休日の邂逅2

 はぁ…本当にあのときの俺は恋愛に疎かったからそれがおかしいことだとも気付いてなかったな…簡単にまとめてみると。


「露那、俺そろそろバイトを始めようと思うんだ」


「え?私との時間減っちゃうじゃん」


 この問答だけでもうこの後どのように話が展開されていったかがわかるだろう…結局露那は何を言っても俺のバイトを許してはくれなかった。

 一年越しに露那の考えは変わってるかもしれな……


「バイト、って何?私一年前にもそんな無謀で無駄なことやめてって言ったよね?忘れちゃったの?」


 変わってなかったか…でも俺に関してだけ言えばあの時と今の俺とでは決定的な違いがある。

 俺の露那に対する理解度もそうだが、何より…

 今俺と露那は付き合ってはいないと言うことだ。

 付き合っていないなら露那の言うことを聞く義理はない。


「忘れてはないが俺と露那はもう付き合ってないんだからそれを聞く義理はない」


「いい加減自分に正直になったら?奏くん」


「え…?」


「本当は私と恋人でいたいよね?」


「は、は…?」


 もし本当は露那と恋人に戻りたいと思ってるならそもそも露那のことをこんなにも拒絶したりするわけがない、なにを言ってるんだ。


「だって現に今日だって一緒にお出かけしてるし」


「それは出かける時は一緒っていう約束をしたからで……」


「そんな約束だって、もし私と本当に一緒に居たくないなら無視できたはずだよね?」


「……」


 それは!約束を破ったら露那になにをされるか分からないから無視できないんだ!それにあそこでその約束をしなかったら俺は多分今頃無理やり露那と付き合わされていただろうし…


「沈黙はイエスと取るよ?」


 とは言えそんなことを露那に言ったところでまた露那の感情と理論が両方混ぜ合わさった理論武装によって俺は言い負かされてしまうんだろう。

 …自分が情けない。


「だから、奏くんは本当は私と付き合いたいと思ってるの、わかった?」


「いや、それは良くわからな……」


 俺がそれを否定しようとしたところで、ショッピングモール中にとあるアナウンスが流れる。


「こんにちは〜!」


 …え?こ、この声…


「今日も運命の人に見つけてもらうために活動している、明城優那で〜す!」


「えっ…!?」


 聞き間違えるはずもない、やっぱり優那ちゃんだ…え?え?

 俺は今本気で困惑していた。

 なんで優那ちゃんの声が…?


「……」


「ど、どうしたの?奏くん、わ、私の話聞いてる?」


 露那の声が若干動揺しているように聞こえた。

 …ん?

 なんで今のこの状況で俺が動揺するならともかく露那が動揺したような素振りを見せているんだ…?


「え、あ、あぁ…」


「ん〜?私この声どっかで聞いたような気がする〜」


 ここで何も知らない秋の瀬がそんなことを言う。


「え、そうなのか!?」


 俺はほとんどあり得ないがもしかすると秋の瀬が優那ちゃんのことを知っているかもしれないという希望に心を躍らせ少し上擦った声を上げた。


「ん〜、こんな声だったかなぁ、もうちょっと低かったような気もするけど〜、んー、ん〜?あぁ、思い出せないや」


 どうやら思い出せなかったらしい。

 いや、だが俺としてはこんな優那ちゃんファン友達を作るチャンスはそうそうない、ここは押し切ってでも優那ちゃんのことを布教しよう。


「秋の瀬、この声の人はVtuberの……」


「奏くんこの声の人が誰か知ってるの?」


「…え?」


 俺たちがそんなことを話している間にも優那ちゃんによるアナウンスは流れ続けている。


「なんと来週!私のファーストシングルが…」


 えっ…ファーストシングル!?

 まずい…露那と話さないといけないのにこのアナウンスの内容が気になりすぎて正直に言わせてもらうのであればそれどころじゃない。


「奏くん!」


「あっ…」


 そうだ。

 というかもし俺がこのアナウンスの人のことを知っている、なんて言ったら多分露那のことだ「私以外の女……」みたいなことをずらずらと並べてくるに決まっている。

 これは自意識過剰などではなく、経験談から話しているためほとんど間違いない…が、俺は優那ちゃんのことを裏切るようなことはしたくない。


「知ってる」


「へぇ〜、好きなの?」


「…まぁ」


 本心を言うのであれば「大好きだ!!!!!」だが、流石にそれは相手が露那じゃなくても引かれるであろうから照れ隠しでこのぐらいに抑えておこう。


「そっか!良いね!」


「…え?」


 俺はその露那の反応にかなり驚いた。


「好きなことができるのは良いことだね!」


「え、あ、あぁ」


 …あれ?怒られない…だと?


「お、怒らないのか…?」


「怒らないって、なんで?」


「だって…他の女性に興味がある、みたいなことを言ったら前ならもっと怒ってただろ?」


「私だって反省してるの、それはもちろん色んな人に興味を分散されるのは嫌だけど、一人ぐらいなら気にしないことにしたの、だからこのアナウンスの人なら許してあげる」


「…そうか」


 一人…だが前では考えられなかったほどの進歩だ。

 もしかすると露那も変わっていっているのかもしれない。

 …これなら、少しは復縁の道も考えてみても良いかもしれないな。


「…ふふっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る