第3話 ゾンビならではの特徴もある

 ゾンビに噛まれて死ぬ瞬間は確かに凄い恐怖があったけど、いざ殺されてゾンビになってみると思いの他悪くない。




 まず、利点から挙げていくとしよう。




 1つ目、体が死んでいるせいか、疲れや痛みといった類いのものは無い。

 どれだけ動いても、どれだけ活動していても生きている頃に比べると疲れというものが一切無い。

 疲れ事態は蓄積されているのだろうが、脳も含めて肉体が死んでいるからそれを伝える信号が無いのだ。

 夜更かししてゲームをするのには最適だ。



 2つ目、既に死んでいるから食事の必要も無い。

 こんな世界なのだ。食料を探すのは困難で、あったとしても他人に奪われるのがオチ。

 そんな中で食事を必要としないのはとても助かる。

 ……というよりゾンビが餓死って何かイメージ湧かない。

 あ、因みに排泄の必要もありません。



 3つ目、脳が壊れているから肉体を制御するものが無い為に、常にリミッター解除状態。つまり、火事場の馬鹿力常時発動。

 これは対人を考えたらかなりの強み。




 簡単な利点としてはこんなものかな?

 次に欠点。




 1つ目、体が機能を停止しているから治癒はしない。

 今の僕は首を噛まれて即死したから首の周り以外はあまり傷が無いが、これ以上どこか何かの拍子に傷つけてしまったら首の傷も含めて治癒されることは無い。

 早い話、腹を切られたら内臓を出しっぱなしで歩かなきゃいけない。

 なんてグロイ。まるでゾンビ。

 ……あ、僕ゾンビでした。



 2つ目、常時火事場の馬鹿力のお陰で大抵の障害物は難なく除去出来るのだが、少しでも限度を越えてしまうと骨や筋肉が粉砕されて動かなくなってしまう。

 当然それも治癒しないのだからそうなってしまったらお手上げだ。使い物にならないものをぶら下げておくしかない。

 故に、僕は無理をしなければ通れない所は通らない。

 安全第一これ大事。



 3つ目。2つ目と似たような感じだが、実は僕達ゾンビはリミッターが外れているが故に生きている人達が思っているよりもかなり速く移動することが出来る。

 100m走なら本気で走ったら多分5秒台は出る。

 世界記録から約4秒程速く走ることが出来る。

 でも、それをしないのはあまり速く走りすぎると肉体が壊れてしまうからだ。

 僕達ゾンビが普段ノロノロフラフラ歩いているのはその歩き方が一番体に負担を掛けないからなのだ。

 急いでる時は本当に大変。



 4つ目。これ重要。

 まだ生き残ってる人間は僕達(ゾンビ)を見つけると銃だったり日本刀だったりバールのようなものだったりどこから調達してきたんだ!っていう武器を装備して襲ってくる。

 話しかけようとしても問答無用で襲ってくる。

 しかもあいつら超足早い。

 僕達基本ロクに走れないのに。

 何この理不尽。

 だから人間見つけたら速攻避難。

 僕の常識ね。

 他の人(ゾンビ)は違うみたいだけど。



 欠点はこんなものかな?

 よし、最後に身をもって判明したゾンビの特徴を。




 1つ目。ゾンビ同士なら会話が出来る。

 基本僕達は『アァァァァ』とか『ウゥゥゥゥ』とか呻き声しかあげることが出来ず、生きていた時のように喋ることが出来ない。

 なのにゾンビ同士なら何故かそれで会話が成立する。

 英語を聞いているのに日本語に翻訳されて頭の中に入ってくる感じだ。

 理由は不明。



 2つ目。1つ目で分かるように、ゾンビにも意思はある。

 というか僕がそうだし。

 元々死者を蘇らせる前提でこのウイルスを作っていたからなのか、死して尚僕達には意思がある。

 勿論その意思の強度も様々で、ゾンビによっては異なる。

 多分、僕みたいにここまで意思がハッキリしているのは稀なんだと思う。

 さっき出会った友達は残念な感じだったし。

 でもわりと普通に会話出来るゾンビは多い。



 3つ目。ゾンビになった時点で必ず何かを消失している。

 あ、生(せい)じゃないですよ。

 生(なま)でもありません。

 どちらかと言うと僕達は生物(なまもの)に近いですけど。



 例えばさっきの友達なら記憶能力。この前見た人なら理性。わりと多いのが方向感覚。つまり、方向音痴になるゾンビ。

 生前なら当り前だったことがゾンビになってから出来なくなったり無くなっているものが必ずある。

 僕とてそれは例外じゃなく、僕は殆どの感情を失ってしまった。

 喜怒哀楽なら喜と怒と哀。

 親友や家族が生きていたとしても僕は別に嬉しくないし、死んでいても悲しくは無い。

 当然この世界が破滅するきっかけとなった製薬会社にも恨みはない。


 他にも恋心や探求心といったものもまず残っていない。

 あれだけ生きている時は生きることに必死だったのに、今となっては何が僕をあんなに突き動かしていたのかが分からない。

 勿論完全に感情が消えたというわけでは無いが、それは無いにも等しいカケラ程の感情だ。

 ……もっとも、そんな感情あったところでって感じなのだけど。

 だって僕ニートだし。

 余計なこと考えたくないし楽して過ごしたいし。



 4つ目。わりと五感が敏感。

 特に聴覚は敏感だ。

 多分、1㎞ぐらいなら人間の足音や会話を集中すれば聞こえるし、視力も両目3.0以上には上がってる。

 お陰で人間を早期発見してすぐに逃げることが可能。

 触覚も言わずもがな。これ無いと多分ゲーム出来ないし。ありがたや。

 あ、でも嗅覚と味覚は微妙かも。

 食事はしないし、そう言えば最近臭いというものを感じた覚えがない。

 訂正。

 わりと三感に敏感。



 5つ目。やたら人間を食べたがる。

 理由は分からないが、ゾンビは人間を見ると体が壊れるのもお構いなしに襲いまくる。

 で、食べる。(申し訳程度にちょっとだけ)

 で、死んでゾンビになる。

 何がしたいのか全くもって不明。

 腹が減るわけでもないのにね。

 僕にも一応そんな感じはあるのだが、理性で抑えている。

 だって嫌じゃん。人間食べるのって。

 気持ち悪いし返り討ちにされたら本末転倒だし。

 何よりわざわざ食べるメリットがない。

 ハイリスクノーリターン。

 ニートは危険を冒さない。



 特徴はこんな感じかな?

 こうして改めて考えてみると不自由なことが多い気がしないでも無いが、結論僕にとっては大した問題にはならない。

 いくつも欠点があったとしても、不便なことがあったとしても、それでも尚僕にはこの世界を楽しむことの出来る理由があるのだから。

 その答えは当然……



 大前提としてこの世界が崩壊しているから!!!



 もう学校なんて面倒な所に行かなくてもいいし、勉強をする必要も無いし、就職進学を考える必要も無い。

 当然働く必要が無ければ誰かを養う必要も無いし、何もしなくても日々を活動出来る。


 生きていれば誰かを助けたり平和な世界に戻ったらまた何気ない日常へ少しずつ戻るのかも知れないが、既に僕死んでるしゾンビだし?

 そんなのマジ関係ないんですけど的な?


 まぁそういうわけでゆっくりダラダラが正義(ジャスティス)の僕には今の世界は正に理想郷(ユートピア)!

 あぁ素晴らしきかなゾンニート。

 やりたいことを何でもしがらみ無く出来るのがこんなにも素晴らしいなんて。

 生きていたら絶対に味わえない感覚だ。

 皆も早く死ねばいいのに!


 

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