コンビニ前の出来事
朝起きてリビングに行くと、深刻な表層をした姉さんが椅子に座っていた。
「姉さん…?」
「奏方…」
声音からも分かるとおり、どうやら何かしらの理由で落ち込んでいるらしい。
姉さんにはいつもお世話になっているし、俺に何か手伝えることがないか聞いてみよう。
「姉は今酷く落ち込んでいます」
それは見るだけで分かる。
「理由は…昨日と同じく、奏方と共に登校できないからです」
それが理由なのか…
「もし姉の仕事速度がもっと早ければきっと昨日で全ての仕事を終わらせられたはず…無念で仕方ありません」
「いやいや!姉さんですら一日で終えられないような仕事を一日で終わらせるなんて多分誰にも無理だからそんなに落ち込まなくても…」
姉さんはそ様々な方面で潤沢に対応する力を持っている。
だからもし姉さんにも片付けられないようなことがあったなら、それはきっと誰にも…少なくとも高校生にはできないことだろう。
こんなことを言うとシスコンだと思われてしまうかもしれないが、これはただの事実である。
「うっ…奏方は優しいのですね…その奏方の優しさに誓い、今日で絶対に仕事を終わらせてみせます!待っていてくださいね」
「わ、わかった」
「…あ、あと奏方のクラスに転校生が来たと思いますが、その方とも仲良くしてあげてくださいね」
「あ〜、あぁ」
「それと、もし困っている一年生が居たら手を差し伸べてあげてくださいね」
「わかった!わかったから!」
姉さんは微笑ましい顔でそう残すと、リビングを後にした。
相変わらず姉さんは優しいな。
…転校生、露那のことか…
仲良くどころか元恋人だったなんて姉さんが知ったらきっと失神してしまうだろう。
それにしても…
「一年生、か」
そろそろ高校二年生になったという自覚を持たないとな。
とは言っても、数ヶ月前に転校してきて部活にも入ってない俺が後輩と関わることなんて多分滅多に無いだろうし、頭の片隅ぐらいに留めておこう。
俺は姉さんが作ってくれていたご飯を食べ、鞄を持ち、家を後にした。
「…あっ」
待ち合わせ場所のコンビニに行くと、もうすでに露那はそこに一人立っていた。
俺は真っ直ぐと露那のところに向かう。
「露那、おはよう」
「あっ!奏くんっ!おはよっ!」
俺が朝の挨拶をすると、露那が元気よく返してくれた。
悔しいけどやっぱり異常なことをしていない時は純粋に可愛い。
「じゃっ、学校に……」
「おい」
「…え?」
隣から野太い声が聞こえてきた。
露那の声は透き通るような声のため、これは露那の声で無いことが瞬時にわかる。
となると…?
「兄ちゃん、ちょっと隣の女貸してくれよ」
俺が声のした方を見ると、そこには俺よりも一回り二回りも体の大きい男の人が話しかけてきていた。
第一印象、ガラが悪い。
「えっ…?隣の女…貸す?」
「おう、ちっと遊んだら返してやるから」
俺の右肩にその大きな左手を置いてきた。
今時こんな昭和漫画みたいな人がいるのか…
こういう人種はとにかく怒らせなければいいはず。
「今から学校に登校するので……」
俺が言い分を話し始めてようとしたところで…
「あぁ!?んなもんテメェ一人で行け!!」
突如キレ始めた。
…なんなんだこの人は、やっぱり同じ言語だからって考え方までが通じるとは考えるのはやめたほうがいいな、言語統制の弊害だ。
とはいえ、ここはちゃんと法律がある国だ。
「僕たちも急がないといけないので、これ以上何かされるようなら警察を呼ばないといけなく……」
「あぁ?ふざけてんなよ?サツ?呼んでみろよ、テメェの女も自分で守れねぇ雑魚が」
ダメだ、これは会話できない人種だ。
…そうだ、警察を呼ぶ前に、さっきからずっと黙ってる露那の様子を見よう。
やっぱりいくら露那と言えど、高校生の女の子、こんな自分よりも大きく、ガラの悪い男がいきなり自分に用事があるなんて言ってきたら、怖くて黙り込んでしまうのも無理は無……
「奏くん、警察なんて呼ばなくて良いよ」
「え?」
俺は隣の露那の方に振り返……
「私が今すぐ解決してあげるから」
「っ!?」
表情は冷静なまでも、目つきが完全に今にも人を殺しそうな目つきをしている。
こ、怖い。
「お?そっちの女は物分かりいいじゃねぇか」
「…やっぱり路地裏とかが都合良いよね」
露那はそう言いながら左手をポケットに入れた。
右手は握り拳を作って震えている。
「そうだなぁ、お?女ぁ、手が震えてるじゃねぇか」
この男も露那の手が震えていることに気づいたらしい。
「そう怖がんな、俺は女には優しいからよぉ、優しくしてやるぜぇ?」
「……」
違う!
