姉と将来の話
その後姉さんと一緒にリビングに行き制服のまま二人でソファーに腰を掛けた。
姉さんは俺のことをまだ小学生の子供とでも思っているように撫でたり抱きついたりを繰り返している。
「…ね、姉さん」
「なんですか〜?奏方〜」
姉さんの顔と声が完全に緩みきっているが、俺はそれを無視する。
「そ、そろそろ彼氏とか作ったりは…?」
姉さんは生まれてから十七年間、一度も彼氏を作ったことがないと言う。
モテていないわけではない。
むしろ男女問わずモテまくっているのに彼氏を作らないというリアルにこんな人がいるのかと驚くような人物なのだ。
「かれし…?あぁ、恋人の俗称ですか…そんなもの必要ありませんよ」
「必要無いって…」
高校生で恋人に興味が無い…人はいるだろうけど必要無いと心の底から断言できてしまう人が果たしてこの世にどれだけいるだろうか。
「私には奏方がいますから…それだけで十分ですよ」
…もうここまで行動と言葉で示されてしまったら認める他無い。
姉さんは…ブラコンだと。
日頃から良くしてもらってる生活面でも全部姉さんが色々と対応してくれてたりして本当に感謝しても仕切れない人にこんな言い方をするのは良く無いことなのかもしれない。
それでも姉さんは重度のブラコンであることは認めるしかない…
「俺がって…仮に俺が将来結婚したらどうするんだ?」
なんて、まだまだ先の話をたらればでしてみる。
まぁ将来の話もたまには良いだ……
「奏…方…が…結婚…!?」
「…え?」
「結婚!?結婚してしまうのですか!?奏方!」
姉さんが俺の肩を揺さぶってすごい勢いで聞いてくる。
「姉さん!?落ち着いて…!別にまだ結婚とかしないから…!」
「…そう、ですね」
姉さんは落ち着いたのか、すぐに俺の肩から手を離した。
「…でも、奏方ももう高校二年生ですか」
姉さんとは一歳しか変わらないのにそんな感慨深そうに言われてもな…
「いつかは私の元を去っていくのでしょうね…」
姉さんはどこか寂しそうに言う。
これに対して俺は何も言うことができない。
その発言を肯定することもする必要は無いことだし、否定したら否定したらでいつまでも成長できない人間になってしまう。
だからここは静観が正解だ。
「…姉は進める気がしません」
「…え?進める気…?」
「勉学や運動等の見えるものはそれなりにこなしてきたつもりですが」
学年一位を取ってるのにそれなりで済ませるあたり本当に自己評価が低い。
「どうしても、奏方から離れるというところからは前に進める気がしません」
「……」
「それには勉学のように教科書も無く、運動のように誰か先駆者がいるわけでもありません…つまりどうすればいいかという答えを知る術がないのです」
姉さんは壮大なことを語り始めた。
俺からすると勉強と運動ができればそれだけで良い、と思ってしまうがそれはあくまでも持たざる者の視点であって持っている側の姉さんに言わせるとそうでもないらしい。
「…姉さんは将来何かしたいこととかは?」
「したいこと…?」
「結婚とか…」
「奏方とですか?」
「なんで俺と!?俺と姉さんは兄妹だろ!?」
本当に天然でそう言うことを言われるのは心臓に悪いな。
「別に法律的に結婚しなくても、気持ちが結ばれていれば良いじゃないですか」
姉さんは小さな声でそう言いながら俺の方に頭を置いてきた。
…え?冗談…だよな?
「ま、また子供だと思って俺をからかって…」
「……」
…え?なんだその沈黙は。
もしかして…
…そんなわけないよな。
「あ、奏方、行きたい大学などはもう決まっていますか?」
将来の話繋がりなのか、姉さんがそんなことを聞いてきた。
数ヶ月に一回ぐらいそんなことを聞かれる。
「ま、まだ…」
「…そろそろ決めないといけませんね、姉の願望は姉と同じところに来て欲しいですが…もし奏方が行きたい大学が決まらなければ、姉と同じところに来てもらいますよ」
と言うかなり脅しなことを言ってくる。
何が脅しなのか、別に姉さんと一緒のところに通うのは全くもって嫌じゃない。
…だが、姉さんが行く大学ともなれば絶対に頭の良い所になるだろう。
俺の学力は…教科ごとに偏って入るけど良く見積もっても中の上。
そんな俺が学年一位の姉さんと同じ所に通うとなれば…当然姉さん監修の元毎日最低でも五時間以上の勉強会が開かれることになるだろう。
つまり早く自分の行きたい大学を決めなければ、三年生からは勉強漬けですよ、と言うことだ。
「ちゃ、ちゃんと決める…」
「…そうですか」
姉さんはまたも寂しそうな声を出した。
「…奏方」
「…はい」
俺は寂しそうな声を出されて少し気まずいため、堅苦しい返答になってしまう。
「今晩は姉と一緒にお風呂に入りましょうか」
「はい…はい?…はい!?」
「そんなに驚くことですか?兄妹水入らずと言うじゃないですか」
「俺にそんな教養は無い!」
「奏方は小さなことで
「小さくない!」
プロの芸人さんでも全てを捌き切れるかは怪しいほどツッコミポイントを用意してくる姉さんを前に、俺はただただ声をあげることしかできない。
「…はぁ、わかりました、では姉はご飯を作ってきますから、ここで待っていてください」
姉さんはソファーから立ち上がり、キッチンに向かおうとする。
「ちょっと待った!」
が、俺はそれに待ったをかける。
「せっかくだし、今日ぐらいは姉さんの料理を手伝わて欲しいななんて…」
俺はちょっとバツが悪い雰囲気で言う。
手伝わせて欲しいなんて言っても、当然今まで姉さんに料理を任せてきてる身だ、料理スキルなんて全くと言って言い程無い。
「か、奏方…!」
姉さんは俺の手を取り、言う。
「是非、ですが…怪我には気をつけてくださいね、奏方はドジですから」
「だ、大丈夫だって…」
そんなことを確認された後、二人でキッチンに向かった。
因みに俺はドジでは無い。
決してはドジでは無い…!
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