優那ちゃんの変化

 学校から帰宅し、ご飯を食べお風呂に入り歯を磨いたところで俺は優那ちゃんの配信待機画面でスタンバイしていた。

 今日は二十二時からの配信のため、予めいつ寝落ちしてしまっても大丈夫なように準備は万全に整えておいた。

 そして二十二時ちょうどに、明るい音楽が流れ始め…


「こんにちはー!今日も運命の人に見つけてもらうために配信を始めたいと思いますー!!」


 恒例の挨拶から始まった。

 今日の配信のタイトルは『近況報告!』というタイトルだった。

 きっと優那ちゃんの身の回りのことを色々と話してくれるんだろう。

 非常に楽しみだ。


「今日はものすごくいいことがあったから〜!ここ最近で一番テンション高いです〜!!」


 確かに俺が優那ちゃんを推してから見る限り今までで一番テンションが高い。

 と言うか、俺と露那が別れた少し後に優那ちゃんはデビューして、俺はデビューちょっと後から優那ちゃんを推していて過去のアーカイブもしっかり全て見ている。

 つまり何が言いたいのかと言うと、優那ちゃんはデビューしてから今が一番テンションが高いことがわかると言うことだ。


「今日ね〜!喧嘩中?って言ったらいいのか、前も言葉選び実は悩んだんだけど、彼がなんか私に対して今怒ってて全然会ってすらくれなかったんだけど、ようやく会えたの〜!」


 コメント欄ではこの前優那ちゃんが脅しをかけてるから暴言とまでは行かなくともその彼氏に対する不信感を表すコメントが多かった。

 俺としては他人の色恋沙汰に色々と口出しするのは何も生み出さないと考えているため、ただただ優那ちゃんが幸せそうであることに嬉しく思う。

 テンションが高くなりすぎてコメント欄が見えていないのか、優那ちゃんは特に何も気に留めることなく続ける。


「でねでねっ!私のことちょっと嫌がってるかなって思ったら、私のことほとんど好きって言ってくれたの〜!」


 それは良かった。


「でも〜?一部好きになれないとかなんとかって言ってまだちょっとだけ喧嘩?中みたいな感じなんだけど〜、多分彼の本心的には私のこと好きって伝えたかったんだと思うんだ〜!そうじゃないとわざわざほとんど好きなんて言わないよね〜!」


 …それはどうだろうか。

 確かに優那ちゃんの見解は普通なら正しいだろう…が。

 今日の俺と露那のようなケースなら、もしかしたらその彼氏が気を遣ってほとんど好きと言った可能性もある、実際俺がそうしたように。

 まぁ俺が露那の一部だけが嫌いっていうのは本音だが、色々なケースが考えられるため、今優那ちゃんが言ったケース以外も存在するだろう。

 優那ちゃんには関係の無い世界の話かもしれないけどな。


「はぁ〜、明日も彼に会えるんだ〜!朝迎えに行っちゃおっかな?」


 コメント欄では『羨ましい…』や『俺も迎えに来て〜』などと言ったもしかすると一部の人が引いてしまうような状況になっていた。

 優那ちゃんに迎えられるなんて、その彼氏はなんて幸せ者なんだろうか。

 その後も優那ちゃんによる惚気話は一時間ほど続き…

 

「…あっ!今日はもう夜も遅いから、このぐらいで終わろうと思いまーす!お疲れさまでしたー!」


 優那ちゃんがそう言うと、配信画面にはエンディング映像が流れ始めた。


「はぁ〜…」


 俺は今日もしっかりと癒されたところで、そろそろ眠たくなってきたし寝よう…そう思い、スマホの画面を閉じようとしたが…

 スマホ画面に『露那』からメッセージが届いていると出たため、それだけ眠る前に見ることにした。

 …優那ちゃんのちょうど配信終わりに、間が良いな。

 メール内容は…


『奏くん奏くんっ!明日朝迎えに行ってもいいかな?』


 というものだった…が。


『ちょっと待て、迎えに行くって…俺の家にか?』


『うん?そうだよ?』


 そうだよ?そんな軽々しく言っていいことか。

 俺は俺の家の住所を露那に話した覚えは一切ないし、姉さんが今日露那と会ってわざわざ住所を教えたなんてことはもっとあり得ないだろう。

 …これは原因究明が必要だな。


『なんで俺の住所を知ってるんだ?』


『それを今更聞くの?奏くんの学校に転校してくるなんて、奏くんの住所ぐらい最低でも知っとかないとできない芸当だよ?』


 確かにそれはそうだ。

 …それはそうなんだけど…


『俺が聞きたいのは、どうやって俺の住所を知ったのかってところだ』


『あ、そんなこと?そんなのちょちょいのちょいだよ〜』


 そんな軽いノリで住所特定なんてされてたらこの国は法治国家としての役割を損なってる。

 こんなの出すところに出したら普通に犯罪なんじゃないのか?

 …今更そんなことを言っても意味ないか、それなら軟禁とかだって立派な犯罪になるだろうし。


『で、明日お迎えに行っても良い?』


 この家に住んでるのが俺だけならもしかすると頷いたかもしれないけど姉さんと一緒に住んでいる以上、もしかしたら何か姉さんの迷惑になるようなことが起こるかもしれない。

 そう考えると…


『ダメだ』


『ありがとっ!じゃあ明日迎えに行くねっ!』


 …え?


『え?』


 俺が心の中で疑問を感じていると、露那からもなぜかチャットでメールとして疑問の声が送られてきた。


『え?じゃない、それはこっちのセリフだ!』


 俺は至極当然のことを返信する。


『奏くんが承諾してくれることを前提にメッセージ準備してたのに…』


 そういうことか…

 なぜかわからないけどちょっとだけ罪悪感が芽生えて来た…

 これは良くない流れだ。


『…とにかく、迎えには来ないでくれ』


『え〜…』


 文面からも露那が残念そうにしていることが分かる。

 申し訳ないことをしている気はするが、これも後々面倒なことにならないためだ。


『…あっ!待ち合わせとかして一緒に登校するのは〜?』


 待ち合わせ…この様子だとここで断ったら次もまた妙案を出されそうだし…承諾しておこう。


『わかった』


『やった〜!なら、えっと…奏くんの家の近くにあるコンビニでどうかな?』


 俺の家の近くのコンビニと言えば一つしかないし、待ち合わせ場所としては申し分無いんだが…

 当然のように俺の家を知られているのがちょっと気味が悪いな。


『わかった、七時何分ぐらいに待ち合わせしたいとかあったら教えてくれ』


『何分でも良いよ!奏くんに合わせるからっ!!』


 とのことなのでここは遠慮なく俺の希望を伝え…


『うん、わかった!じゃあまた明日っ!』


 そのメッセージを皮切りに、俺もそろそろ眠たくなって来たため、スマホを充電してからベッドに体を預けることにした。

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