姉さんを看病

「…奏方…」


「あ」


 どうやら姉さんが起きたみたいだ。


「姉さん、具合はどうだ?」


「も、もう…大丈夫、です…」


 そう言って上体を起こそうとする姉さんだが、それすらもままならないような状態なことが少し見るだけでわかった。


「無理しないでいい」


「…すみません、天気予報では本日は雨天だと言っていなかったので傘を持って行ってなかったのですが、帰っている途中に振られてしまって…」


 秋ノ瀬と似たような感じらしい。


「そうか…とにかく今は休んでくれ」


「はい…」


 姉さんの息遣いが荒い…そうだ。


「姉さん、体温計を持ってきたから、これで体温を測ってくれないか?」


「わかりました…」


 姉さんはその場で制服のボタンを外し、体温計を差した。

 少し下着が見えてしまっているが今はそんなことも言ってられない状況なため特に気にすることはしない。

 やがて体温計の軽快な音が鳴り響く。


「どうだ?」


「…三十八度のようです」


「そうか…」


 重症ではないが軽症とも言えない。

 姉さんは体温計を俺に手渡した。


「…そう言えば私、制服のままベッドに居るんですね」


「あぁ、勝手に脱がすわけにはいかなかったからな…」


 姉弟とは言えそれは流石にいけないだろう。


「…申し訳ないのですが、着替えさせてくれませんか?」


「…え?」


「お恥ずかしいのですが、今は着替えすら十分にできそうにないのです…」


「…わかった」


 姉さんはなんとか上体を起こしてくれた。

 俺は姉さんの部屋のクローゼットにかけてあった姉さんのパジャマを取り出すと、姉さんの制服に手を掛ける。


「はぁ…ぅ…」


 姉さんは苦しそうだ、早く寝てもらわないと。

 俺はもうすでにボタンは外れている制服のブレザーと、制服のシャツの方も姉さんから脱がせた。

 …冷静になれ、冷静に。

 今俺の目の前には大きな二つの物体があるが、本当に今はそんなことを言っている場合ではないため俺は冷静になりながら、姉さんにパジャマを着せることに成功した。


「ありがとう、ございます…」


「あぁ…」


「…その、下もお願いできますか?」


「わかっ…た」


 …やはり下も俺が着替えさせないといけないのか。

 上も上で色んな意味でハードルが高かったが下は下で更にハードルが高い、できれば目隠しでもしたいところだ。

 だがそんなことをすれば姉さんに気を遣わせてもらうかもしれない。

 普段助けてもらってるのにこんな時にまで気を遣わせるなんて、できるわけがない。

 俺は姉さんのスカートに手をかけた。


「…あれ」


 ここで、俺の女性経験の無さが襲ってきた。

 俺はスカートをどうやって脱ぐのかを知らない。

 恥ずかしい話だが、露那とも付き合っている時にスカートを脱がすような事態にまでは行かなかったからな。


「……」


 こんなことを姉さんに聞いても子供扱いされそうだし、どうにかして自分で探さなくてはならない。


「んっ…!?」


「え、姉さん?」


 俺がどうにかしてスカートを脱がそうと手当たり次第探していると、姉さんが突如変な声を出した。


「ど、どうかしたのか?」


「…いえ、なんでもありません」


 なんでもないことはないと思うが…だが本当に分からないな、ここは仕方ない、姉さんに聞いてみるとしよう。


「姉さん…その…」


「スカートの脱がせ方がわからないのですか?」


「あ…」


 言うまでもなく、見破られてしまっていたらしい。


「そう…だ」


「わかりました」


 姉さんが手をスカートに近づけると、どこからかカチッという音が聞こえた、これで脱がせられるようになったということだろうか。


「今の音はどこから…?」


「秘密です…それよりも、少し安心しましたよ」


 安心…?

 …今は目の前のことに集中するか。

 俺は姉さんのスカートを下ろし、できるだけ下着を見ないように見ないようにとパジャマのズボンを姉さんに履かせた。


「…はぁ」


 これで文字通り、一息つけそうだな。


「ありがとうございます…奏方、少しお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


「あぁ、なんでも言ってくれ」


 今の試練に比べればどんな願い事でも安いものだろう。


「では…本日は、一緒に寝てくれませんか?」


「…え!?」


 と思ったが、割とこっちの方がハードルが高いかもしれない。


「一緒にって…同じ部屋で、ってことか?」


「いえ、このベッドで、添い寝して欲しいなと」


「……」


 百歩譲ってただの添い寝ならまだなんとか耐えられるが、今の姉さんは…なんというか、弟がこんなことを言うのも非常に気色悪いと理解しているんだが。

 …非常にセンシティブな雰囲気がする、そんな姉さんと一緒になんて、俺は果たして睡眠を取ることができるんだろうか。

 だが…


「いけない…でしょうか…」


 こんな顔で断られたら断れるわけがない。


「わ、わかった」


 俺は一度自分の部屋に戻りパジャマに着替えてから、姉さんの部屋に戻ってきた。

 姉さんに誘導されるがままに姉さんのベッドに上がる。

 …やはり高校生二人だと狭く感じるな。


「おやすみなさい、奏方」


「あ、あぁ」


 俺は顔を姉さんとは逆の方向に向ける。

 姉さんは俺のことを抱き枕だとでも思っているのか、俺のことを抱きしめてきた。


「え…?」


「奏方…大好きです…」


 大好きって…家族として好きでいてくれてるってことか。

 その他にも何か呟いているようだった。


「私と、けっ…こ…ん…」


 何を言っているかはわからないがとにかくこんな狭いベッドで姉さんと…

 俺はそんなことを考えていると、この夜…一睡もすることができなかった。

 なお、姉さんが時々寝言で俺に対して愛を囁いてきていたことも、確実に影響している。

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