確かに状況だけ見れば露那が怯えているように見えるが、実際は怒りで右手に力が入りすぎていてもう我慢の限界が来ているだけだ。
もしこんな状態の露那を人目の無い路地裏なんかに連れて行ったら多分この男は…殺される。
「ちょっと待ってくださ、い」
「あ?まだ邪魔しようってのか」
邪魔じゃなくて俺はあなたの命のことを思って止めようとしてるんだ…!
「そうじゃなくて、その…危ないと思います、よ?」
「あぁ、避妊ならちゃんとしてやるから安心しろよ」
「…奏くん、心配しなくて良いよ、すぐにやってくるから」
「そうだな、やろうぜ?はっはぁ」
男は野太い声で笑う。
なんかちょっと会話が成立してるけど二人のやるの意味は絶対に違うことだけは確かだ。
どうする、このままじゃ…
「…あれ〜?天海〜?」
「…え?」
登校時間が被ったらしく、偶然コンビニの前を通った秋の瀬がこっちに来た。
「やっぱりそうだ〜!天海…と、黒園さんと…誰?」
「これは……」
「お〜お?良いタマ持ってるじゃねぇかぁ、お前も俺と一緒に遊……」
今度は秋の瀬の体に触れようとしたこの男だったが…
「はっ!」
秋の瀬は力強い一声と共に、男を背負い投げした。
…え?
「かはっ」
男は地面に強く打たれ、その衝撃で気絶したらしい。
「…え、秋の瀬?」
「私実は中学まで柔道やってたから…それより、早く警察に電話して!」
「そ、そうだな!」
俺は何がなんだかわからないが、とりあえず警察を呼ぼうとスマホを取り出し、警察の電話番号を打ち込んだ。
「ダメだよ」
が、露那からダメの一声がかかる。
「ダメ…?」
「その男はちゃんと殺さないと」
「黒園さん…?」
「奏くんに私の許可無く触った挙句暴言、それから私のことを奏くん以外の男と性的なことをやらせようとした罪で…ちゃんと殺さないと」
「ううん、殺すんじゃないよ、この人は、ちゃんと法律に則って、罰を受けてもらうの」
普段あんまり真面目、というイメージは無い秋の瀬がここで真剣な表情で真っ当なことを言う。
「…ふんっ、行こっ、奏くん」
「ちょっ…」
露那は正論を言われもうどうでも良くなったのか、俺の手を引いてコンビニ前を後にしようとする。
俺は秋の瀬を一人にするわけにはいかないと思い、振り返るが…
「大丈夫〜!私に任せて〜!」
そこにはいつもの元気な秋の瀬がいたため、俺は露那と共に学校に向かった。
「…あっ」
初めて優那ちゃんにスーパーチャットをするためにプリペイドカードを買おうと思ってたけど…まぁ、また今度で良いか。
そんなことを心に残し、俺は露那と学校に向かった。
道中、少しだけ露那と口論になった。
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