誘いと否定

 どうする…どう答えれば良い。

 ここで運命だなんてその場凌ぎで答えるのは絶対にダメだ。

 その失敗を俺はもう何度も繰り返している。

 どうすれば……


「愛生さん!」


「え?」


 生徒会室のドアが開いたかと思えば、姉さんが突然入ってきた。


「何も職務的な用事がないのに副会長の名前を使って奏方を呼び出すなんてしてはいけませんよ?」


「えー、ちょっとこの前の話の続きしたかっただけだよー」


 愛生さんは元のマイペースな雰囲気に戻っている。


「ねー?かなたぁ」


「え、はい…」


「…そうですか、それならば良いのですが、今後は一度私を通してからにしてくださいね」


「はーい」


 すると姉さんはすぐにドアの方に行き部屋を出るようにと促してきた。

 …愛生さん、あれもこの人の一面なのか。

 …だが露那とそっくりとは言ったが、なだけであってではないと言うことだ。

 まだこの人には少しの温もりがある。

 おそらく普段はマイペースで何かきっかけがあると一時的にこうなってしまう感じなんだろう。

 …それにしても、まさかAIさんが…


「…さっきの答えはまた、ね」


 そう囁くと、愛生さんはすぐに生徒会室を出て行った。

 俺もすぐに生徒会室を出て教室に戻った。


『♪』


「え?」


 メール…?

 普通なら学校の時間帯、こんな時間帯にメールが来るなんて滅多に無い。

 誰からのメールだろう、そう思ってトーク画面を開くとそれは秋ノ瀬からのメールだった。


「って…」


 秋の瀬は斜め前に2個ほど席を挟んではいるが今同じ教室の中に居る、どうしてメールなんだ。

 秋ノ瀬はちらっと俺の方に振り返ってきた。

 おそらくメールに返信をしてくれと言うことだろう。

 俺は改めてスマホに視線を落とす。


『よかったら来週のVtuberの人が来るイベント一緒に行かない?』


 クラスの人に見せたらお腹とは言わず顔面を殴られてしまいそうな文章が送られてきていた。


「…はぁ」


 秋ノ瀬はきっと俺に友達がいないことを見越して優しさでこう言う文章を送ってきているんだろうが、その優しさに甘えるわけには行かない。

 俺はすぐに文章を返す。


『気持ちは嬉しいが、俺よりも一緒に居て楽しい人がいるだろうし、その人たちと行ってくれ、一応ありがとう』


 よし…これでいいだろう。

 俺も一応イベントには参加したい、露那…がVtuberに興味がなかったら、一条でも誘ってみようか。

 意外と興味を持ってくれるかもしれな……


「あぁ〜!も〜!!」


 クラス中が一瞬静寂するほどに大きな声を出したのは秋ノ瀬だった。


「え、秋…?どしたの?」


 秋ノ瀬の友達が咄嗟に秋ノ瀬に声をかける。


「あ、な、なんでもないー、ごめんねー?」


 それから少しの笑いが起きると、クラスは通常運転に戻った。

 なんなんだ…?

 少しして秋ノ瀬から返信が帰ってきた。


『気持ち嬉しいならいいじゃん!行こうよ!!放課後最近できたお化け屋敷も行きたいし!!』


『それだって仲が良い人といけばいいだろ?』


『男の子の友達が居ないの〜!』


 なるほど…それで俺を誘うと言うことに対しての気遣いを隠せると思っているわけか、だが甘い。


『俺を気遣ってくれるのは嬉しいが、そこまでされると逆に悲しくなる』


 こう言ってしまえばこれ以上悲しませたくはないと優しい秋ノ瀬なら思うだろう。

 秋ノ瀬の優しさには少し申し訳ないが、秋ノ瀬にはもう少し自分を大切にしてほしいからな。


『気遣ってなんて無いって!ほんっと天海って時々意味わかんないよね!あっ、それとも…怖いの?』


 …ん?


『何がだ?』


『わかった、お化け屋敷が怖くて咄嗟に言ったんでしょー?』


 は…!?


『そっかそっか、お化けは怖いよね、ごめんねー』


『待て待て、お化け屋敷の話が出る前から同じこと言ってただろ!』


『そうかなー?もう今はお化けが怖くて怖がってるようにしか見えないよー?』


「このっ…」


 あのまま終わってたら黙っているつもりだったがこれで今後「あ、お化けに怖がってた天海じゃんー」とかってずっと言われ続けるのは本当に嫌だ。

 …仕方ない。


『わかった、わかったって、行けばいいんだろ?』


『怖いなら来なくてもいいんだよ?』


『行く、行くって、行かせてくれ!』


『仕方ないなぁ〜』


 どうして最終的にはこっちがお願いする形にされてしまっているんだ。

 右斜め前の秋ノ瀬は後ろから見るに肩を少し震わせているようだった。

 きっと俺のことを笑っているんだろう。

 その後スマホをポケットに仕舞うと俺の方に振り向いてただただ満面の笑みを向けてきた。


「…その笑顔はずるいな」


 誰にも聞こえないほど小さな小声で言った。

 その後放課後が訪れ、露那と一緒に帰路を通って俺は自分の家に帰ってきた。

 すると今日は仕事がなかったのか姉さんが既に帰っていた。


「おかえりなさい、奏方」


「ただいま、姉さん」


 いつもの恒例。

 だがその姉さんの面持ちはいつもとは少し違っていた。


「…奏方、今日、何かありませんでしたか?」


「…え?」


「私が生徒会室に入る前、愛生さんと何かあったんじゃ無いですか?」


「え…」


 姉さんは何やら確信を持っているようだった。

 もしかして愛生さんが姉さんに変なことを言ったのか…?

 だとしたらここで何もなかったと嘘をつくと姉さんに何故嘘をついたのかと問い詰められることになる。

 でも何も聞いていない可能性もある…どうする。

 何も聞いていないなら姉さんに余計な心配はかけたく無いから嘘をつくのが俺の中の正解で、愛生さんから何かを聞いているのであれば何かあったことは認めつつそれを濁すのが正解だ。

 …賭けだ。


「別に何も無かった、ちょっと前のVtuberについての話をしてただけで」


「ですが愛生さんから何か大事な話をしたと聞きましたよ?」


「っ…!」


 言ったのか…!読み違えた…


「それは……」


「…やはり何かあったのですね」


「え」


 姉さんは一度珍しくため息を吐いた。

 …ん?これはいわゆる…

 カマをかけられた!?


「私は愛生さんからは何も聞いてはいませんが、奏方の反応でわかります」


 やっぱりだ…しまった。

 姉さんの表情があまりにも何か確信を持っている、と言いたげな表情だったのに騙されてしまった。

 …いや、姉さんはそんな演技ができる人じゃない、何かあったということに確信を持っていたってことか。


「……」


「何故私に嘘をつくのですか?」


「別に嘘をついたわけじゃ……」


「姉は悲しいです…最近奏方はそのようなことが増えているように思えますが、私に何か問題があるのですか?」


「そうじゃない!」


 それだけは否定しておかなければならない。


「でしたら何故嘘などつくのですか!」


「だから嘘なんて付いてない、嘘をついてるんじゃなくてただ言ってないだけで…」


「私はそれを追求しているんです!」


 …そう言われても愛生さんがちょっと危ない感じがするなんて話を姉さんにしたところでどうにもならない。


「……」


「もういいです!」


 姉さんは珍しく痺れを切らしたのか、自分の部屋に入ってしまった。

 …どうするのが正解なんだ。

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