教育指導室
「奏方、今日は一緒に登校しますよ」
「わかった」
俺は先日の約束通り今日は姉さんと学校に登校する。
そのため俺はいつもより早くご飯を食べ終え、姉さんの登校時間に合わせて学校に向かう。
「…奏方」
「どうした?姉さん」
「兄妹とはなんなのでしょうか」
「…え?」
姉さんが急遽よく分からないことを言う。
「血が同じなら兄妹なのでしょうか、それなら血を全て抜いてしまえば兄妹ではなくなってしまうのでしょうか」
「…え?」
思わず続けて疑問の声を上げてしまう。
「それなら、私と奏方が結ばれることも可能…なのでしょうか」
「えっ…結ばれるって、どういう意味でだ?姉さん」
「どういう…と言われても、結ばれるという言葉を併用することを数多く考える方が難しく…ないですか?」
姉さんは照れを隠すように言う。
…え?どういう…ことだ?
「姉さん…?結ばれるって、もしかして結婚……」
「やっぱり何も無いです!忘れてください!」
姉さんは珍しく声を荒げた。
「それより奏方、勉学で分からないことがあれば遠慮無く聞いてくださいね」
「…あぁ」
姉さんは話すことに困った時勉強の話を持ち出す。
一般的な感じで言うと会話に困った時に天気の話題を出す、という項目が姉さんは勉強にすり替わっている。
「それはそれとして、奏方…?」
「…ん?」
姉さんは少しもじもじしながら話を切り出す。
「その…奏方には、もう、その…お、想い人はいるのでしょうか…?」
「え…!?いきなりどうしたんだ…?」
「いえ…!…少し、気になってしまって」
なんでそんなことが気になるんだ…?
「別に奏方の恋愛事情が気になるというわけではないのですよ!?」
「どっちだ!」
「…気になり、ます」
姉さんはもし俺が姉さんの兄妹でなければ一発で恋に落ちていただろう顔と声で本音を露わにした。
「そ、そうか…」
…どう返答するべきだろうか。
俺は姉さんに一年前に恋人が居たなんていうことを伝えてない。
それは伝える意味がなかったからというのもあるが、何より姉さんが恋愛関連のことに興味を示してなかったからだ。
でも今は姉さん自身から興味を示してきている。
俺が頭で考えながら黙々と歩いていると、姉さんが待ちの姿勢から一転して話しかけてきた。
「…もしかして、誰かと交際しているのですか…?」
「…え?」
「そうなのですね…」
「違う!今はもう……」
「今は、とはどういう意味ですか?」
「あっ…」
ここで俺は今時のアニメでもほとんどないほどベターな墓穴を掘ってしまう。
「…もう着いてしまったようですね」
そんな話をしているうちに、もう校門前に到着してしまった。
周りからは前に露那と登校した時とは違う感じの黄色い声援が聞こえてくる。
校内に入ると、時計は俺がいつも登校する時間よりも十分ほど早かった。
「じゃあ姉さん、俺はこっちだから」
俺はそう言ってこの場を後にしようとするも…
「待ってください」
と引き止められる。
「まだ話が終わっていません」
「そんなこと言っても…ここでするような話じゃないだろ?」
「…着いて来てください」
俺は姉さんに手を引かれ、半強制的に姉さんに着いていくことになった。
着いて行った先に待ち受けていたのは…
「えっ…ここって…」
「教育指導室です」
「え!?ね、姉さん!?」
「ここでならじっくりと話せます」
確かにここでならじっくりと話せるだろうが兄妹が話が途中だからと言ってくるところが教育指導室なのが合っているはずがない。
「待ってくれ、そもそもこんなところ独断で使っても良いのか?」
「私は生徒会長なので」
これが職権濫用か。
高校生のうちに社会の理不尽を体験できるようで良かった、とはならない。
だが姉さんは容赦無く教育指導室のドアを開け、俺のことを教育指導室の中に入れるとゆっくりとドアを閉めた。
「さて…奏方、座ってください」
「……」
俺は諭されるがままに座る。
姉さんは俺と対面する位置に座った。
「では、先程の話の続きですね、奏方が先ほど言った今は恋人が居ないという発言についてですが」
そんな風に切り出されても部屋が教育指導室じゃ全く話に集中できない。
この部屋の隅にある棚の中に絶対に生徒が見ないようなファイル名のファイルが大量に置かれていたりするのが本当にリアルすぎる。
「過去には奏方に恋人が居たのですか…?」
「…まぁ」
「…そうですか」
姉さんはそう潮らしく言った。
…ん?
潮らしくなってはいるけど俺が思ってたよりは大丈夫なようだ。
「それでもそれも一年前の話だし、今はもう別れてるから何って話でもないんだ」
「……」
「…姉さん?」
「……」
俺は姉さんが何も反応を示さないため、姉さんに近づいてみる。
「ね、姉さん…!?」
姉さんの横に回ると、姉さんの手が尋常じゃないほどに震えていた。
「か…奏方に恋人が居たとは…
「姉さん!だから今はもう別れてるから別に何も無いんだって」
「奏方…姉は今落ち込んでいるのです」
「落ち込んで…?なんで姉さんが落ち込む必要が…?」
「奏方が恋人と呼べる存在が居たのに私に教えてくれなかったからです…」
「それは…」
露那と付き合いたての時は姉さんに打ち明けようか悩んでたけど、恋愛事情は自分一人で解決しないとって思って結局言わなかった。
そして露那と付き合っていくうちに、段々と言う気が薄れていった。
当然である、まさか彼女が俺のことを束縛してくる彼女だなんて姉さんに言いたくなかったからだ。
「色々と事情があって…」
「…そうなのだと思います」
姉さんはそれを察していてくれたらしい。
「奏方、現在は
「…してない」
「そうなのですか」
姉さんはそう短く言うと…
「分かりました、奏方、お時間ありがとうございました…」
「え?あ、大丈夫だ」
姉さんは静かにこの部屋を後にした。
俺も教育指導室になんて長く居たくないため、すぐに後にした。
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