雨の日

 休日の雨の日。


「来ちゃった」


「来ちゃったって…え!?」


 ずぶ濡れの秋ノ瀬が突然俺の家に来た。


「なんで俺の家を知ってるんだ…?」


「あぁ、天海にプリント届けるって嘘ついて実は結構前から家の場所自体は知ってたんだよねー」


「な、なるほど…」


 まだ彼女にもなっていない自分のことを好きだと知っている人に住所がばれていることほど怖いものはない。


「上がっても…いいかな?」


「え…傘は無いのか?」


「うん、朝の予報では降るなんて言ってなかったけど振られちゃってずぶ濡れ、だから天海のお家で雨宿りさせてもらえたらな〜って思って…だめかな?」


「…わかった、そういうことなら」


 俺は状況が状況だけに仕方なく秋ノ瀬のことを家にあげた。


「ほら」


 俺は濡れている秋ノ瀬にタオルを渡した。


「あ、ありがと…これ、普段天海も使ってるの?」


「あぁ…あ、俺のが嫌だったら姉さんのもある」


「ううん!大丈夫、嬉しいよ」


 嬉しい…?

 …タオルをくれて嬉しいということなのか、それとも俺のだったら嬉しいということなんだろうか。

 …告白された相手が家に来て、余計なことばかり考えてしまう。


「天海の部屋、行ってもい?」


「…あぁ、大丈夫だ」


 雨宿りの間ずっと何もしないのは流石に気まずくなりそうだし、俺の部屋に入ることくらいは別に良いだろう。

 俺はそう考え秋ノ瀬を俺の部屋に招いた。


「わぁ、これが天海の部屋か〜、あ、いきなり来ちゃってごめんね…?もし見られたく無いものとかあったら隠しても良いよー見ないから〜」


「無い!」


「え、あ、そうなんだ…天海の好み知れると思ったのに…」


 秋ノ瀬は何故か残念そうにしている。


「……」


「……」


 そして、俺の部屋には沈黙が生まれた。

 …気まずい。

 こういう時秋ノ瀬とかは普段友達と何の話をしてるんだろうか…もし今流行のドラマなんかの話をしてるんだとしたら俺は普段ドラマとかを見ないため手札が無い。


「黒園さんはこの部屋に来たことあるの?」


「無い」


 露那の部屋に入ったことは何度もあるが、露那が俺の部屋に入ってきたことは今のところ無い。


「…じゃあ私が天海の部屋に入った初めての女子ってこと?」


「姉さんを除けば」


「そっかそっか〜、女子と部屋で2人きりなのに天海はなんか欲求があったりしないの〜?こんなこと滅多に無いと思うよ〜?」


「あるわけない」


「へぇ…私は、あるよ?」


 …最近の秋ノ瀬は積極的のベクトルが少しおかしい、俺に告白してからだが明らかに以前の秋ノ瀬とは俺に対して振る舞う態度が異なった。

 告白なんてしたんだから当然と言えば当然なんだが俺がその変化に対応できるかはまた別の話だ。


「あのな、そんな風にからかうような事言ってるといつか痛い目を見るからやめたほうがいい」


「天海以外には言ってないもん」


「じゃあ将来もしかすると俺が痛い目を見せるかもな」


 もちろんそんなことはしないがこれはこれからの秋ノ瀬の教訓にもなってくれるかもしれない重要事項だ、多少の嘘も方便というやつで見逃してもらおう。


「天海が私に痛い目を見せてくれるの?」


「…かもって話だ」


「どうやって私に痛い目見せれるの?」


「え…それはまぁ、あの手この手でっていうか…」


「具体的な案出てないじゃん!やっぱり天海は根から優しいんだね〜」


 秋ノ瀬は俺の方を見て笑っている。


「だから…うん、そんな優しい天海になら、本当に何されたって良いって思えちゃうんだね」


「…秋ノ瀬は、もし俺と恋人なったらどんなことをしたいんだ?」


「振られる可能性がる状況で私にそんなもしの話させちゃう?」


「…悪い」


「冗談じゃん!気にしてないよ、うーん、したいことは色々あるよ?お出かけとか、それこそ家で一緒にゲームするとか」


「…そうか」


 これは俺のミスだったな…こんなことを聞いたらもし秋ノ瀬を振るにしても振った後で必ず俺には痛みが来る。


「…そうだ、天気予報でも見るか」


 俺はこの空気から逃げるようにテレビをつけて、天気予報を確認する。

 ちょうど俺が住んでる地域の天気予報のようだ。


「本日は、集中豪雨、突発的な雨の日となりました、晴れることはまずないでしょう、皆さん風邪には気をつけて、体を温かくしてください」


 とのことらしい。

 どうやら本当にいきなり振られてしまったらしいな、これは秋ノ瀬が濡れてしまっても仕方ない。


「えぇ、今日ずっと雨なんだぁ」


「…今日は俺の傘を貸すか」


「え、良いの?」


「あぁ、今日は出かける予定はない」


「そっか…ありがと!」


 その後は明るく談笑しつつ、暗くなりそうな時間になりかかった時間に秋ノ瀬には傘を貸して、家に帰ってもらうことになった。


「よし…」


 無事何事も無かったな。

 俺はそろそろ来たるであろう優那ちゃんの配信のために飲み物とお菓子を万全に準備して部屋で読書しながら待機していた。


「…え?」


 俺が少し読書に集中していると、その集中を掻き消す音が聞こえてきた。

 玄関からだろうか。

 俺は階段を降りて玄関に向かう。


「え、ね、姉さん!?」


 そこには買い出しから戻ったであろう姉さんが買ってきた荷物と、顔を赤らめて倒れている姉さんの姿があった。


「ど、どうしたんだ?」


「はぁ…はぁ…」


 俺は姉さんのおでこを触ってみる。


「あ、熱い…」


 これはもしかして…風邪!?

 俺はすぐに姉さんを姉さんの部屋に運び、水に浸したタオルを姉さんのおでこに置いて応急処置を済ませた。

 …どうやら優那ちゃんの配信は今日は見られそうにないな、姉さんの看病をしなくてはいけない。

 俺は絶対にアーカイブでは見るから許してくれと神様に伝え、姉さんの看病を始めることにした。

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