紅い聖女と黒い朝

早乙女ペルル

紅い聖女(1)

「まったく、誰のせいでこんなことになったのかしら?」


 彼女はそう言うと肩まで伸びた金色の髪を風に揺らしながら僕を睨みつけた。


「悪かったよ。それよりもうすぐ目的地に着くんじゃないか?」


「ええ、すぐそこよ。ほら、もっとスピード上げるわよ!」


 僕は手袋をつけながら走った。手がかじかんでなかなか上手く付けることができない。ようやく片方の手袋を着け終えた所で目的地に着いた。


「ここよ」


 僕らの目の前に廃ビルが建っている。僕らの目的はだ。


「さあ、行こうか―――――」



 *



 僕は黒宮くろみやクロエ。どこにでもいる魔法使い見習いの高校生だ。


「おーいジャンヌ、朝だぞー」


 彼女を呼ぶが返事はない。朝に弱い彼女はまだ布団の中に包まって寝ているのだろう。仕方がないので起こしに行ってあげることにした。


 部屋に入ると案の定体を小さくして寝ている。最近寒くなってきたのでずっと布団の中に入っていたい気持ちはわかるが、このままじゃいつまでたっても布団の中から出てこないだろう。


「起きろー。もう七時だぞー」


「うーん。あと五分だけ〜」


「おいおい、起きないなら先に行っちゃうよ」


 僕がそう言うと彼女は飛び上がるように布団から出てきた。


「まって!起きた!起きたから!」


「よし偉い。朝飯はもうできてるから一緒に食べよう」


 今日の朝食はご飯、味噌汁、しゃけ。至って普通だがジャンヌはこれがいいらしいのでいつも作ってあげている。


「あ、ジャンヌ。そういえば昨日コンビニから帰ってる途中にに関する情報を聞いたよ。あれは完全に人の仕業だ。場所も突き止めてある」


 神隠し。最近ニュースなどになっている、未成年を中心に行方不明になっている謎の事件だ。その手がかりの少なさと行方不明者が誰一人としてまだ見つかっていない事で世間からは『神の悪戯』と呼ばれている。『神の悪戯』には警察や探偵もお手上げ状態だ。何故そのような難解な事件を僕達が追っているかと言うと――――――――


「一般人が一度に何人もの学生を連れ去るなんて不可能よ。皐月さつきも人間ではないって言ってたし」


 皐月さつき 彩火あやか。現在個人で探偵をやっている女性だ。僕達は現在で彼女の手伝いをしている。そして彼女が今追っているのが先程話した『神の悪戯』だ。僕は彼女に情報収集を頼まれているので毎日街で聞きこみ調査を行っている。


「まぁ、今日皐月さんの所に行ってこの事を言ってみよう。それより早く食べないと遅刻するぞ?」


「ちょっと待ちなさいよ。もぐもぐ…」


 そう言って彼女は急いでご飯を頬張った。そして支度を終え、家を出た。


「そういえば、昨日は何人が行方不明になったのかしら?」


「四人だよ。これで十七人目。それに行方不明になった人は皆学生か女性なんだ。恐らく犯人は男性だろうね」


「どうして男性だって分かるの?」


「だって、女性だけさらうなんて妙だろう?それに力的に考えても、一度に二人以上を連れ去るなんて女性には不可能だよ。」


 すると彼女が不機嫌そうに反論した。


「そうかしら?私なら二人以上所か十人以上でも連れ去ることが出来るわよ。私はそこらの成人男性より筋力も握力も強いんだから」


「こら。そういうことあんまり言うもんじゃないぞ。行方不明になった人の親族の方に失礼じゃないか」


 彼女がうつむいてボソボソと呟く。


「だって…本当の事じゃない」



 *



 他愛もない話を彼女としている内にあっという間に学校に着いた。僕達が登下校している学校は普通の学校ではなく、魔法を中心に取り扱った私立の魔法高校だ。


「じゃあ、放課後またここで」


 そう言って僕は彼女と別れた。僕と彼女はクラスが違うので基本的に学校内で会うことはない。偶に廊下で見かけるのだが、彼女の周りを友人らしき人物が囲んでいるのでなかなか話しづらい。なので放課後に中庭のベンチで待ち合わせをしている。


 自分の教室に向かっていると何やら騒ぎが起こっていた。どうやら隣のクラスの生徒が『神の悪戯』によって行方不明になったらしい。


「おい、警察が来たぞ!」


 生徒が指を差した先には二人の警察官がいた。一人はかなりがっしりとした体つきで如何にも『警察官』のようなルックスだがもう一人は対照的にかなり小柄で中性的な顔立ちだ。


「やぁ、生徒さん達。先生を呼んで来てくれるかい?」


 小柄な方がそう言って一人の生徒に教師を呼びに行かせた。すると大柄な方が僕に近づいて来た。


「お前が黒宮か?私の名前は岩山いわやまだ。少し時間を頂こう。私についてこい」


 どうやら僕のことを知っているらしい。何故警察が僕のことを認知しているのだろうか。疑問を持ちながら岩山に言われた通りついて行った。



 *



 しばらく歩いて校舎裏に着いた。


「で、僕になにか様ですか?もうすぐ授業が始まってしまうので手短にお願いします」


「分かった。単刀直入に言うと君の力を貸して頂きたい。最近神隠しが起きていることを知ってるだろ?私はそれを追っているのだが全く証拠が掴めなくてな。そこで皐月の手伝いをしている君に助けて貰おうと思ったわけだ」


 皐月という名前がこの男の口から出てくるとは思わなかった。それが気になったので力を貸すかどうかの前に皐月さんの事を聞いてみることにした。


「あの、岩山さんは皐月さんの知り合いなんですか?」


「皐月とは昔からの仕事仲間でね。彼女も元は警察だったのだが退職して探偵になった。今でもたまに連絡を取り合う仲で君のことも彼女から聞いていたんだ」


「ということは、ジャンヌのことも知っているんですか?」


「ジャンヌ?それは誰だ?」


 どうやら岩山は僕の事しか聞かされてないらしい。ジャンヌと僕は一緒のタイミングで皐月さんの手伝いを始めたはずだが、何故皐月さんは僕の事しか伝えなかったのだろうか。


「それはともかく、どうなんだ?協力してくれるのか?」


「少し考える時間をください。あと、協力するならジャンヌと一緒に行動したいので協力するのが僕だけじゃないことを頭の中に入れておいてください」


「分かった。二日後またここに来る。その時までに考えをまとめていてくれ」


 そう言って岩山は学校を後にした。

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