休日の邂逅1

「あ、奏くん!あれ見て!」


 露那は元気良く周りを見てはしゃいでいる。

 今日は露那と楽しい楽しいデート中である。

 はぁ…こんなに可愛い女子と出かけることができるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ、誰か変わってあげられたら代わってあげたいな。

 …本当に!誰か変われるなら代わってくれ!!

 なんで俺からするとまだ元カノの露那と休日二人でデートになんて行かないといけないんだ!

 でもあんな今にも泣きそうな顔で…


「え、屋上で私のこと好きって言ってくれたの、嘘だったの…?」


 なんて言われたら誰だって断れないだろ!

 これが男の性というやつなのか、それとも女の涙は強いと言われる所以なのか、はたまたその両方なのかはわからないがとにかく俺は今そんな理由で露那と一緒に本当に目的もなくただただ街をブラブラしている。


「あ〜!あそこショッピングモールがあるよ!」


 露那が指さした先にはいかにもおしゃれな感じのショッピングモールがあった、一つ言えるのは確実に俺が行くようなところではないということだ。


「待て、あんなところ俺には場違い……」


「えっ?私とならどこにでも行きたいって?もう〜!奏くんは本当に可愛いんだから〜!」


「言ってない!」


 俺の言い分なんて全く聞かずに露那は俺の腕を組んでいた手を離し手を握ってきて、俺のことを引っ張って連れて行くことに決めたらしい。

 俺は露那に引きづられながらそのショッピングモールへと足を踏み入れた。


「…あれ?」


「どうしたの?奏くん」


「いや…」


 おかしいな…俺がこんなところに来たことがあるはずなんてないのに、何故かこの建物の装飾にがある気がする。


「そろそろ私お洋服買いたいと思ってたんだよね〜、こんなに大きいショッピングモールなんだから多分お洋服屋さんいっぱいあるかな?どう思う?」


「あぁ、あるんじゃないか?」


 お洋服屋さん…見覚えのある装飾…あっ!まさか!


「あ!あったよ!お洋服屋さん!」


「え?」


 露那が指を差した先にあった服屋は…


「ま、待て!そこは…」


 明らかにこの前秋の瀬に写真で送られてきたところと同じ店名が書いており、このおしゃれな感じの装飾も紛うことなきそれだった。


「わぁ、可愛い服がいっぱいあるね〜!」


「あ、あぁ…そう、だな」


 周りをチラチラと確認してはみたが、秋の瀬の姿は無い。

 まぁそうか、そんなに毎日入ってるわけでも無いだろうし、こんな偶然で遭遇するわけがないか。


「これなんてオシャレじゃない?この腰の部分のひらひらとか!」


「あぁ、そうだ……」


「あれ?天海じゃん」


「え」


 店外の方向を振り向くと、そこには秋の瀬が居た。


「あ!もしかして私がこの前紹介したから来てくれた感じ?」


「え、違う!ここに来たのはたまたま……」


「この前、紹介…?」


 露那が怒りをもはや隠す気もないのか前面に押し出してきながら言う。


「どう言うこと?この女と裏でこっそり連絡とって、ここで今日この女に会いに来るように私のことをここに誘導して私にそれを見せつけようってこと?」


「ちょっと待て違う、それにここに来たいって言ったのは露那だし今日の行動は全部露那が主導してるだろ?」


「もう〜!二人とも!ここは家の中でも学校でも無いんだから、もっと仲良くしてよ〜」


「私と奏くんは仲悪くなんてないし!」


「誰も仲悪いなんて言ってないよ?」


 二人は何か見えない火花をばちばちと散らしあっている。


「奏くん、ちょっと」


 そう言って俺の腕を取ってここを後にしようとする露那の腕を今度は秋の瀬が引き止めた。


「まぁまぁ、せっかく来たんだしもうちょっと服見に行かない?」


「過度な営業は良く無いと思うけど」


「これは友達として言ってるから」


「友達?誰が?」


「誰がって…私も天海も友達だし、黒園さんも天海とでしょ?みんなだよね!」


「…は?」


 露那はパッと俺から手を離すと秋の瀬に近づいて行った。


「友達…私と奏くんが、友達?」


「あれ、違った?」


「違うに決まってるでしょ!?私と奏くんは…」


 数秒の沈黙。


「…何も言えないよね」


 秋の瀬はちらっと俺に目配せをする。

 きっと前秋の瀬に話したことを思い出しているんだろう。


「はぁ、屈辱…だけど、そっか、そうだね、ここで言葉が詰まるような状況なんておかしいよね、間違ってるよね」


 露那はそう吐き出すように言うと俺の方に向き直り、手を後ろに回しながら言う。


「奏くん、さっさと私と付き合い直してよ」


「断……」


『♪』


「あっ…」


 通知音を切り忘れてしまっていた…


「見ても良いよ」


「…え?」


「その通知、見ても良いよ」


「いや別に今急いで見るようなことじゃ……」


「見ても良いよ」


「……」


 俺は見えない圧を感じたのでスマホを取り出してその通知を見る。

 通知は優那ちゃんのツイートだった。


『今日のあなたの運勢を占うねっ!今日は再起の日、もし何か無くしたものを取り戻せるチャンスがあったら迷わず掴み取ろうねっ!じゃないとあなたの身近な人まで無くすことになっちゃうかも…!』


 という趣旨のよくわからないツイートだった。

 リプ欄では優那ちゃんが今日配信でするゲームの予告か、みたいな予想が建てられている。


「…再起の日」


 占い状況がちょうど今の状況にぴったりだ、本当に優那ちゃんはいつも俺の道標になってくれる。

 ただの占い…そう切り捨てるのは簡単だがこんなタイミングで優那ちゃんがツイートしてくれた言葉、何か俺の人生に大きく関わってくる可能性がある。

 それならここは騙されたと思ってその通りにする方がいい気がしてきた。

 俺が優那ちゃんに運命を感じていたところで、秋の瀬が話しかけてきた。


「もう〜二人ともなんか空気重いよ〜?」


「あ」


 秋の瀬が俺と露那の肩をトントンと叩くことによって俺は正気に戻る。


「黒園さん今スマホ画面を見ずにスマホいじってたよね、何してたの?」


「なんだって良いでしょ」


 スマホを…いじってた?

 今の間に何かしてたのか…?


「天海は?なんか通知見てから雰囲気変わった気したけど、何かあったの?」


「え…いや」


 優那ちゃんに運命を感じて露那の言う通りに流されそうになっていたなんて口が裂けても言えない。


「まいっか!で、今日って何しに来たの〜?この前話したバイトの話と関係あるのかなって思ったけど黒園さんがいるところを見るにそうじゃないのかな?」


「…この前話した、バイト?さっきもこの前紹介がどうこうって言ってたね」


 俺の中に、一年前まだ露那と付き合ってる時にバイトをしたいと言ったら全否定された思い出が蘇った。

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