生徒会室での出来事

 そして翌日の放課後。

 姉さんに呼ばれている生徒会室に向かう…前に。


「奏くん、どこ行くの?」


 まずは露那をどうにか突破しなければならない。

 下手すると今回の企画決定よりも難しい難題だ。


「ちょっと姉さんに呼ばれてて…」


「お姉さんに…?なんで?」


 Vtuberがどうのって言う話をしてもいいが変に話が絡まっても嫌だしな…


「ちょっとこれからの俺の進路について話があるらしい」


 普通なら学校でそんなことをしないが、姉さんのあの真面目な感じを一度でも見ている露那ならこれを信じてくれる可能性は十二分にある。


「ふ〜ん、そっか、じゃあ私先帰ってるね〜」


「…え?」


 そう言うと露那は俺から振り返り本当に階段側に歩いて行った。


「…本当に、露那も変化しているのかもしれないな」


 俺はそんな少し嬉しいことの後に、すぐ生徒会室に向かった。


「…まだ、我慢我慢我慢我慢しなくちゃ…!」


 俺は生徒会室の前に来た。

 やはり緊張してしまう…が、姉さんがいると思うとそうでもなくなってきたな。

 俺はドアを開け、元気よく声を出す。


「失礼します!」


 中には姉さんと副会長さんが…


「え」


「あ」


 …ん?

 幻覚だろうか、昨日店であったあの不思議な少女が今俺の目の前にいる。


「どうしたのですか?お二人とも」


美月みづき美月みづきの弟ってこの子ー?」


「そうですが…?」


 姉さんのことを名前で呼ぶ人はかなり珍しいな…ほとんど今まで見たことがなかった。

 俺がそんなことを思っていると、少女はすぐに俺の方に駆け寄ってきた。


「よろしくー、私副会長なのー、昨日は奇遇だったねー」


「え、あ、はい…よろしくお願い、します」


 …まだ全然処理できない。

 え、この人が副会長…?

 こんな気の抜けてそうな人が…?


「ねー美月ー、この子昨日彼女といたよー」


「は、は!?違う…いますって!彼女じゃないです!」


「奏方がそう言うのであればそうなのでしょう」


「彼女じゃなかったんだー、じゃあ今彼女いないのー?」


「え、えっと…」


「やめてください、愛生あいじょうさん…奏方が困っています」


 姉さんが割って入ってきてくれた。


「えー、これぐらい良いと思うんだけどなー、まぁいいや」


 姉さんによると愛生…さんは一旦話を切ったかと思えば、今度は後ろから俺に抱きついてきた。


「ちょっ…」


 姉さんほどとは言わないまでも顔とは逆で意外にもあれがあれで…頭がパンクしてしまう。


「愛生さん!」


「ん、なにー?」


「何じゃありません!もうちょっと異性というものを意識して行動してください!」


 庇ってくれるのは嬉しいけどそれは姉さんが言えることではないような気もする。


「えぇ、気にしすぎだってー、好きな人にならこのくらいのアプローチ普通じゃないのー?」


「好きな人じゃない人にこんなことをしてるから問題なん…ですよ!」


 どうしても常識外のことをされると露那と話している気分になってしまって危うく敬語を忘れてしまいそうになる、というか薄々敬語なんて必要ないんじゃないかとも思ってきている。


「好きだよー?」


「……え?」


 …は?


「だ、そうですよ、奏方、良かったですね」


「…え?」


 ね、姉さん…!?何を言っているんだ!?


「…いや」


 姉さんのことだ、多分の意味をわかってないんだろう。

 もちろん恋愛というものを知っているんだから好きにも種類があることくらいは知っているとは思うが、あまりにもこの愛生さんって人が流れるように言うからわからなかったんだろう。

 …いや、もしかすると本当にただの俺の考えすぎで恋愛的に好き、とかじゃなかったら申し訳ないが。


「結婚とかはまだ早いなー」


「なんの話をしてるんだ…」


 結婚…どうやらどちらのなのかは考えるまでもないらしいな…普通ならもっと動揺するところだろうがここまで相手がマイペースな告白をされると動揺するのが可笑しく感じてしまう。


「お二人とも、そろそろ話を進めましょう」


 そうだった…この人のせいで忘れてたけどここは生徒会室で今の姉さんは俺の姉さんとしているんじゃなくて生徒会長としてそこにいるんだ、迷惑をかけるわけにはいかない。


「ごめん、姉さん」


「…いえ、それで、お二人はどの方を呼びたいという希望はあったりするのですか?」


「俺は天城……」


 俺は即座に優那ちゃんの名前を出そうとしたが、それを遮る形で…


「永生一愛が良いと思うー」


 と愛生さんが言った。


「君もそれがいいよねー、かなたぁ〜」


「え」


「だって一愛のこと好きなんでしょー?」


 そうだった…昨日そんなことを言ってしまった。

 だが…好きなことについての抗弁ならいくらでも可能だ。


「確かに一愛も好きだけど、俺は天城優那…さんが好きなんです」


「え?を好きじゃないの?」


「え…」


 待て…何か喧嘩になりそうな雰囲気だ。

 とは言え今の俺の楽しいという感情を支えてくれている優那ちゃんを裏切るようなこと俺にはできない…


「俺はそれでも……」


 俺が抗弁しようとしたところで…


「お二人とも?今回なにをお話に来たのか、わかっておられますか?」


「あ…」


 まずい…そろそろ姉さんが本当に困ってしまいそうだ。


「ご、ごめん…」


「いえ、大丈夫です」


「…とにかくさー、呼ぶなら一愛で良いと思うよー?」


「……」


「奏方もそれで大丈夫ですか?」


 …これ以上反論しても姉さんに迷惑をかけてしまうだけだろうし、ここは俺が折れることにしよう。


「わかった、それで大丈夫だ」


 本当は全く大丈夫ではないが…大丈夫ということにしておこう。

 あぁ…優那ちゃんを生で見てみたかった…


「では私が手配を……」


「あー、手配は私がやるよー」


「ですが……」


「Vtuberのことに関しては私の方が詳しいから美月はゆっくりしてていいよー」


「…そうですか、わかりました」


 姉さんが否されることなんて珍しい…だが確かにVtuberとかネット関連のことに関してはそれが正しいだろう。


「では奏方、私たちは先に帰らせていただきましょうか」


「あぁ、わかった」


「はーい、気をつけてねー」


 俺と姉さんは後は愛生さんに任せて、一緒に帰宅することにした。

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