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秋の瀬に連れられやってきたのは、俺たちのクラスの教室だった。
学校行事のことで用事があるってことだから、きっと教室内で完結することなんだろう。
「で、秋の瀬、俺に用事って…?」
純粋な疑問。
別に何か特別な係に割り当てられているわけでもない俺に一体何の用事と言うんだろうか。
「うんっ、その前に一個謝らないといけないんだけど、学校行事のことでって言うのは嘘!」
嘘なのか。
疑問が湧いてわずか数秒で解消されたな。
それなら余計にわからないことがある。
「だったら尚更俺に何のようなんだ?」
いつも話しかけてくれはするけど、それでも個人的にどこかへ出かけるほどの仲の良さではない。
そんな秋の瀬がいきなり俺を呼ぶなんて…一体どんな用事なんだろうか。
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
秋の瀬は何故か得意気に答えた。
俺は内心、俺は最初からそれしか聞いてない、とツッコミを入れる。
「前私が天海に趣味聞いた時、ゲームが好きだって言ってたじゃん?」
確かにそんなことを言った気がする。
「だから、私も人生初のテレビゲームを買ってみたんだ〜」
「人生初!?」
あっ…しまった。
さっきのように何を言われても内心でだけで抑えると決めていたのだが、流石に人生初テレビゲームと言うパワーワードには敵わなかった。
「うん?あ、ゲームが初めてってわけじゃないからね?トランプとかオセロとかこう見えて将棋なんかもやったことあったり……」
「今の会話の論点は!そこじゃ!無い!!」
それにトランプ、オセロ、将棋って…全部アナログゲームだろ。
「デジタルゲームは今までやったこと無かったのか…?」
「うん」
即答。
今の時代、しかもこの国で高校生にもなってデジタルゲームに触れていない人間が存在しているなんて。
…っ!こうしてる場合じゃない!
「誰か!ここに絶滅危惧種が!保護を!!」
俺は高らかに叫ぶ。
「ちょっ、あ、天海!?せっかく人気のないところ来たのに大声出しちゃったら意味ないじゃん!」
「そんなこと言ってる場合か!デジタルゲームをしたことがない女子高生なんて絶滅危惧種以外の何者でもない!知らないのか?法律で絶滅危惧種は保護しないといけないんだ」
「私人間なんだけど…それにもうゲームやったし」
「あっ…」
そうだ、そうだった。
あくまでも今までやったことが無かっただけであってもう秋の瀬はすでにデジタルゲームというものに触れているんだ。
「…初めては遂げられた、か」
「ちょっと!なんか変な意味に聞こえるんですけどっ!」
俺は変に感慨深くなっているところを、秋の瀬の大きな声のツッコミではっと目が覚めた。
「わ、悪かった、デジタルゲームを16年間もやったことが無かったなんて刺激的な麻薬を投与されておかしくなってたらしい」
「う、うん?うんっ!」
秋の瀬は類稀なるコミュニケーション能力で俺に話を合わせるように頷いてくれた。
…人間としての格差を感じさせられる。
「でねっ?色々話は逸れちゃったけど、本題は、今度私の家で一緒にゲームしない?ってこと」
「…え?」
秋の瀬の家で…ゲーム?
「えーっと…は?」
何を言ってるんだ秋の瀬は、頭でも打ったのかもしれない。
俺は秋の瀬の髪の毛を左手で捲り上げて右手で秋の瀬のおでこを触る。
「熱は無いのか…」
「無いよっ!」
頬を赤く染めた秋の瀬は、恥ずかしそうに軽く俺の両手を払った。
「なんでいきなり俺を家になんて誘うんだ…?」
「家に誘うことが目的じゃないからっ!あくまでもゲームをすることが目的なんだからー!」
秋の瀬は声量に制限をかさず大声を出した。
さっき俺が大声を出した件について制するようなことを言っていたが、今はそれが秋の瀬自身に刺さってるな。
「わ、わかった、言い方を変える…なんでいきなり俺とゲームをしたいなんて思ったんだ?」
「なんとなく」
「なんとなくっ!?」
今日は本当に色々と想定外のことばかり起きる日だ。
露那が転校してきて復縁の条件とかも決めておまけに秋の瀬に家…ゲームに誘われるなんて。
今時の女子はこんなにも簡単に男子を自分の家にあげるものなのか?それともこれがいわゆる陽キャのノリというやつなのだろうか。
「別に良いじゃんっ!遊ぼうよっ」
秋の瀬に両手を握られて頼み込まれてしまう。
っ…こう言うのを無意識でしてくるあたりずるいな。
こんなことをされてしまったら…
「わかった、わかったって、だからその…離してくれ」
「ぁ…」
秋の瀬はやはり自分でも手を握っていることに気づいていなかったらしく、焦って手を離してくれた。
秋の瀬は咳払いを入れてから話す。
「じゃあ、連絡先交換しない?」
「連絡先…?悪い、俺は露那……」
じゃない、そうじゃない。
一応少なくとも今は露那とは恋人じゃないんだ、露那に気を使う必要なんて全くないはずだ。
「わかった、交換しよう」
二人でスマホを振動させ、友達登録を行なった。
「うんっ、ありがと!日程はおいおい連絡するからっ!」
「あぁ、わかった、じゃあ」
俺は階段へと続く廊下を、背中に視線を感じながら歩いて行く。
階段を降り始めると、もう背中に視線は感じなかった。
「…なんとなくなわけないじゃんっ!あぁ、ばかっ!天海のばかっ!あぁぁ、おでこ触られちゃったし手も握っちゃったぁぁ…もう〜!」
階段の一番下についた時に、秋の瀬の叫び声だけが反響して聞こえてきた。
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