彼氏質問募集枠

「でねー!今日のツイートのことなんだけど〜」


 今は絶賛優那ちゃんの生配信を視聴中である。

 こんなにも至福なことがこの世に存在するだろうか。

 いや、無い。

 俺が純粋な気持ちで露那と恋人としてデートしたりしていた時なんかよりも今の方が素晴らしい。

 …今だからそう思うのかもしれないが、そんなことはどうでも良い。

 今の時代はやはりバーチャルの時代だ。


「私の彼氏が本当にカッコよくて可愛いのっ!」


 そう言ってる優那ちゃんがその彼氏さんより何倍も可愛いと俺は確信を持って言える。


「えーっと…?可愛いとカッコいいが混同するってどんな時…?」


 どうやら優那ちゃんはこの大量に流れてくるコメントの内の一つを拾ったらしい。


「可愛くてカッコいい時じゃない?」


 珍しく優那ちゃんの語彙力が損なわれた。

 だがそれもまた可愛い、なんてジレンマなんだ…


「とにっかくカッコいいのっ!なんなら今日の配信を雑談枠から私の彼氏質問募集枠に変えても良いよっ!」


 優那ちゃんは突然そんなことを言い出す。

 優那ちゃんの配信はたまにこういうこともあり、企業勢では出し得ない個人勢だからこその自由な配信スタイルとも取れるだろう。

 するとコメントには大量のその彼氏に対する質問が流れた。


「明城さんはその彼氏さんとそのまま結婚ゴールインを考えてるんですか…?」


 優那ちゃんが割と重めのコメントを拾った。

 これは少し気になるところでもあるが、質問内容が内容なためいつもはテンポの良い優那ちゃんでもこれは少し時間がかかるかもしれな……


「もちろんっ!」


 元気良く即答。


「私が今十六歳で彼も十六歳だから、最低でもあと二年も待たないと結婚できないけど、結婚できるようになったらすぐに結婚するつもりっ!」


 追い討ちをかけるように補足する。

 そう言えば前から知ってはいたことだけど俺と優那ちゃんは同じ年齢なのか…

 だからどうということの程でも無いけどやはり推しと同じものが一つでもあると嬉しいものだ。

 それが年齢という偶然のたまものだったとしても。


「次っ!…優那ちゃんは彼氏さんのことを大好きみたいで結婚もすぐにしたいとのことですが、将来的に優那ちゃんは専業主婦になるのでしょうか…?」


 これまた現実的な質問だ。


「ん〜…配信で言っちゃって良いのかな〜…」


 優那ちゃんは悩んでいるらしい。

 それはそうだ、いくら優那ちゃんがすごいからとは言え、俺と同年齢の十六歳。

 将来の展望なんていうものを急に聞かれてもそうそう簡単に答えられるものじゃない。


「…うんっ!言っちゃお!私ね、実はもう結構みんなのおかげだったり他の色んなことのおかげでお金だけで言うと結構持ってるの」


 生々しいことを…それで悩んでたのか。


「だからっ!結婚したら彼にも働いて欲しくなくて、二人で幸せに暮らしたいのっ!」


 でもそう語る優那ちゃんはとても楽しそうだったため、不思議と違和感はない。

 むしろそれで良いとすら思えてしまう。

 きっと優那ちゃんにはそういうカリスマ性というものがあるんだな。

 その証拠に、コメント欄のほとんどがそれを応援するようなコメントになっている。


「みんな応援ありがとっ!」


 Vtuberならではの動きを付け加えてお礼を言う。

 可愛い。


「ちょっと生々しい話だったね〜、次〜!えぇっと、結婚したら彼氏さんにもVtuberしてること伝えますか?って質問だね!」


 一見優那ちゃんのコメントの拾いかたが偏っている、と思えるがよくコメント欄を見ているとコメント欄自体がさっきまでのことに引きずられてそう言う方向に偏ってしまっているため、これも仕方のないことだろう。


「これは〜…どうだろうね〜」


 悩むように言う。


「言いたく無いんだけど、どうしても…ってことになったら言っちゃおうと思ってるんだ〜、言いたく無いのはVtuberとしての私じゃなくて私を愛して欲しいからなんだけどね」


 真剣な口調で言う。

 どうやらそう言うプライドがあるらしい。

 まぁ確かに一生を添い遂げることまで考えている人にVtuberだから、なんていう理由で結婚なんてして欲しく無いだろう。


「じゃあ…次が最後っ!読み上げ行くねっ!もし彼氏さんが優那ちゃん以外の女性と交際…いわゆる浮気をしたらどうし、ま…す…か…?私なら、まずは、う、うわ、浮気…浮気の理……」


「…ん?」


 優那ちゃんの声が途切れたり同じことを二回言ったりしている。

 よく聞くと優那ちゃんの声が沈んでいるようにも聞こえるが…

 もしかしてネットがラグくなったのか…?

 とも思ったが、どうやらコメント欄を見てみるに俺以外の人たちもそうなっているらしい。


「…を…すが、こ…が…しょ……」


 この瞬間、優那ちゃんの配信が切れた。


「え…!?」


 俺はすぐに優那ちゃんのTwitierツイッティアーの方に移動する。

 すると…


『ごめんなさいっ!最後私のネットが悪くて配信が落ちちゃったみたいです!』


 というツイートがされていた。

 停電とかじゃなくて良かった…俺は一先ず安心する。

 一安心したところで、今日はもう疲れてしまったため、すぐにお風呂に入ってから眠ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る