推しVtuberが実はヤンデレ美少女元カノで復縁するためになんでもしてくる──

仲直り

　とうとう永生一愛が学校に来るイベントの前日になってしまった。

　結局あれから姉さんとはちぐはぐな感じが続いてしまっている。

「本当にどうしたものか…」

　姉さんとこんなことになるなんて、高校に入ってから…いや下手すると人生の中で初めてかもしれない。

「姉さ……」

「すみません、今日も生徒会の仕事があるので」

　そう言い残すと姉さんは先に家を出てしまった。

　…はぁ、こんなのがあれからずっと続いている。

　…それでも料理を作ってくれるのは、やっぱり根の部分では優しいからなんだろう。

　…ここは少し俺も覚悟を決めて勇気を出して姉さんと全力で仲直りしなければならないな。

「さっきの数学の授業わかった〜？」

「え…と」

「わかんなかったんだ〜、今度教えてあげる〜」

　休み時間のちょっとした露那との談笑、もうずっとこんな感じで居てほしい。

「そうだ、奏くんにちょっと謝らないといけないことがあるの」

「なんだ？」

　俺が露那に謝らせられることはあっても露那から俺に対して謝ってくるのはかなり珍しい、一体何を謝られるんだろうか。

　今までのこと全てを悪いと自覚してくれてそれをもし謝ってくれるのであれば俺は喜んで今すぐにでも露那と復縁する。

「あのね…」

「…あぁ」

「明日のイベント一緒に行けなくなっちゃった」

「…え？」

　全然思っていなかったことを言われて俺は困惑する。

　明日のイベントって…永生一愛のイベントの話だよな。

　露那なら絶対俺のことを誘ってくると思ったが…

「本当ごめんね…！どうしても外せない用事ができちゃって…」

「そ、うか」

「も〜！そんな悲しそうな顔でそんな声出さないでよ〜！」

　露那は俺の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

　…いや、これは好機かもしれない。

　元々明日は秋の瀬にイベントついでにお化け屋敷に行こうみたいなことを誘われていたし、これは本当にちょうどいい機会だ。

「どんな用事なんだ？」

　別にそんなに興味はないが一応話の流れで聞いてみる。

　露那が俺以外を優先するのは本当に珍しい、これは自惚れているとかではなく本当にそうなのだ。

　…俺が優先されることに自惚れられるくらいの度量があればそもそも露那と別れてないしな。

「…ちょっと、ね」

　露那は少しだけ困ったような表情をする。

　…はっ。

「わ、悪い」

「え、え？」

　完全にデリカシーの欠片もなかった…女子が言わないことをわざわざ深く追求してしまうとは、最悪のことだ。

「奏くん、何かすごい勢いで勘違いしてない？」

「え？」

　だが俺の思考を読んだかのように露那がそれを勘違いだと断定する。

「本当にただちょっと用事があるだけなの」

「そうなのか…？」

「うん」

　なるほど…おそらく露那は嘘をついていないだろう、と言うか嘘をつく理由もない。

　…要約すると露那は明日ちょうど用事があるため俺は何の問題もなく秋の瀬と行動を共にすることができると言うことだな。

　俺と露那はいつものように一緒に帰った。

「じゃあね」

　露那はいつも俺の家の前まで送ってくれる。

　…本当なら俺が露那の家まで送るべきなんだろうが、露那は「帰り道一人で奏くんに何かあったらどうするのっ！？」と絶対に男女感が反対のようなことを言って反対してきたため、仕方なくこういう形を取っている。

「…今はそんなことどうでもいいか」

　それよりも今日は重大なミッションがある。

「ただいま」

　…ん？

　ちょっと空気が悪いからと言って姉さんがただいまを無視するなんてことは今までなかった。

　俺は下を見てその理由に気づく。

「まだ帰ってないのか…」

　姉さんの靴が置かれていない。

　…でもちょうどよかった、気持ちを固めよう。

　俺はそれから姉さんが帰ってきてからのシミュレーションをし、完璧に仲直りできるプランを練る。

　そして…

「…奏方？」

「ね、姉さん…！」

　その時がやってきた。

「姉さん、ちょっと話を……」

「夕飯の支度をし……」

　姉さんがまたも俺から離れようとしたため、俺は姉さんが靴を脱いで家に上がってきた瞬間に姉さんの前に腕を伸ばし進行妨害する。

「ぇっ…」

　…壁ドンのようになってしまったが、まぁ姉さんなら気にしないだろう。

「姉さん！話を聞いてくれ！」

「ぇ、あの、かな……」

「本当に誤解なんだ、姉さんのことを信頼してないわけでも姉さんに悪いところがあるとかでもない」

「ぁ、ぇ…？は、はい…」

「ただ別に言わなくてもいいと思っただけなんだ」

「…それを姉は怒って……」

「そろそろ俺も大人だし！自立をしないといけないんだ！！」

　俺はさらに姉さんに近寄り顔を近づける。

「ぇ、か、奏方、ち、ちか……」

「だから仲直りしてくれ姉さん！」

　俺がそう発すると姉さんはその場に倒れ込んでしまった。

「は、はぃ…」

「え、姉さん？」

　良く見ると姉さんの顔がいつの間にか真っ赤になっている。

　俺はそれを見て体調が悪いのかと思い姉さんのおでこを触ってみる。

「熱っ！え、体調悪かったのか！？」

「たった今悪くなりました…」

「えぇ…」

　俺は念のために洗面所に行ってタオルを濡らすことにした。

「はぁはぁ、全く、私の気も知らないで…それにしても、自立…ですか、自立などさせません、奏方はずっと姉と居るのですから……」