不思議な出会い
「奏方、少しいいですか?」
姉さんがご飯を食べながら話しかけてきた。
「ああ、なんだ?」
「実は今生徒会で、五月月初に何かイベントを催そうと考えているのですが、どんなものが良いのか悩んでいまして…」
「あ〜…」
やはり生徒会、それも生徒会長ともなるとその辺の行事ごとはかなり忙しくなってしまうんだろう。
「因みに生徒会ではどんな意見が…?」
「まだあまり出ていないのですが、副会長の方がぶいちゃーばー?という種族…か民族なのかはわかりませんがゲストとして呼びたいそうなのです」
「ぶいちゃーばー…?」
ぶいちゃーばーって…それもしかして。
「Vtuberじゃないか…?」
「あぁ、そうだったかもしれません」
本当に疎いんだな…今の時代に生きててここまでネット関連に疎い人が果たしてどれだけいるのか…まぁVtuberは知ってなくてもおかしくはないが。
「…え、その副会長さんがVtuberを呼ぼうとしてるのか…!?」
「そうです」
ええええええええええ!?
何だその素晴らしい企画は!天才じゃないか!!
…とは言えない、姉さんがVtuberがどんなものか知らないとは言えもし知られた後で俺がVtuberにこんなに熱心だなんてバレたら何かしら良くない偏見を抱かれてしまうに決まっている。
ここはあくまでも冷静に対処しよう。
「へ、へ〜、い、いいんじゃないか?呼んでみても」
「奏方がそう言うのであれば…Vtuberとはどのようなものなのでしょうか」
「え、あ、あー」
どう説明するのが正しいんだ…ここで変な誤解を与えてしまうと学校にVtuberを呼ぶなんていう神企画が頓挫してしまう可能性がある。
慎重に言葉を選ばなければいけない…
「バーチャル空間っていう、仮想空間で活動しててみんなを笑顔にしてる人たちのことなんだ」
伝わるか…伝われ!
「なるほど…?とても良い方達なのですね!」
「まぁ…」
伝わってるのか伝わってないのかわからないがとりあえずこれでマイナスプロモーションになるようなことはないだろう。
「奏方がそこまで言うのであればこの企画は採用しましょう」
「おぉ…」
最高だ…その日が待ち遠しい。
「でも…困りました、私はそのVtuberというものに詳しくありません…ですからどなたを呼ぶのが最適なのかもわかりません…」
「あぁ…」
確かに姉さんにそれを決めるのは至難の業だろう。
かといって俺が優那ちゃんのことを好きだからってここで都合よく「優那ちゃんを呼んで欲しい!」って言うのはもっと違う気がする。
「そうですね…奏方、明日の放課後は暇ですか?」
「え、明日…?暇だけど…」
「でしたら!明日の放課後私と副会長と奏方を交えてどのお方をお呼びするか決めましょう!」
「えぇぇぇ!?」
明日か…いきなりだけど姉さんの性格的には多分こういうことはできるだけ処理しておきたいんだろう。
どうするか…
俺はとりあえず露那に連絡を入れ、今から外に出ることにした。
「奏くんからデート誘ってくれるなんて嬉しいな〜♪」
本当は俺も不本意じゃないが約束を破って一人で外になんて出たなんてことが後から知れたら何をされるかわかったもんじゃない。
「で、どこ行くの〜?」
「今日は別に何か二人でしたい明確な目的があったわけじゃないんだ」
「えぇ〜!それって本当は一人でも完結するけど私も呼んでくれたってこと!?え!嬉しすぎて死んじゃいそう!」
一緒に出かけることを条件に告白を取り消したことを忘れてるのか…?
