紅い聖女(2)

 チャイムが鳴り響き生徒達はぞろぞろと帰宅し始める。僕はジャンヌを待つためにベンチに座って新聞を読んでいた。新聞にはいつも通り神隠しのことが書かれてあった。


「おーい、クロエ。まった?」


 ジャンヌが遠くから手を振っている。僕も今来たところだと伝えたら、彼女は走ってこちらの方に向かってきた。


「おまたせ。じゃあ皐月の所へ向かうわよ」


「あ、ごめん。皐月さんの所に行く前にちょっと伝えておきたいことがあるんだけど――――。」


 僕は今朝の事を全てジャンヌに伝えた。


「岩山ね…聞いたことないわ。でも岩山って奴は皐月繋がりでクロエの事を知っていたんでしょう?なら協力してもいいと思うわよ」


「ジャンヌも手伝ってくれるかい?」


「えぇ。もちろんよ。だって私達はなんだから」



 *



 皐月さんの家に行く前にカフェに寄っていくことにした。カフェと皐月さんの家は徒歩五分程度の距離で、僕達はこの店の常連である。


「いらっしゃい。今日は何にするかい?」


 このカフェのマスターがいつものように話しかけてきた。僕達はいつものように窓辺の席に座る。


「マスター、アイスコーヒー二つ」


「かしこまりました」


 注文を終えてふと時計を見ると時計の針は五時を指していた。もうこんな時間かと思いながらも店内に置いてある雑誌を手に取った。


「やっぱりここにも神隠しの事が書かれているよ。今日は学生が二人と二十代の女性が一人行方不明になっているらしい」


「増えていく一方ね。そういえば朝場所が分かったとか言ってたじゃない。それはどこの事なのかしら?」


「恐らくだけど、ここから少し離れた廃ビルだと思う。廃墟になってから数年間人の出入りはなかったらしいのだけどここ最近廃ビルに出入りしている人物が居るらしいんだよ」


「でもそれを犯人と呼ぶのはまだ早いんじゃないの?」


「そのビルの向かいに住んでいる人の情報では、その人物は毎日違う女性と一緒にビルに入っているらしい。神隠しの被害者も女性ばかりだから犯人はそいつだと確定していいと思うな。ジャンヌはどう思う?」


「確かに、犯行との共通点が多いわ。でもそこまで目撃情報があるのなら犯人が男か女か分かるもんじゃないの?」


 確かにそうだ。僕は話を聞いただけなのでよく分からないが実際に見たのなら顔が見えなくても体格や雰囲気でが男性が女性か分かるはずである。


「お待たせしました。アイスコーヒーでございます」


 神隠しについて二人で考えている間に頼んでいたコーヒーが届いた。僕は早速アイスコーヒーを一口飲む。僕はコーヒーを普段飲むことは無いのだが、ここのコーヒーは自然と体に染み入ってくるような深い味わいだ。ジャンヌはと言うとコーヒーに角砂糖をこれでもかと言うほど入れている。苦いものが嫌いなのだろう。


「クロエ、食べ物を頼んでもいい?」


「いいけど、あまり食べすぎないようにね。いつ僕らが神隠しの犯人と戦うか分からないんだから」


 僕の注意を軽く流しいちごのパフェを注文した彼女は自然と笑みをこぼした。彼女の笑顔を見ているとこちらも自然と嬉しい気持ちになり、調査に忙しい日々を忘れてしまいそうになる。


「あ、クロエ。そういえばは持ってきてるの?皐月に見せてもらうんでしょう」


「忘れずに持ってきているよ。今も鞄の中に入れてる。これが完成すれば僕の魔法は確実に進化できると思っているからね。楽しみでウズウズしているよ」


 熱心に語る僕に対してふぅんと興味無さそうに彼女は冷めきった返答をした。



 *



 会計を済ませカフェから出た僕達は皐月さんの家に向かうことにした。


「ねえクロエ。あれは何?」


 彼女が指を差した先にはたむろしている髪を染めた学生たち―――――言わゆる『ヤンキー』が道を塞いでいた。


「あれは不良だよ。やめておきなさい、あれに関わるとろくな事がないから」


 と僕が忠告を終える前に彼女は不良集団の元へ向かった。


「こんにちは。何をしているのかしら?」


「なんだ姉ちゃん。俺らに文句があるのか?」


「ええ、あるわよ。あなた達が邪魔でここを通れないの。痛い目を見たくなかったらさっさとここを退いてくれる?」


 不良達は彼女の言葉を聞かなかった。


「なんだ?姉ちゃん。知らねぇのか?俺たちはここら一体を占めてるんだ。逆らったらどうなるか分かるよな?痛い目見るのはそっちだ。姉ちゃんの可愛い顔を傷つけたくなかったらさっさと帰りな」


「…退く気は無いのね」


「あ?」


「後悔しなさい。」


 始まってしまった。ジャンヌはああなると誰も手を付けられないから僕は遠くから様子を眺めることにした。先程まで威勢の良かった不良達が次々とジャンヌの前で膝を着いてゆく。まるでヒーローショーの下っ端達の様だ―――まあ下っ端の相手をしている彼女は決してヒーローらしい戦い方では無いのだが。


「つ、強い…化け物だ…!」


「あら。まだ喋る余裕があるのね」


 彼女はそう言うと喋っていた不良の腹に肘を入れた。彼女の肘打ちをもろに喰らった不良は白目を剥いて倒れ込んでしまった。


「ジャンヌ、それ以上やったら死んじゃうぞ?」


「いいえ。人間はこんなもんじゃ死なないわ。私これでも手加減してるのよ。何人も人を殺すようじゃと同じになっちゃうじゃないの」


 誰のことを言ってるのか一瞬で察しが付いた。思い出したくもない人物だ。


「あ」


 彼女が不良を完膚無きまでに叩きのめしていると、その奥から赤い髪を持った気だるげな女性が僕の視界に入った。

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