美月は姉
朝六時起床。
私の一日はここから始まります。
朝起きてまずすることは、奏方の寝顔を見に行くことです。
これは他の誰でもない、私だけに許されたこと。
「…ん…ぁ…ぅ…」
良い夢を見ているのでしょうか…とても愛らしいです。
奏方の起床時刻は大体七時頃、私よりも約一時間ほど遅くに起床します。
「…奏方、好きです」
「ん……」
…眠っている奏方になら言えるのですが、やはり起きている状態の奏方に言うのはとても難しいことです。
先日は奏方の前の前で気を失ってしまうというとても恥ずかしいことをしてしまいましたし、このままでは姉としての威厳が保てません。
私はすぐに料理を済ませ、着替え、軽い洗顔も済ませます。
「…そろそろ奏方が起きる時刻ですね」
私は奏方が下に降りてくる前に、必ずいつも瞑想をしています。
…少し言い方を変えねばなりません。
瞑想ではなく、妄想です。
奏方が私のことを恋人として扱ってくださる妄想、その妄想の中でだけは奏方は私のことを姉さんではなく
「美月、甘えてもいい?」
等と言ってくださり、妄想ではありますがそれでも奏方が甘えてきてくれるのです、この人間の想像力というのはとても素晴らしいもの。
「姉さん、おはよう」
「おはようございます、奏方」
とはいえ、奏方に私がそのような妄想をしているなどということは絶対にバレてはいけません、そんなことがバレてしまえば奏方に失望されてしまうかもしれないからです。
…そんなことがどうでも良くなるくらい寝起きの奏方も愛おしいですね。
「今日もどうしたものか…」
「以前の恋のお悩みですか?」
「あぁ…」
二人同時に言い寄られるとは…奏方なら当たり前かもしれませんが、そのお二人が羨ましいですね。
私が好意を示しても、奏方は悩むまでもなく姉弟だから、ときっと即座に私の好意は断るのでしょう。
…しかし、本当に酷なことです。
奏方は優しいですから、きっとどちらかを選ぶなんて酷なことをしなければならない時には、それ相応の精神的外傷があるでしょう。
そうなった時…誰が奏方を支えるのか。
それは、姉である私が奏方を支えるべき。
ですが…私はそうなった場合に、奏方のことを支えてあげられるかがとても不安です。
「…嫉妬してしまいそうで」
「嫉妬?」
「いえ、なんでもありません…」
ここ最近、少し口に出てしまう言葉が増えてしまいました…今まではわざわざ口に出したりはしなかったのですが、最近は無意識に出てしまいます。
…おそらく私の本心では、奏方に私の想いに気づいて欲しいから、気づいてもらうためにこのような状態になっているのでしょう。
「奏方、勉強の調子はどうですか?」
「あぁ、大丈夫だと思う」
…本当は勉強の調子なんてどうだって良いんです。
良かったら凄いと褒められますし、悪ければその分奏方は私を頼ってくれます。
そう考えると、悪い方が良いのかも…なんて、悪い考えに至ってしまいますね。
「あれ、ボタンが上手く…あ、緩くなってるのか」
奏方の制服のボタンが緩くなってしまっているようです。
「姉が直してあげます」
私はすぐに裁縫道具を取り出し、奏方の目の前に移動。
「じっとしていてくださいね」
「わかった」
奏方は全く動かなくなりました。
私は制服のボタンをしっかりと縫い付けていきます。
…あぁ、ダメですよ奏方、そんなに隙を見せられたら。
「…少しボタンを全て外していただいても良いですか?」
「え、多分ここ以外は大丈夫だと思う」
「ここは縫い終わったので、念のための確認です」
「そういうことなら…」
奏方は私が言う通りに全てのボタンを外しました。
…こういうものを性的刺激、というのでしょうか。
ボタンを取っただけなのにどうして奏方はこんなにもかっこよくなってしまうのでしょう、信じられません。
私は見ただけでも他のボタンに異常が無いことは分かっていますが、それでももう少しこのかっこいい奏方を目に納めておきたいため、奏方には教えてあげません。
そろそろ登校時間というところで、奏方には大丈夫だと告げ私たちは久々に一緒に登校しました。
「……」
こうして歩いていると、周りの方からはどう見えているのでしょうか。
私たちのことを見ただけで姉弟だとはわからないと思いますし…となると。
恋人…?
そう考えると少し口角が上がってしまいますね。
…こんなにも可愛い奏方が他の方のところに行ってしまったら、私は許容できるのでしょうか。
以前に交際経験があったことを私は知りませんでしたがもし交際していることを知っている状態で日々を過ごさなければならないとなると…
そんな未来だけは絶対に嫌ですね。
「奏方」
「ん」
「…絶対に奏方を困らせてしまいますが、それでも今度奏方に言いたいことがあるので、言っても良いですか?」
「あぁ、もちろん!」
「…ありがとうございます」
…この奏方の笑顔を、私は将来濁してしまうんですね。
実らないと分かっていても、傷つけてしまうだけだと分かっていても…この想いを、伝えずにはいられないんです。
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