愛生の本性
「あの…どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよー?」
そのままの意味が意味がわからないからどういう意味なのかを聞いたのにそれに対する返答がこれなのか…
「えぇっ…副会長をしていて、忙しそうなのに自分を崩してないところがすごいと思います」
これは嘘偽りなく本音である。
普通副会長とかいう重荷がありそうな役職につくとどうしてもかしこまってしまうというか、姉さんほどとはいかないまでも堅実になりそうなところだが、今のところこの人からは全く堅実さというものを感じられない、良い意味で。
副会長でありながらマイペースでもあるというのは素直に尊敬に値することだ、将来気負い過ぎないためにも見習っていきたい。
「うんー、それとー?」
次があることを前提の返しをされてしまう。
…ここでもう何もありません、とは言いにくいためもう少しなんとかして言葉を紡いでみることにした。
「マイペースでありながらも外見とかはしっかりと誰が見ても綺麗だったりするのも魅力的だなと思います」
過去に露那に何かと文句を付けられては言い訳を探すというある種固定の作業のようなことをしていたためか、こういうものは割とすっと出てくる。
「うんー、それだけー?」
俺としてはこれで納得してもらえるかとも思ったが、またもここでは話を区切ると相手に申し訳ないような切り出し方をしてきたため、俺はなんとか言葉を捻り出す。
「それと…やっぱり副会長という一見すると堅そうな役職にありながらVtuberなどにも興味があるというのは親しみやすくて良いと思いました、百聞は一見にしかずとはよく言ったものですよね、このくらいですかね、はは」
これ以上聞かれると困るため、苦笑いをしつつこちらから多少強引に話を区切ることにした。
この区切り方には違和感を覚えられてしまうかもしれないが、三つも良いところを言ったんだ、もう十分だろう。
それに最後のだって嘘じゃない、副会長につくには相当良い成績でないといけないはず、それなのにVtuber等が好きなのも素直に親しみやすいところだ。
…まぁこの人は親しみやすい以前に少し変わっている人ではあるが。
「え、私のこと好きじゃないのー?」
「は、はい!?」
どういう話の持って行き方なんだ…?
「えっ、どういう意味、です…か?」
「そのままぁ、あ、恋愛的にかどうかねー」
友人としては好きです、という逃げ道を封じてられてしまった。
…そもそもまだ知り合って間もないしあまり話したことも無い状態で友人としては好きです、なんて言うだけでもかなりの勇気があるのにそれが恋愛的にどうかだって?言えるわけないだろ!
ここはお茶を濁すような感じで言おう。
「あ、恋愛って言えば、この前の永生一愛さんと優那ちゃんの配信すごかったですよね、一愛さんは結構独占欲が強いみたいで、驚いちゃいました」
「そうだねー、一愛って結構独占欲強いよねー、だからもし好きな人が自分のこと好きじゃなかったら多分何するかわかんないよねー…それを踏まえた上で聞くけど、私のこと好き?」
それを踏まえた上で…?どういうことだ。
よくわからないがここでの俺の回答は決まっている。
「ちょっ…とまだ出会って間もないのでわからないです、でもとても魅力的なかただとは思います」
この回答、きっと優那ちゃんが聞いていてくれたら褒めてくれたはずだ。
まさに最高の回答、自分の本音を伝えつつ相手のことは持ち上げる。
これも過去の経験から得た一つの答えだ。
「もー、まだ気づかないのー?私だよー、私」
「気づかないのって…どういうことですか?」
私、私と連呼されてもそんなものはオレオレ詐欺にしか聞こえない。
俺がそんなことを思っていると愛生さんはスマホを取り出してとあるゲームを起動したようだ。
この起動音は…俺がいつもやっているMMOの起動音だ。
「せ、生徒会室でそんなのやって良いんですか…?」
「美月も居ないし大丈夫ー」
確かに姉さんが居たら確実に怒られるだろうな…
「それよりこれー」
「…え、これって…」
見せられたものはそのMMOのプロフィール。
プロフィールの欄の名前に書いてあるのは『AI』の文字。
普通の人がAIと聞くと真っ先に思い浮かぶのは人工知能の方だろうが俺は違う。
このAIさんというのは俺のこのMMOのゲームのフレンドさんであり、ちょこちょこ一緒に遊ばせてもらっていた。
チャットをしていても楽しいしゲームをしていても常に守ってくれたり、地震とかが起きた時はよく心配してくれたりもした。
…が、え?
「もう一回言うね?…見つけた、って」
「……」
俺は突然全身に鳥肌が立った。
どう言う…ことだ?
どうしてこの愛生さんのスマホのゲーム画面にAIさんの名前があるんだ…?
「探すの結構苦労したんだよー?」
愛生さんはそんなことを語りながら俺に一歩近づいてきた。
異様な空気を感じたため俺は一歩退ける。
「ちょっとずつ君に住んでるところを聞き出してぇ、まず関東か関西か聞いてー」
「……」
愛生さんはまた一歩近づいてきたため俺は一歩退ける。
「次に災害関連の話をして海から遠いか、山から近いか、地震の震源地から近いかどうか、都会か田舎か、そんな感じで特定して言ったら私と同じでびっくりしたんだよねー」
俺はさっきと同じことを続ける。
「それと同時に確信したの、これは運命だって…だってネットで好きになった子が同じ都道府県の同じ市に住んでるんだよー?これって運命だよねー」
俺がさっきと同じことを繰り返そうとしたところ、もう後ろには余白がなく壁しかなく退けることができなかった。
「っ…!」
「もう一度言うよ?…これって運命だよね」
あぁ…この雰囲気…やっとわかった。
この雰囲気は…昔の露那そっくりだ。
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