推し変 ダメ 絶対
「ふぅ…」
俺はあの後すぐに家に帰った。
あんなピリピリしてる露那と一緒になんて帰ったら細かいことで「他の女なんて見ないで」なんて言われかねない。
俺は玄関で靴を脱ぎながらズボンのポケットからスマホを取り出し、明城優那とネット検索にかけた。
「…え?」
今日は配信予定日だったが、つい数分前に優那ちゃんが
『今日は配信予定日だったのですが、急遽今日は配信を休止にします、ごめんなさい…明日はちゃんと配信やるので是非来てねっ!』
とのことらしい。
まぁきっと俺なんかと違って優那ちゃんは忙しいんだろうし、たまにはこんなこともあるか。
「あ、そう言えば…」
秋の瀬が後日連絡するって言ってたな。
そろそろ来ていてもおかしくはない。
部屋に帰ってゲームをする前に、俺はメッセージをチェックする。
すると案の定、秋の瀬からメッセージが来ていた。
『天海〜!一日空いちゃってごめ〜ん!遊ぶ日なんだけどっ!今週の土曜日とか空いてないかな!?る』
土曜日…俺はそのメッセージを聞いて考える素振りをしてみるが、当然俺のような暇人に何か用事なんてあるわけもなく、すぐに返事をする。
『空いてる!』
文字だけでもと元気な風に応対してみることにした。
やはり『!』をつけるだけで相当印象が変わるだろう。
『わ〜い!あっ、さっきの『今週の土曜日とか空いてないかな!?る』のるは誤字だから気にしないでねっ!』
『わかった!』
言われなくても元より気になどしない。
俺は会話に一段落着いたところで、メッセージアプリを上にスライドし、一旦閉じる。
「…はぁ」
なんだこの喪失感。
俺は優那ちゃんの配信が無くなったことにより、喪失感を感じていた。
「…他のVtuberの人でも見てみるか」
優那ちゃんは個人のVtuberだが、実は何度か企業勢の人とコラボしている。
個人勢と企業勢とは、その名の通り個人勢は個人で運営してるVtuberさんのことで、企業勢とはどこかの企業に所属しているVtuberさんのことだ。
それぞれにメリットとデメリットがあるらしいが、そんなのは俺の知るところでは無いし知る必要も無いことだろう。
なんてことを考えながら他のVtuberさんのことを検索しようとしたところで…
『♪』
メッセージが来た。
『露那』
「…はぁ」
ここ数日だけで一体何回露那からメッセージが飛んで来るんだ。
…いや、回数はそんなに来てないんだが、一回一回のメール内容が考えさせられるからたまには休暇というものが欲しい。
などと思いながら無視をするわけにはいかないので結局メッセージを開く。
そこに書かれている文章は…
『浮気しようとしてる?』
「…は!?」
なっ…どういうことだ?
今は優那ちゃんが配信を休むと言っていたから他のVtuberの人を検索しようとしていただけで露那とは全く関係ない。
ということを露那が知る由も無いはずだ。
俺はすぐに思っていることを返信する。
『どういうことだ?俺は浮気なんてしようとしてない』
と返信すると、少し間を開けて…
『ん〜、そうなの?そうだよね〜、ん〜。わかった!ごめんねっ!』
今回は珍しく露那から折れてくれた。
熱でもあるのかと疑うほど…いや氷柱でも降っているんじゃ無いかと疑うレベルに珍しいことだ。
その露那からの返信の後、またも通知音がなった。
その通知先は…
「えっ!?優那ちゃん!?」
俺は声をあげるよりも先に通知先へと通じる通知画面をタップしていた。
こんな短時間に連続でツイートするなんて珍しいな…と思いつつ、開かれた画面を見る。
『私が居ないからって推し変 ダメ 絶対!君に言ってるんだからね?分かってる?分かってるよね?君だよ?君!!』
こんなことをツイートされたら、大抵の優那ちゃんファンはイチコロだろう。
無論、俺も例外では無い。
…それにしても優那ちゃんは彼氏がいるのにこんなことをツイートしても大丈夫なん…って、ファンがVtuberのリアルに干渉するのは禁句だったな。
俺は改めて自分のVtuberファン経験の浅さに気づき、反省する。
それにしても…なぜか。
このツイートの『君』という部分、当然それを見た人全員が自分だと思えるような文章にするために書いてるんだろうけど…
なぜだか少し背筋がゾッとした。
「…気のせい、だよな」
俺は何か見えないものが感じたが、見えないものを気にしていても仕方がないというポジティブ思考に変換し、すぐにこれからどうするかを考える。
…別に優那ちゃんが言ってるみたいに推し変をしようとまでは思ってなかった。
ただちょっと時間潰しに他の人を見ようと思ってただけだけど…
「その小さなことでも優那ちゃんにとっては推し変になってしまうんだろうか」
だとするなら俺は優那ちゃんを裏切るようなことはしたくない…
…どうするか。
俺が玄関で数分間これからどうするかを考えていた。
するとドアの鍵が開く音がした。
「えっ!?」
深く考え事をしていた俺はそれだけで驚いてしまう。
ドアが開いて見えた姿は…
「奏方…?こんなところで何をしているのですか?」
「あっ…姉さん」
そうか…まぁ確かにそろそろ姉さんが帰ってきてもおかしくない時間だ。
「別に何も…」
「…ん、スマートフォンをこんなところで見ていたのですか?」
姉さんは俺が右手に持っていたスマホを見ながら言った。
「た、たまたま持ってただけだって…」
姉さんはその辺のことにはたまに厳しかったりする。
「…こんなところでずっとスマートフォンを見ていたほど熱中しているわけではありませんね?」
「も、もちろん」
俺がそう答えた瞬間に、俺が右手に持っていたスマホが無くなっていた。
「あれ…?」
「これは今日の間だけ没収です」
「えぇ…!」
そんな…さっきまで俺が深く考え込んでたのは一体なんだったんだ。
いや、でもまだパソコンが…
「今日奏方は姉と一緒に居てもらいます」
打開案を考えたが、しっかりとその打開案も潰されてしまう。
…姉さんの言う通り、今日は大人しく姉さんと一緒に過ごすことにした。
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