友達として

 学校の休み時間、教室に座っていると生徒会室に行くようにと俺の名前だけが呼び起こされ、俺は生徒会室に向かった。


「あ、きたぁ〜」


「…職権濫用」


「そんな硬いこと私たちの関係で無し〜」


「俺たちの関係はそんなに…」


 と言おうと思ったが長くやっていたゲームのフレンドさんだった…


「私達って運命だと思うんだけどー?」


「前も言ってたけど…意味が分からない」


「だってゲームで一緒に遊んでた人と同じ県にいて同じ学校にいて今現実でこうして近いところでお話ししてるんだよ?」


「それは…愛生さんが俺から少しずつ情報を引き出して行っただけで、運命とかじゃないじゃないですか」


「でもさー、普通そこまではできないと思わない?」


 確かに普通はそこまでできないが愛生さんはそれをして俺の居るところまで突き止めてきた。


「だからー、これは運命なんだってー」


「運命っていうか…愛生さんの努力じゃないですか?」


「え、褒めてくれてるー?」


「違います」


 やっぱりこの人と会話しているとペースが乱されるな…

 露那と秋ノ瀬の件でインパクトが強すぎて危うく忘れかけていたがこの人に告白…されてるんだよな?

 …だがあれは告白と言っていいのか。

 半分以上冗談だと受け取ることもできる。


「ねぇー、私と付き合ってみないー?試しに」


「嫌です、試しにとかもっと無理です」


「ひどーい」


 露那か秋ノ瀬を振るとなればこちらにもそれ相応のダメージがあるが、愛生さんの場合はふざけた態度をとっているために何の罪悪感もなく振ることができる、酷い話だが。

 本当にあの時ゲーム画面さえ見られなければ…


「もしかしてあの女の子と付き合ってるから私とは付き合えないみたいなことー?あんなにゲームチャットでは仲良く話してたのにー」


「露那とは…付き合ってないですけど、それとは関係無しにあんまり愛生さんのことを深く知らないので付き合えないです、むしろ愛生さんはどうして俺のことが好きなんですか?」


 以前には結婚なんていう遠すぎる未来のことも言っていた。

 冗談にしたってそこまでいうのはなかなかなものだろう。


「好きに理由なんているー?」


「この場合は要ります!」


 ここはしっかりと断言させてもらっておこう。


「それを話すためには、私の生い立ちから話さないといけないけどー」


「生い立ち…?」


「私は、人間の女の子に生まれ……」


「待ってください、それ絶対長くなりますよね?」


「理由を求めて来たのに今度は長さまで調整するのー?」


「う…じゃあ今はやっぱり良いです」


「そうー?」


 しばらくの沈黙が訪れる。

 …ゲームとしてのAIさんはキャリーとかしてくれて、ゲーマーなイメージだったが愛生さんは今のところ気怠げ…ダウナーというんだろうか。

 ダウナーマイペースたまに露那に似ている、といった雰囲気だ。


「そうだ、今度ゲーム教えてあげよっかー?他にも色々と君とやりたいゲームがあったの、ひとまずは友達として」


「え、友達として…?」


「うん」


 友達としてなら…良いかもしれない。


「じゃあ…遠慮なく」


「今度の週末私の家来れるー?」


「無理です」


 そんなことしたら露那も確実だが秋ノ瀬にだって…告白の返事もできてないのに、友達だからといって他の女子の家に行くなんてこと俺にはできない。


「えー、なんで……」


「愛生さん!」


「…あ」


 姉さんがすごい勢いで生徒会室に入ってきた。


「奏方の方をこれ以上困らせると…怒りますよ」


「えぇ〜、美月怒ると怖そうだからやだぁー」


 前一度姉さんに迷惑をかけるからと相談等を控えていたことを怒られたりしたが、その時は確かに怒りの感情もぶつけられていたがどちらかというと喜怒哀楽の哀の感情だった気がするため、正確には怒られたという認識がない。

 つまり俺は姉さんがしっかりと怒っているところをまだ人生で見たことがない、というか今後も見ることなんてないんじゃないだろうか。


「奏方、大丈夫ですか?何かおかしなことをされませんでしたか?」


「あぁ、大丈夫だ」


「…これからはもし生徒会として何か用事がある時は姉が直接奏方の教室に行くので、放送で流れても生徒会室に来てはいけませんよ」


「なるほど…わかった」


 これにより俺が単体で呼び出されても本当に大事な要件なのかそれとも愛生さんの恣意的なものなのかがはっきりとわかるというわけだ。


「全く…愛生さん、奏方のことを勝手にどうこうされてしまっては私だって困ります」


「姉弟だからって過干渉じゃないー?」


「そんなことはありません」


 俺は2人のいざこざに巻き込まれたくはないため、部屋から出ようとするが、愛生さんに改めて言っておく。


「愛生さん、申し訳ないですけど…改めて、愛生さんが本気で言ってたのかは分からなかったですけど、愛生さんとは付き合いません、先輩として、友達としてなら喜んでお願いします」


「…はーい」


「付き合い?奏方?どういうことですか?」


 俺は姉さんに深く問い詰められる前に、生徒会室を後にした。

 …あとは、愛生さんが上手く誤魔化してくれるだろう。

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