紅い聖女(3)
「やぁジャンヌ。そのくらいにしておかないとその子たちが死んじゃうよ?君は一般人の何倍も力が強いんだ。死んでからじゃあ遅いだろう?」
陽気に話す彼女こそ僕らが協力している皐月さんだ。いつも家に引きこもっているので外出はしない彼女なんだが、今日は珍しく外に出ている。
「こんにちは、皐月さん。外に出るなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
「いやぁ、あまりにもクロエ君達が遅いから様子を見に行こうと思ってねぇ。またあのカフェにいると思ったんだが、こんな所にいたとは想定外だ」
どうやらジャンヌが不良少年達と戦っている(と言っても傍から見ると一方的な暴力だったが)途中に六時を過ぎたようで、いつも五時位に来る僕達を心配して外に見に来たのだろう。
「皐月、邪魔しないでよ。いい所だったのに」
ジャンヌが不機嫌そうに皐月に言った。
「ジャンヌ。暴力を楽しんではいけないよ。暴力を楽しむことは殺戮者と同じだからねぇ」
殺戮者。大勢の人間を惨たらしく殺す殺人鬼の事である。
「別に楽しんでなんかないわよ。ただこいつらがケンカを売ってきただけで…」
「何を言ってるんだ。先に話しかけたのはジャンヌだろう?」
「それは…」
ジャンヌは何も言い返せなくなりいじけ始めた。彼女の顔は整っており、かなり大人びた凛々しい姿をしているのだが、性格はかなり幼く小学生を見ている様だ。
「まあその子達は帰してあげなさい。それより、早く家に来なよ。ゴミが散らかってるままだよ?」
「あのですね…少しは自分で片付けることを選択肢に入れた方がいいと思いますよ。このままじゃいつまで経ってもゴミ屋敷のままだ」
「ゴミ屋敷だって?クロエ君は恩師の家をそうやって侮辱するのかい、酷いなぁ」
「だって事実じゃないですか。皐月さんは分かりやすいお世辞は悪口になることを知らないんですか」
言い返せなくなった皐月はむきになって言葉を投げ捨てた。
「うるさい!いいから早く私の家に来るんだ!そして片付けろ!」
*
「うわぁ…」
空いた口が塞がらない。昨日片付けたばかりなのに足の踏み場がない程散らかっている。
「あれ。開きませんよ」
リビングのドアにゴミが支えて上手くドアが開かない。
「これはちょっとコツがいるのさ。こうやって…」
ドアを壊れそうな勢いでドンと蹴り開けた。
「うわぁー………」
玄関も凄かったがリビングは比べ物にならないほど散らかっていた。一体どんな生活をすれば一日でここまで散らかすことができるのだろうか。
「クロエ〜。一緒に片付けましょう」
「あぁ。じゃあまずはこの山積みになったプリント類から片付けよう」
両手で何百枚もあるプリントを持つとピラリと一枚のプリントを落としてしまった。
「ごめんジャンヌ。これ取ってくれるか?」
「えぇ、いいわよ」
ジャンヌが拾ったプリントをふと見ると、未解決事件の事が書かれてあった。
「詳細不明の誘拐犯―――か。死亡者三十名の大事件で犯人は未だに見つかっておらず。五年前の事件だけど聞いたことがないな。こんなことあったんだ」
「私はここに来てまだ一年くらいだから聞いたことないわね。それにしてもこの事件、今回の神隠しより酷いわ」
現在神隠しによる行方不明者は二十一名。この資料に書かれてある行方不明者兼死亡者は三十名なのでこちらの方が被害者は多い。
「もしかしたら神隠しと何か関係があるのかもね。」
もしそうだとしたらこの事件の犯人は50人以上の人を攫ったことになる。ここまで誘拐に成功した人物は他に居ないだろう。
*
一通り片付けが終わり、部屋に入ってきた時とは見違えるほど綺麗になった。
「2人共お疲れ様!今日は遅いから泊まっていきな〜」
時計の針は一を刺していた。片付けに夢中になって時間の経過を忘れていたようだ。
「それじゃあお言葉に甘えて…」
「お風呂入っていいよ。二人が片付けてくれている私さっき入ったしね」
「ジャンヌ、どうする?」
「先にクロエが入っていいわよ。」
ジャンヌの言葉に甘えて先に入ることにした。僕は服を脱ぎ風呂に入った。体を洗い流し浴槽に浸かる。
「冷たっ!!!」
風呂のお湯――とは言えない温度の水が体に響いた。冬場なのも相まって凍え死にそうになった。
「クロエ君どうした?急に大声を上げて」
「風呂の水が冷たすぎますよ!!」
「そりゃあそうさ。私がお風呂に入ったのは9時だからね」
それを先に言って欲しかった。
水を沸かし終えもう一度浴槽に入る。今度は熱いお湯が冬の寒さに凍えた体全体を温めてくれる。
今日のことを振り返ってみる。学校に岩山が来て協力を頼まれたこと。毎日神隠しによる行方不明者が増えていること。グローブを強化してもらうこと――――――――そういえば完全に忘れていた。風呂から上がったら皐月さんに強化してもらおう。
僕のグローブは魔力を強化できるという特殊なグローブだ。グローブと言っても野球やゴルフなどで使う厚手の物ではなく手袋のような物である。仕組みはイマイチ分からないが、これを使えば魔力が低い僕でも強い魔法を使うことが出来るはず。そう考えていると居ても立っても居られず浴槽から飛び出た。急いで体を拭きパジャマに着替え、皐月さんの元へ向かう。
「皐月さん、そういえばこの前貰った未完成のグローブ持ってきました!」
「あぁ、あれか。ちょっと持ってきてくれるかな?いい機会だから今日完成させてしまおう。」
僕は鞄からグローブを取りだし、皐月さんに渡した。グローブを受け取った皐月さんは作業室に入っていった。
「じゃあ私は風呂に入ってくるわね。」
「わかった。上がったらゲームでもしよう。」
「えぇ、いいわよ。今回も私が圧勝してあげる。」
ジャンヌは気分良さそうに花歌を歌いながら風呂場へ向かった。
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