「で…行きたかったところって、ここ?」
「あぁ」
ここは都内でもかなり有名な二次元系のもののショップ、元は本屋さんだったため普通に本も売っていたりして、最近ではVtuberのグッズなんかも売ってたりする。
「へ〜!行こっか!」
足を踏み入れてから数分した後…
「っ!奏くんごめん!先行ってて!」
と言って露那は走って行った。
「ん?」
露那が走って行ったところの上の方にある看板には『恋愛』と書かれていた。
「…はぁ」
また余計なことをしなければいいが…まぁいいか。
元々一人で来たかったしな。
俺は予定通りVtuberゾーンに行くことにした。
「おぉ…」
すごい…今流行りの様々なVtuberのグッズや特集が売ってある。
「あ!」
優那ちゃんのぬいぐるみ!
なんだこの愛くるしさは、こんなもの買わないわけがないだろう。
「ん?」
隣にはこの前優那ちゃんとコラボしていた永生一愛のぬいぐるみグッズも置いてある。
「…って」
永生一愛のぬいぐるみが一つ床に落ちてしまっている。
「…仕方ない」
俺は見てみぬふりはできなかったため、そのぬいぐるみを拾おうと頭を下に下げ…
「ぁっ…!」
「いたっ」
なんだ…いきなり頭に痛みが…!?
「あ、ごめんなさい…!」
どうやら人と頭をぶつけてしまったらしい、しかも俺よりも小柄な女性だ…悪いことをしてしまった。
「大丈夫だよー」
少女は気兼ねなく許してくれた、優しい人だ。
…それにしても綺麗な人だな、年齢は多分俺と同じ高校生くらいなんだろうか、目はまんまるで肌はすべすべそうだ。
…って何を考えてるんだ俺は。
「…このVtuber好きなのー?」
「え、あー、はい!」
実際は別に好きってわけじゃないがそんなことをわざわざ口に出して言う必要はないしな…
それにしても…この人はちょっと声の抑揚が少ないな、そういう人なんだろうか、でも綺麗な声音をしている。
「へー、私も好きー」
「そうなんですね」
「うんー、ほら、髪薄ピンクにしてるでしょー?これも私…じゃなくて、一愛に似せるためだからー」
「なるほど…」
一愛に髪色を似せるほど一愛のことが好きなのか…
「君も一愛のこと好きならあのゲーム知ってる?」
「あのゲーム…?」
「MMOのやつー」
あぁ…前にそういえば一愛も優那ちゃんとのコラボの時にそんなことを言っていたな。
「同じやつかわかりませんけど…一応」
「見せて見せてー」
「え、えぇ」
一応スマホ版でもあるにはあるが…いや、でも頭をぶつけてしまったのは本当に申し訳ないし、ここはそれのお詫びということで見せよう。
「わ、わかりました…」
俺はスマホを開きゲームを起動した。
その瞬間にスマホを奪われてしまった。
「あっ、ちょっと…!」
「わぁー、すごいねー、結構やり込んでるー?」
俺のアカウントを見て思ったままの感想を述べられた。
「まぁ…多少は」
暇さえあればやっているしまぁ事実だ。
「ふーん、そうなんだー……?」
今度は何故か硬直した。
感情が表に出にくい人だな…露那とは真反対で逆に分かりづらい。
「え、ねー」
「は、はい」
「このアカウント名って何かの真似とかしてるー?」
「え、してないです、けど…」
なんだ…?何か有名なキャラクターと名前が被ってたのか…?
「…だよねー、それに装備もそのまま一緒だもんねー」
「そのまま…?な、なんの話を……」
「奏くん!」
遠くから露那がこっちに走ってくる。
「…え、なに?君彼女なんていたの?」
何故かここだけは気が抜けた感じがしなかった。
「彼女…というか……」
「…まぁいいやー、見つけた」
「え…?」
怖い声音で何かを言い残したかと思うと、どこかに行ってしまった。
「奏くん、今の女誰?」
「え…知らない人だ」
「もうっ、注意してよね〜、一瞬でも油断したらすぐ女たぶらかしてるんだから〜…だめだよ?」
「わ、悪かった…」
たぶらかしてる、なんてつもりはなかったが…
それにしても…不思議な人だったな。
俺は優那ちゃんのキーホルダーを買って、帰ることにした。
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