているのはそういうことじゃないよ。私の心配は無用ということさ。他人の心配をするくらいなら、自分の心配をした方がいい。ほら―――――。」
彼女がそう言うと僕のすぐ横を銃弾が通り抜けた。あと数ミリ右にいたら頭に直撃していただろう。
「二人共!ここは私に任せて早く逃げなさい。」
僕は最初は逃げることを躊躇ったが、皐月さんを信じてその場を預け逃げ出した。
*
二人が逃げ出したのを確認すると、
「さてさて。如何にも今から死にます的な事を言い放ってしまったが、私を殺すことが出来るのかい?君は。」
私が自信満々にそう言い放つとどこかに隠れた狙撃手は私を狙う。
「当たらないよ。君の場所はあらかた予想が着いているからねぇ。死にたくなければ今すぐに銃を置いた方がいいよ。今なら見逃してあげないことは無い」
私の忠告に従わない狙撃手は銃の引き金を引く。鈍い発砲音がここら一体に響き渡る。私の忠告に従わずに銃を撃つという事は死ぬ覚悟ができているという事で解釈していいだろうか。
「三秒。三秒後に、君を殺してあげよう。」
相手が狙撃銃を使うのに対してこちらは素手。そこらに落ちていた少し丈夫そうな木の棒を拾い、狙撃手の方へ足を運んだ。狙撃手は休まずに銃を撃ち続ける。
銃声。
銃声。
銃声。
三度目の乾ききった銃声と共に辺り一面は血飛沫で赤く染まり上がった。
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